住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代、夢中になったテレビドラマの話。各界で活躍する同世代の女性と一緒に、“あのころ”を振り返ってみましょうーー。

「今はコロナ禍で中断していますが、『ショムニ』(第1シリーズ、’98年・フジテレビ系)の仲間とは年に1回、居酒屋の個室に集まって、夜遅くまで近況を語り合う同窓会を続けているんです。子どもを連れてくる人もいて、親戚同士の集まりのような感覚。私にとっても思い出深い作品です」

こう語るのは、ドラマ『ショムニ』で、主演・江角マキコのライバルを演じた戸田菜穂さん(48)。

女優として活躍するきっかけは、’90年に出場した、ホリプロタレントスカウトキャラバンだったが、それまで芸能界は遠い世界のものだったという。

「小学生のころは、『ザ・ベストテン』(’78~’89年・TBS系)を欠かさず見ていて、実家の勉強机の引出しには、いまだに松田聖子さんのアナログレコードがしまってあります」

3歳年上のいとこのお姉さんの影響で、シブがき隊のやっくんのファンに。

「地元の広島郵便貯金ホールでシブがき隊のコンサートがあって、『スシ食いねェ!』(’86年)のレコードを買った人はメンバー全員と握手ができるという特典が。自分の順番を、ドキドキしながら待っていたのを思い出します」

中学生のころは塾に行くのが楽しみで、人生でいちばん勉強した時期だった。

「息抜きに見ていたのが、中山美穂さんと後藤久美子さんが共演した『ママはアイドル』(’87年・TBS系)。私と同じ年ということもあって、後藤さんのファンに。『ちょっと、ゴクミに似ているね』と言われてうれしくなり、ヘアカタログを持って美容院に行ったことも。仕上がりは、後藤さんとはだいぶ違う感じでしたが(笑)。芸能界は遠くの世界だと思っていましたが、あこがれはあったのかもしれません」

ホリプロタレントスカウトキャラバンに応募したのは、’90年、高校2年生のとき。

「県立の進学校に通っていたのですが、将来の夢もなく、ただ、“このまま広島にいるのは違う。東京に行きたい”と思っていました。そんなとき、たまたま本屋さんでオーディション雑誌を手に。ちょうどおニャン子クラブがはやっていたころ。普通の高校生の女のコたちがタレント活動をしているのを見て、芸能界が身近に感じられました。とはいえ、オーディションに受かるなんて思えず、心配気味の親には『絶対に受からないから、(親の承諾書の)ハンコを押して』とお願いしました」

■にらみ合うシーンで江角マキコの美しさにうっとり

本人の予想に反し、戸田さんは全国大会まで駒を進めた。

「大阪の花博(国際花と緑の博覧会)が会場で、テレビ中継もされました。“モデル立ち”をしている人もいたけど、私は、ただ突っ立っているだけ。審査員のおすぎさんに『あなた、ちょっと暗いところがあるの、わかっているの』って言われたり(笑)。さすがにこれはダメだなとあきらめていたのですが、舞台裏で審査員の千葉真一さんに『今度、共演しましょうね』と言われて。まさかと思ったのですが、グランプリに選ばれました」

文系・理系の進路すら決めていなかった戸田さんが、いきなり芸能界に進むことになった。

「自分の立っている地面がガラガラと回って、違う世界に行ったような感覚。

高校3年の夏休みから上京し、17歳でデビューしましたが、演技の勉強なんてまったくしていなかったから、リハーサル室でよく泣いていました」

ドラマ初主演作は、林真理子原作の『葡萄が目にしみる』(’91年・フジテレビ系)。

「『こんなダサいコ、見たことない!』と言われるほど、素人が撮影現場に紛れ込んだよう。喫茶店でストローの袋の紙をどう扱うのかというような、細かなことまで演技指導を受けました」

田中裕子が出演した『家族の肖像』(’93年・TBS系)などの向田邦子作品が演技の教材だった。

「向田さんの物語は、日常生活を丁寧に描きながら、母親がふと見せる“女の顔”など、男女の機微や情念みたいなものを表現しています。“いつか向田作品に出てみたい”という夢を抱いていました」

その夢も『言うなかれ、君よ別れを』(’96年・TBS系)でかなえ、正統派女優としてステップアップしていった。

そんななかで、『ショムニ』は異色の作品だったという。

「コメディの作品はあまりやったことがなかったので、刺激的でした。それまでは自然な演技をするように指導されていたのに、コメディはオーバーな演技が求められます。バラの花をくわえてカルメンを踊ったのは、かなり恥ずかしかった……」

女性の社会進出がうたわれる一方で、女性が責任ある仕事を任されることが少なかった時代。ショムニのメンバーが活躍する姿に、視聴者が声援を送った。

「毎回のように、おちこぼれOLが集まるショムニ(庶務二課)を仕切る江角さんと、秘書課の私が侃々諤々にやり合って、顔がくっつくほど近づいてにらみ合うシーンがあるんです。赤面するほど恥ずかしく思いながら“きれいな人だな”とうっとりしていました」

ライバル関係とはいえ、困ったときにはお互い助け合うという友情が描かれていることも、ドラマの魅力の一つだった。

「放送が始まるとドラマは話題になり、視聴率は20%を超えていました。撮影現場にも勢いがあって、その熱量が、見てくださる方々にも伝わったのかもしれません」

いまだに若手女優からも「ショムニを見ていました」と言われることが多いほど、戸田さんにとっても思い出深い代表作なのだ。

【PROFILE】

戸田菜穂

’74年、広島県生まれ。ホリプロタレントスカウトキャラバンを経て、’91年に女優デビュー。’93年にはNHK連続テレビ小説『ええにょぼ』でヒロインを務め、全国的な人気女優となった。3月24日公開の映画『ロストケア』、3月30日配信の『君に届け』(Netflix)に出演

編集部おすすめ