12月21日、がん性腹膜炎のため、60歳で亡くなった高見知佳さん。
『くちびるヌード』を大ヒットさせた’84年、21歳のころ、高見さんは『女性自身』にて、各界で活躍する著名人との対談連載「高見知佳の“カッフ~ン”チャレンジ対談」を行っていた。
その第6回(’84年5月掲載)となる、赤塚不二夫さん(当時48歳)との対談の模様を紹介する。
――今回のゲストは漫画家の赤塚不二夫さんと、ネコの菊千代。主従関係が、ともすれば逆転しがちなふたり(?)に、赤塚さんは思わず、「僕が主役だニャ~」
高見知佳さん(以下、高見)「菊千代がここへ来て、もうどれくらいになります?」
赤塚不二夫さん(以下、赤塚)「もうかれこれ6年になるんじゃないかな」
高見「しかし、大きいですねえ」
赤塚「大きいだろう。バンザイすると、しっぽの先から前足の先まで1メートルあるの。で、体重が7キロあるわけ」
高見「なんか風格がありますよね」
赤塚「外見はそうでもドジなやつでね。そもそもバンザイをするというのはおなかを見せることでしょ。ふつう野生の動物は絶対にそういうことをしないのね」
高見「だいたい動物の世界では、相手におなかを見せるのはマイッタとか、降参とかそういう意味があるみたいですね」
赤塚「そうなんだ。つまり、バンザイというのは、僕にはかなわない、という意思表示をしているわけだよ」
高見「でも、かわいいじゃないですか」
赤塚「かわいいというよりバカだね」
高見「菊千代って、自分をネコだと思っています? それとも人間だと思っています?」
赤塚「そりゃネコだよ。人間だと思われたらたまらん」
高見「ハッハハハ」
■「ネコとうまくつきあうには、ネコかわいがりしないこと」
高見「たとえば、ネコと上手につきあうコツみたいなものってあります?」
赤塚「ネコに限らず、俗に言うペットを、みんなはそれこそネコかわいがりするだろ。ところが僕は、ぜんぜんそういうことをしない。悪いことをしたら、そばにいても知らんぷりしている」
高見「……ああ」
赤塚「つまり、ネコと飼い主が同居しているけれど、要するに餌を与える以外は、抱いたりとか、かわいがったりとかは一切しない。もう野生のまんま飼っているの」
高見「ネコにも自由を与えているわけだ」
赤塚「だから、うちのお勝手のドアには穴があけてあるんだけど、アイツは、そこから勝手に出たり入ったりしているわけさ。
高見「つまり、先生は菊千代の人格……じゃない“ニャン格”を誰よりも認めているんだ」
赤塚「僕は、そういうかわいがり方もあると思うのね」
高見「私も同感ですね。人間の子供もそうですけど、過度の愛情は、迷惑すると思いますよ」
赤塚「そうなんだよ。部屋のなかにとじ込めてね、リボンをしたり、美容院へ連れていくとか、そういうことって、不必要なのね」
高見「結局、ああいうのって一種の飼い主の見栄なんですよ」
赤塚「とにかく、自然に飼わなきゃ動物じゃないんだよ。だからバンザイでもなんでも、別に仕込んだわけじゃないんだ。でも……あのバンザイのおかげで、1年間に400万円稼いだよ」
高見「ハッハハハ、すごい!」
赤塚「テレビのコマーシャルに2本出たんだよ、去年」
高見「そういえば、国鉄のコマーシャルやってましたね」
赤塚「実は、あのときの出演料が、アイツが150万で俺が50万なんだよ。バカにしてるよな」
高見「アッハハハ」
■「じゃ、とりあえず、先生と私が、ただいま恋愛中なんて(笑)」
高見「ところで、最近は、どういう遊びをしているんですか」
赤塚「まず、去年(’83年)の12月に“研ナオコファンクラブ”を作ってね」
高見「ええ、ええ」
赤塚「これは、マジで、冗談で、マジなんだよな。それでバッジから、名入りのおそろいのジャンパーまで作って、サロンバスを一台仕立てて、なんと平均年齢40ぐらいのオッサンばかり25人乗って、浜松の“研ナオコショー”へだね……、そこへ、ペンライトを持ってみんなで行って振ったんだよ」
高見「ハッハハハ」
赤塚「で、浜松で一泊して、その翌日、研ナオコの生家まで行って、その前でみんなで記念撮影して帰ってきたんだよな。それで、こんどファンクラブの会報を出すの」
高見「もう、冗談もやるなら徹底してやるわけですね。やっぱり、ひょっとしたら本当じゃないか……って部分がないと、冗談も本当におもしろくはないですよね」
赤塚「そういう意味では、“榎本三恵子(ロッキード事件で検察側の証人として重要な証言をした、田中角栄元首相の秘書官の元妻。『ハチの一刺し』として当時、流行語になった)妊娠事件”というのをデッチ上げたんだよ」
高見「はい、はい、あれは、実に楽しかったですよ。いかにも、あり得るって感じで」
赤塚「あれはハチ(榎本三恵子さん)と僕と、編集者の3人で酒を飲みながら、なにかをやろうよってことになってね。で、俺、榎本三恵子ってエライというか、すごいシャレのわかる女だな、と思ったのは、『ハチが(赤塚さんの子供を)妊娠したことにしようぜ』と言ったら、『いいわよ』って言うんだよ。
高見「うーむ……」
赤塚「だって、『おい、知佳。おまえ妊娠したことにしろよな』って言われたらどうする?」
高見「その場合、私が『いいわよ』と言っても、まず事務所がとめるでしょうね」
赤塚「事務所はともかく、知佳自身はどうなの?」
高見「私自身は、そういうのをやりたいですよ」
赤塚「あ、そう。俺、そういうセンスは、すごくおもしろいと思うよ。で、俺と榎本三恵子が“どうしよう、困ったな”という顔をした写真入りで記事にしたの。そうしたら、本が出た次の日から、テレビとかがワッサワッサと来てね。俺も、神妙な顔をして『もし彼女が妊娠しているなら、僕は認知します』って言ってさ」
高見「ハッハハハ。でも、そういうのっていいね」
赤塚「これは冗談としてはおもしろいよ」
高見「もう最高だと思う。でも、日本の場合、そういう冗談って、冗談にもほどがあるって感じに受け取られることって多いでしょう」
赤塚「これは、国民性というか、ユーモア度が少ないのね」
高見「この先計画している冗談とかいたずらってあります?」
赤塚「具体的にはないけれど単なるいたずら電話とかじゃなくて、さっきのハチの話みたいに、大仕掛けのいたずらっておもしろいよね。僕は、人を楽しませるユーモアっていちばん大事なことだと思うのね」
高見「じゃ、とりあえず、先生と私が、ただいま恋愛中なんて話を――(笑)」
赤塚「それなら、マジでいきたいよ」
赤塚不二夫さんのブラックジョークにも臆することのない高見さん。
10代の半ばからクイズ番組やバラエティ番組に出演し、山城新伍さん、藤村俊二さんといった個性的な面々に囲まれながら、ときに大胆な発言で大人たちの舌を巻かせた、当時のお茶目な姿が偲ばれる。