《引用・オマージュ・再構築として制作した一部の作品を、権利者の許諾を得ずに投稿・販売してしまったことは事実です》
《しかし、写真そのものをトレースしたことはございません。模写についても盗用の意図はございません》

人気音楽ユニット『YOASOBI』のキービジュアルなどを手がけ、若者を中心に広く支持されているイラストレーター・古塔つみ氏。

しかし現在、苦境に立たされている。

さかのぼること1月28日、YouTuber・コレコレの行ったライブ配信で「写真家らの作品をトレースしたような跡がある」と指摘された古塔氏。その後、ネットを中心に「古塔氏の発表してきた作品には、他者の写真や作品画像をトレースして盗作(パクリ)したようなものが複数ある」という“トレパク騒動”が起った。

そして2月3日、Twitterで古塔氏は冒頭のように声明を発表。さらに《クライアントワークは全てオリジナル作品です》ともつづった。

すると、今度は古塔氏がアパレルブランド『ANARC』のTシャツやパーカーに提供したイラストに対して「著作権侵害では?」との声が上がった。このイラストには、バイクにまたがる女性の姿が。そして、このバイクのデザインが大友克洋氏(67)の人気漫画『AKIRA』に登場する主人公・金田のバイクに酷似しているというのだ。

さらに古塔氏は音楽雑誌を出版する『ロッキング・オン』が手掛けるアパレル商品に、“頭にギターを乗せている女性”のイラストを提供していた。ところが、騒動がキッカケとなり「女性ギタリストがTwitterに投稿した写真を左右反転にして描いたのでは」と疑問視されることに。そして同社は今月15日、古塔氏の手がけたTシャツなどの販売を一時停止。返品も受け付けると発表した。

3日の声明以降、古塔氏は沈黙を貫いている。そんな古塔氏の“トレパク疑惑”について知的財産法を専門とする、著作権のエキスパートである大阪工業大学の大塚理彦教授に話を聞いた。

■著作権の専門家が「ほぼ100%アウト」とする理由

「著作権とは色々な権利の集合体です。AKIRAの件では、その中の翻案権を侵害しているといえるでしょう。

もちろん侵害にあたるかどうかは、裁判所が判断することです。しかし、AKIRAの件はバイクの形だけでなく、バイクに貼られているシールなど細部にわたって一致しています。提訴された場合、ほぼ100%アウトでしょう」

“パクリ”の定義について大塚教授は続ける。

「裁判の言葉では“ある作品を見た上で作ったかもしれない”という可能性のことを依拠性と言います。実際に見たかどうかはご本人にしかわかりませんが、依拠性は証拠がなくても推測で成立します。そのため、あまりにも似すぎている場合、“依拠性がある”と判断されます」

とはいえ、古塔氏の作品を「AKIRAのオマージュ」と言うこともできるのではないだろうか? すると大塚教授は「そこで肝心なのが、引用における明瞭区別性と主従関係性です」といい、こう続ける。

「ネットニュースに例えてみましょう。誰かの言葉を引用して、ネットニュースを制作することがあります。

その際、引用した部分と記事の伝えたい部分が明確に分かれていると、記事の内容が“主”で引用部分が“従”の関係といえます。実は『引用をキッカケにして、本質の異なるものを新たに制作するなら問題ない』と法的に許されているんです。ただし、どこから引用したのかをはっきりと書いておく必要があります。

ただ古塔さんの場合、AKIRAのイラストとの主従関係がよくわかりません。ですからオマージュと言うには難しいと感じます」

また大塚教授は、パクリとオマージュの違いをもう1つ教えてくれた。

「一般論として、敬意があるかどうかで分かれますね。オマージュは、オリジナルの作品に感動して制作されるもの。いっぽうパクリとは、元の作品をただ利用しているだけです。

言い方は厳しいかもしれませんが、古塔さんに対して『自分の作品を作るために他者の作品を利用した』という印象を受ける人もいるのではないでしょうか。主従関係性が明瞭ではないため、他者の著作物への敬意を感じることが難しいのです。そのため、オマージュではなくパクリと認識されても仕方がありません」

■肖像権侵害の可能性も…古塔氏が“真価”を生むには

また大塚教授は、『ロッキング・オン』の件について「これは肖像権の侵害にあたるかもしれません」と指摘する。

「誰でもするような、ありふれたポーズならば問題ありません。

ポーズそのものにオリジナリティがないためです。ただ、『ロッキング・オン』に提供したイラストのポーズを“よくあるもの”とするのは少々苦しい。それに女性の髪型も左右反転にしただけで、ほぼ一緒に見えます。

肖像権とは、自分の姿がみだりに複製されることから守るための権利です。トレースして制作していたならば、被写体である人物の肖像権の侵害にあたります」

さらに、大塚教授は「人物写真は撮影したカメラマンの著作物です。写真をトレースして作品を制作していた場合、著作権の侵害となります」と明かした。

今のところ、古塔氏が訴えられたという情報を目にしない。しかし、大塚教授は「だからいい、というわけでもない」と続ける。

「こういった事例が次々明るみになると、“パクリ疑惑”で実際に訴訟を起こされた際、『他人の作品を勝手に使う傾向のある人』と裁判官は考えるでしょう。そういう心証があると、裁判が不利な方向に進むこともあります。

何より一連の騒動で、これから古塔さんは険しい道のりを歩むことになるでしょう。裁判になっていないとはいえ、作風や制作方法を一新しないとクライアントもオファーしづらいですからね」

そして大塚教授は、こう結ぶ。

「これまで古塔さんは、多くの人々を惹きつける作品を作ってきました。もしトレースして制作していたのならば、『ベースになる写真の選び方が上手い』といえるのかもしれません。これもまた、一つの才能です。

著作権法上ではトレースする場合、作品を“新たな創作”といえるレベルにまで到達させる必要があります。ですから、古塔さんは本当の意味で“新たな作品”を作り上げることが課題といえます。

見事達成できれば、その時、クリエイターとしての真価が生まれるのかもしれません。イラストレーターを続けていくのなら、これからが“本当の修行”でしょうね」

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