住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、音楽と一緒に歩いた青春時代の話。各界で活躍する同世代の女性と一緒に、“あのころ”を振り返ってみましょうーー。

「高校生のときにウォークマンを買ってもらってからは、オリジナルテープ作りが楽しくて! できあがったテープは友達と貸し借りするのですが、どんな選曲をしているかでセンスも問われるので、かなり真剣でした」

こう語るのは、女優の加藤貴子さん(51)。

「’80年代、私は10代。まさに思春期を過ごした時代です。テレビにも映画にも雑誌にも、すべて勢いがあって、そこから得られるアイドルや音楽の情報はエネルギッシュで刺激的でした」

そんな加藤さんが生まれ育ったのは、現在の静岡市清水区。

「昔は“清水市”で、私の5歳上の姉は漫画家のさくらももこさんと高校時代、同級生。なので、『ちびまる子ちゃん』の世界そのまま。原っぱで夕方まで遊んでいると『ご飯だよー』という、母の大きな声が聞こえるような、のほほんとした田舎町が私の原風景です」

小学生時代の楽しみは、土曜に『8時だョ!全員集合』(’69~’85年・TBS系)と『Gメン’75』(’75~’82年・TBS系)を続けて見ること。

「でも、『Gメン』の途中で眠くなって、全部見られないことがほとんど。夏休みや年末に親戚の家に遊びに行ったときは、ちょっとエッチな話題も多かった『テレビ三面記事 ウィークエンダー』(’75~’84年・日本テレビ系)の放送時間まで起きて、こっそり見たりしていました」

■当時は学生鞄をお風呂に浸けて、ペラペラにするのがカッコよかった

木曜の『ザ・ベストテン』(’78~’89年・TBS系)も欠かさなかったが、夜9時から始まるため、後半は眠たくなった。

「初めてアルバムを買ってもらったくらい寺尾聰さんの大ファンで、『ルビーの指環』(’81年)のリクエストはがきを書いたりもしたのですが、上位に来るので起きていられないんです。当時、わが家にはまだビデオデッキがなくて、音楽を録音するのは睡魔との闘いでもありました」

テレビから録音すると、必ず雑音が入ってしまうもの。

「急に好きな曲が流れ始めて、慌ててその辺にあったテープで録音したら、お姉ちゃんのもので、『なんで私のを使うの!』って怒られたこともありました」

そんな失敗から、音楽はレコードから録音することに。

「レコード針を落としたときのプツッていう音が好きで。にもかかわらず乱暴に置いてしまうものだから、針をすぐにダメにしていました。今はスマホで簡単に曲が聴けますが、当時は1曲を手元に残すために、すごく苦労して」

小学校の高学年のころには、’80年代初頭に名古屋で火がついた「なめ猫」ブームが全国に広がり、原宿の「竹の子族」出身の沖田浩之さんがデビュー。管理教育への反発から、全国的に学校が荒れて、社会問題化した。

ドラマ化された『今日から俺は!!』(’18年・日本テレビ系)のような世界観が、カッコよかった時代。お風呂で湯船につかりながら、カバンをギュッと抱いて潰して、ペラペラにしたのを学校に持っていくのがはやりましたよね」

中学時代も聴く音楽は、松田聖子やチェッカーズなど『ザ・ベストテン』に登場する曲がメイン。

「卒業のタイミングで斉藤由貴さんの『卒業』(’85年)を聴いて、歌の世界を自分に置き換えてみたりもしました」

■思い出たっぷりのカセットが、数年前まさかの事態に

そして、高校合格のご褒美に買ってもらったのが、ポータブルカセットプレーヤーだ。

「まわりの友達が持っていて、すごくうらやましかったんです。街を歩いたり、公園のベンチに座ったりしながら音楽を聴けることが、当時は本当に画期的で。学生服のポケットにウォークマンを入れて、音楽を聴きながら歩いている男子が、それだけでカッコよく見えたりもしました。私は高校まで通う電車の中で音楽が聴きたくて、それでソニーの白いウォークマンを買ってもらったんです」

放課後、サッちゃんという仲のいい友達と、それぞれテープを持ち寄り、1台のウォークマンで、片方ずつイヤホンを使って聴いたりしたという。

「そのサッちゃんに『こんなアルバムがあるんだよ』と勧められたのが、麗美さんの『“R”』(’84年)。

麗美さんは松任谷正隆さんが手がけ、ユーミンも楽曲を提供してデビューした、沖縄出身のアーティストです。私は『My Sanctuary』(’86年)というアルバムの中の『Just Only You』という曲がとくに好きでした。この歌詞にあるような、夕陽がさす放課後の図書室で憧れの男子が読書している姿をそっと眺めるといった、いわば疑似恋愛をしながら、“これが青春だ”なんて満足していましたね(笑)。大好きな音楽をイヤホンで聴いていると、周囲から遮断されて、自分だけの世界に入り込める。それが心地よかったんです」

高校時代は、ウォークマンで聴くためのオリジナルテープ作りにも没頭した。

「バンドブームだったのでレベッカやBOOWYも入れましたし、『ベストヒットUSA』が人気で、満足に英語がわからないながら、マイケル・ジャクソンやマドンナの曲を集めて作ったりもしました。お気に入りの曲は、間違って上書きしないようにカセット上部のツメを折っておくのですが、どうしてもそのカセットに別の曲を録音したくなったときは、ツメの部分にテープを貼って使いました。いろんなカセットテープが発売されていたけど、私はスケルトンタイプでかわいい色のものが好きでしたね。曲名などを書き込んでカセットケースに入れる『インデックス』も、文房具屋さんによく買いに行っていました」

時間をかけて選曲し、入れる順番に悩み、インデックスにまでこだわったオリジナルテープは、大切な宝物だ。しかしーー。

「かわいいクッキーの缶に入れて、実家の倉庫に保管しておいたのですが、数年前、親に断捨離されていて……。愕然としました」

だが、多感な時期にテープ作りで磨かれた個性は、体にしっかりと刻み込まれているはずだ。

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