生きづらさはあるけれど、夫や行政の助けを借りて明るく育児をできている。この連載では私のように、生きづらさを抱えたまま母になった人にインタビューしていく。
第1弾はライターで元地下アイドルの姫乃たまさん。私と同じ「ひめの」姓で、しかも、私が出産した5日後にたまさんも第一子を出産した。
たまさんは長くうつ病を抱えて生きてきたことを、2026年2月に上梓した新刊『なぜかどこかに帰りたい』(太郎次郎社エディタス)でも綴っている。生きづらさを抱えての妊娠、出産、育児について、たまさんに語ってもらった。
なんとなく「母親と同じ年齢で産めたら」と思っていた
姫乃たま(以下たま):はい。子どもの頃はなんとなく母親と同じ年齢で産めたらいいなと思っていました。でも、うちの母親って私を産んだのが23歳か24歳のときなんです。自分が23歳の頃は結婚もしていなかったし、初の単著を出してまだ1年かそこらで、仕事もこれからという時期だったし、現役の地下アイドルだったので当時は恋愛が許される雰囲気ではありませんでした。具体的に子どもが欲しいと思ったのは夫と結婚してからです。
――不妊治療もされたそうですが、精神疾患がある場合、精神科での治療はどうされましたか?
たま:精神科の主治医が女性の先生なんですが、すごく相性が良いんです。
妊娠中は「不妊治療中の自分」に見られている感覚
たま:夫は30歳年上です。年齢的に気を遣っていたのか、当初夫から「子どもが欲しい」と言われた記憶はありません。不妊治療のクリニックに行ってみようとなったときも、どちらかと言えば私のほうが主導でやっているような感じがしました。
夫はすごく協力してくれるのですが、途中で私だけが子どもが欲しいのではないかと不安になってしまったことがあって。でも、実は夫も楽しみにしていたとわかって足並みを揃えることができました。妊娠するのも産むのも私だから、気軽に楽しみだと言えなかったみたいです。
――私自身、妊娠中はマイナートラブルや体の変化、一人で孤独に赤ちゃんを育てている感じがしてとてもつらかったのですが、たまさんはどうでしたか?
たま:それが、妊娠中は元気だったんです。もちろんいつどうなるかわからない不安は常にありましたが、不妊治療がつらすぎたので、妊娠できたのがすごくうれしくて。でも不妊治療中の自分に見張られている感覚がずっとありました。
つわりでつらいときも、不妊治療中の自分が見たら羨ましいだろうなと思うから、元気でいなきゃいけないという気持ちがあったのかもしれません。だから純粋に元気だったというより、過去の自分に対して緊張して気が張っていた感じです。
産後、精神状態が不安定に
たま:地下アイドルをやっていた頃は痩せなきゃという気持ちが強かったのですが、私はもともと男女問わず体が大きい人が好きなんです。だから、妊娠をして体が大きくなったら、逆に「そうそう、これだよ!」としっくりきました。ちょっと珍しいパターンかもしれません。それと、夫が絶対に体型を茶化したりしないタイプの人なんです。妊娠して変化した体型も「神々しいね」と褒めてくれました。
――産後の精神状態はどうでしたか?
たま:帝王切開から2日後にシャワーを浴びている最中、一瞬ガクッと気持ちが落ちました。その後、私は父親に愛されなかったのではないかとすごく怒りがわいてきたんです。普段のうつ状態のときだったら、そういう思い込みが出てきたら病気の症状だな、安静にしていようと思うのですが、うまく感情を俯瞰できなくなってしまって。
家族のグループLINEに感情をぶつけた結果、父は娘のお七夜(赤ちゃんが生まれて7日目に祝う行事)に来られなかったほどです。
産後は「ゲートを出てもう別のところにいる」
たま:あまり変わっていませんが、書きたいことは変わったかもしれないです。明るく優しいものを書きたくなりました。将来娘が読むかもしれないという考えが常に頭にある感じがします。ずっと死にたいという思いが強かったのですが、妊娠出産を通じて、自分や大切な人、友達が生きてくれていてありがとうという気持ちになりましたね。病気が治ったわけではないのですが、前を向くしかなくなりました。
また、不妊治療をしていた頃の自分にずっと見張られている感覚があったのですが、そのことをボイトレの先生に話したら「もうゲートを出ちゃって今は別のところにいるんだよ」と言われて、「ゲートを出た」という表現がすごく的確で腑に落ちました。
――3か月くらいまでは赤ちゃんのお世話が本当に大変ですよね。精神障害があると特に、お世話で睡眠不足になるのがつらくなかったですか?
たま:3時間おきの授乳がとてもきつかったです。赤ちゃんの泣き声が脳に直接語りかけてくるんですよね。それともともと、ショートスリーパーではないのにほとんど睡眠を取らずに生きてきたので、その睡眠負債がつらくて。
そして、赤ちゃんが可愛い!!!という気持ちと、悲しい!!!という感情が強くぶつかりあっていて、常に感情がデカかったです。
子どもが生きづらさを抱えていたら「居場所を確保してあげたい」
たま:具体的にはないのですが、押し付けることがない親ではありたいと思っています。子どもは自分の所有物ではないので。
――たまさんはお母さんと服の趣味がまったく違いましたよね。
たま:そうなんです。私はフリフリの女の子らしい服が好きだったのに着せてもらえなかった。なるべく子どもの意思を尊重できる親でありたいけど、娘が思春期になったとき、多分私には理解できない何かが流行っていると思います。そういうとき、なるべく自由にさせてあげたいとは思います。
でも、私は自由にさせてもらいすぎたせいで、過去にこれはどうだろうと思うような仕事もしてしまったので、さじ加減が難しいですよね。うまいバランスでやっていける親子であれたらいいなと思います。
あと、夫がすごく娘の面倒を見てくれます。私より面倒を見ているほどです。年齢的にもう孫の感覚なので、メンタルに余裕があるんです。そんな夫と娘のかかわりを見ていると、自分が父にこうしてほしかったという気持ちが強くなって、実親への感情が複雑になってしまいました。
――娘さんが将来、生きづらさを抱えることがあったらどんな声をかけてあげたいですか?
たま:考えるだけでつらいですね。でも、一番は、側にお父さんとお母さんがいるよと伝えてあげたいです。居場所を確保してあげたい。
それと、自分は病気だったからこそ、つらいけれどいろんな人の優しさに触れました。だから、娘もたくさん人の優しさに触れて、人に優しくできる子に育ってほしいし、安心して人のことを信じられる子になってくれたらいいなと思います。
【姫野桂】
フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。
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