あの表情を端緒として、出演作品を重ねるごとに、どんどん表情が洗練されている。毎週日曜日よる9時から放送されている『アンチヒーロー』での無表情は、極めつけ。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、岩田剛典を“鏡の中の人”として捉えながら、本作の無表情を読み解く。
“初めて尽くし”の2024年
「実は、僕、岩田剛典はですね、ラジオのレギュラー番組を持つのは、初めてです」そう語るのは、4月6日から放送が開始された『岩田剛典 サステナ*デイズ supported by 日本製紙クレシア』(TOKYO FM、以下、『岩田剛典 サステナ*デイズ』)で、ラジオDJとしてマイクに向かう岩田剛典だ。
『802 BINGTANG GARDEN』(FM802)3月17日放送回でも一夜限りのラジオDJを担当していたから、これは4月の改編期で新番組がくるかなと予想していたらやっぱり。
「新しいチャレンジにとてもワクワクしております」とも語る岩田にとって、なるほど、2024年は、“初めて尽くし”の年。いいぞ、岩ちゃん、それいけどんどん!
伊藤沙莉主演のNHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』は、朝ドラ初出演作品。
『岩田剛典 サステナ*デイズ』初回放送日は、ちょうどソロでのアリーナツアー『Takanori Iwata LIVE TOUR 2024“ARTLESS”』福岡公演(4月2日、3日)を終えた直後でもある。
プロデュース領域での実践
ツアー開幕前にリリースされた2ndアルバム『ARTLESS』には、エコロジカルなナンバー「螺旋の軌跡」が収録されている。『岩田剛典 サステナ*デイズ』は、番組タイトルが意味するように、エコロジーを考える試みとして持続可能(サステナブル)な番組だ。
岩田がクリエイティブディレクターを務めるシューズブランド「NERD MIND」が、シューズにつけるタグにサステナブル・レザーを使用していることを番組内で解説したり、プロデュース領域での実践にも意気込みを感じる。
いかに映画的な俳優であるか
トビー・フーパー監督によるホラー映画の金字塔『悪魔のいけにえ』(1974年)では、殺人犯の凶器として、ナイフでも拳銃でもチェーンソーでもなく、ハンマーが選ばれている。理由は、ハンマーを振りかざす絵が、他の凶器より格段に映画的な運動感をうむからだ。
『アンチヒーロー』第1話の回想場面では、緋山がハンマーを振りかざすワンショットがある。
初の殺人犯役
証言台に立つ岩田剛典を見て思うのは、恐ろしいくらい無表情であること。台詞はすくない。終始、虚ろな顔。その表情に吸い込まれそうになる。
曲の調子はご機嫌だが、鏡の中に顔が写る短いショットでは、意味ありげな岩田の無表情が際立っていた。温かいような、虚ろであるような。解釈が自由に可能なその表情を見て以来、岩田を“鏡の中の人”だと認識するようになった。
髪色は違うが、『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。
その上で緋山役の虚ろな顔を考えてみると、それは現実の表情というよりは、鏡の中で写るもうひとつの虚の顔ではないかということ。明墨の弁護によって緋山がほんとうに犯人なのかどうか攪乱されつつ、岩田の虚実ないまぜの演技が、真相をさらにわからなくする。
鏡の中の人の能力
『アンチヒーロー』での堂に入った殺人犯役の一方で、シリアスだけじゃないのが岩田のバラエティなところである。4月11日に放送された『櫻井・有吉 THE夜会』(TBS)では、日曜劇場キャストのひとりとして出演し、「ノーリアクション刑事」に挑んだ。ノーリアクション刑事とは、ドラマの撮影現場に張り巡らされたドッキリに対してノーリアクションで演技を続けられるかというもの。
事件現場に入ってくるなり、目を細める。火曜サスペンス劇場では、刑事がだいたいこうやって現場を見渡すが、ここでの岩田は、“火サスマナー”をちゃんと心得て撮影現場にのぞんでいるように思う。
かと思いきや、次々と繰り出されるドッキリには演技を緩めてしまう。笑いのツボを完全にくすぐられてしまったよう。かろうじてノーリアクションを貫けたのは、『アンチヒーロー』の犯人役とは裏腹に、殺人犯を追い詰める刑事役に反転させる鏡の中の人の能力があるから?
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu