<亀山早苗の恋愛時評>

次々と報道される有名人の結婚離婚。その背景にある心理や世相とは? 夫婦関係を長年取材し『夫の不倫がどうしても許せない女たち』(朝日新聞出版)など著書多数の亀山早苗さんが読み解きます。
(以下、亀山さんの寄稿)

古谷徹(70歳)37歳年下女性と不倫

“レジェンド声優”である古谷徹氏(70歳)が「娘と同世代の女性との不倫」で世間を揺るがしている。

 古谷氏といえば、年配の人には「星飛雄馬」としてすぐにわかる声優だろう。児童劇団で芸能活動を始め、芸歴は60年を越え、ずっと第一線で活躍してきた稀有な存在だ。

古谷のファンサービスにはバックハグでの写真撮影、添い寝も

 最近では「名探偵コナン」の安室透というはまり役に出会い、声優人生でもっとも人気を得たキャラクターだと本人も認めていたという。既婚者の彼が、ファンである37歳年下のA子さんに自分からショートメールを送って誘ったのは2019年1月(『週刊文春』5月23日発売号より)。

 ちなみに声優のイベントというのは、ファンの信じられないような熱狂に支えられている。声優はすでにアイドルなのだ。

 古谷氏ももちろん、熱狂的ファンが多く、そんなファンの思いに応えるように、「彼のファンサ(ファンサービス)はすごい」と言われるほどサービスに努めていたようだ。
ふれあいと称したイベントでは、ハグはもちろん、バックハグでの写真撮影、添い寝もあったというから驚く。

 そんな声優への思いを託して、同じ映画を声優応援のために50回、100回と観るファンもいるのだという。熱狂が熱狂を生む世界になっているのだ。

離婚するつもりがない古谷ともめごとが多発、暴力も

 そんな声優から誘われたら、A子さんでなくてもファンなら飛び上がるほどうれしいだろう。憧れの王子様に選ばれた女性になったのだから。

 一方で、冗談交じりであっても「モテたい」と公言していた古谷氏にとっても、「37歳年下のかわいい女性」からモテたら舞い上がるのは当然かもしれない。

 文春報道によれば、メールから1ヶ月後、ふたりは対面。
食事をしてカラオケに行った。そして翌月は映画関連のイベントに出場するため地方にいた古谷氏と、そのイベントに客として参加しようとしたA子さんの間に「関係」が生まれる。

 かくしてふたりはつきあうようになった。ひとり暮らしのA子さんの部屋に、古谷氏は通った。だが、A子さんは思いが募(つの)り、結婚を望んでいたようだ。古谷氏は「好きだ」といいながらも、離婚するつもりはなかった。
ふたりの関係についてはもめごとが多発したようだ。

 そもそも結婚願望のある女性に不倫は向かない。男性も、女性に結婚願望があるかどうかいち早く見抜くことが必要だ。

 だが、このふたりはそんなことも考えず、深みにはまっていったのだろう。そして揉めたときに、古谷氏が彼女に暴力をふるった。文春の取材に対しA子さんは「拳で殴られた」と言い、古谷氏は「平手だ」と違いはあるが、暴力があったことは認めている。


堕胎を要求し「本当にオレの子?」

 この事件が起こったのは古谷氏の別荘だ。別荘に不倫相手を招くとなると、家族にバレてもいいと腹をくくっていたのかと思うが、そういうことではなかったようだ。

 人目につくのを恐れたから別荘になったのか、あるいは自分の私生活的な空間に彼女を招きたかったのか……。人目につかないホテルなどいくらでもあるはずなので、別荘に連れていくとなると、自分はそれだけ彼に近い人間になったと女性側は思うだろう。

 その思いがさらなる情熱を呼び起こすのは自明の理。そのときは警察まで来る騒ぎとなったようだ。

 それでもふたりの関係は続いた。
つきあって2年たったとき、彼女の妊娠が判明する。これは不倫関係にとってはまさに最大の危機である。ここで古谷氏は、最初から堕胎をしてほしいと要求、さらに致命的な言葉を吐く。

「本当にオレの子?」

 これはかなり「ゲスい不倫の枠」にあてはまる言葉である。

「オレが結婚しているのを知っててつきあったんだろ」

 手術後は連絡を取り合わなかったが、しばらくしてまた関係が再開。一緒に映画を観に行ったり、作品の舞台を巡る「聖地巡礼」をしたこともあるというから、ホテルでの密会に終始する関係ではなく、第三者から見てれっきとした「恋愛」だし、本人たちもそう思っていただろう。

 だが最後はやはり「ふたりの関係性」でのもめごとが破局の原因となった。
このときも古谷氏は女性に対して言ってはいけないことを言っている。

「オレが結婚しているのを知っててつきあったんだろ」

 これはただでさえ「後ろめたい」関係を続けている女性を追い込む言葉だ。しょせんはそれが本音だったのかと、A子さんは悔しかったという。結婚しているのを知っていてつきあったとしても、最初は結婚など望んでいなくても気持ちが変わっていくこともある。

 A子さんがどうだったかは不明だが、いずれにしても不倫相手に決して言ってはいけないことを古谷氏は口にしている。

「好きなら一緒にいたい=結婚」「好きだから恋愛していたい」のすれ違い

 だが一方、古谷氏の状況を考えれば、すでに70歳。今さら離婚して結婚するのは、とてつもない気力体力が必要だ。妻に非はない。体面もある。築き上げたものを捨てる気はなかっただろう。

 彼にとってはあくまで「恋愛は恋愛」であって、延長線上に結婚はないのだ。好きなら一緒にいたい、だから結婚したいとまっすぐに考えた女性と、「結婚ときみとの恋愛は別」と考えた古谷氏との間の溝は深い。

 だが古谷氏、文春砲の直撃に堂々と応じ、すべてを認めた。逃げ隠れしなかったところはなかなかの勇気である。家族にも話したと言う。

不倫だからこそ最低限の敬意と誠意は必要

 男女のことは第三者がとやかく言うべきではないが、暴力と中絶要請には「ドン引き」というファンは多い。

 今までもモテてきただろうし、濃厚なファンサを見る限り、女性が大好きなのはよくわかる。だが、危機管理は今ひとつだった。好きだからこそ結婚を迫ってくる女性の、必死になる心が見えていない。もう少し相手への思いやりがあれば、こんなことにはなっていなかったかもしれない。

 たとえ不倫の関係であっても、いや、不倫だからこそ、相手に対して最低限の敬意と誠意は必要なのだ。

<文/亀山早苗>

【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio