獨協大学の研究チームによる創造性をテーマにした新たな脳の研究では、即興演奏をしているロック・ギタリストの脳をスキャンした。
その結果、脳内の「ブローカ野」という、言語処理、及び音声言語などに関わっている運動性言語中枢をつかさどる領域が活発になっていることを発見した。
即興演奏に必要な創造性「創造性」とは、独創的で価値のある新たなアイデアや解決策を生み出す力のことだ。
このような思考の裏には、さまざまな方向へ思考を巡らせ、多彩なアイデアを着想する(こうした思考を「発散的思考」という)ような、複雑な認知プロセスがある。
つまり創造性に溢れる人というのは、普通は結びつかないアイデアとアイデアを結びつけたり、従来の枠組みにとらわれずに考えたり、ルールや常識といったものに挑戦したりすることが得意な人たちだ。
音楽の即興演奏もそんな創造性が存分に発揮されるタイプの演奏だ。
即興演奏をする奏者は、あらかじめ決まったフレーズを弾くのではなく、そのときに閃いた音をその場でリアルタイムに音楽にして表現する。
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photo by Pixabay即興演奏をするとき脳のブローカ野が活性化 では脳科学の視点で見た場合、こうした創造性はどこで生まれているのだろう?
これまでの研究では、こうした独創的な活動を支える基盤が、複数の脳領域にまたがっていることが明らかになっている。
例えば、問題解決や意思決定などを司る「前頭前皮質」、ぼんやりしているときに活発になる「デフォルトモードネットワーク」、創造的思考のヒントになりそうな刺激を選び出す「顕著性ネットワーク」などが代表的なものだ。
また音楽家による即興演奏では、「ブローカ野」やその関連領域が活発になることも知られている。
この領域は「運動性言語中枢」とも呼ばれ、私たちが言葉を話したり理解するときに重要になるところだ。
言葉を話すには唇・舌・ノドを連携させて発音しなければならないが、ブローカ野はこうした運動を司る。そのためここにダメージを受けると、言葉を理解できても、うまく話せなくなることがある。
ブローカ野は私たちが言葉を話したり、理解したりする際に重要となる領域で、ノドや口を動かして言葉を発音させる役割を担っている。
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photo by Pixabayまるで会話するかのように演奏するギタリスト 日本、獨協大学の橘篤導氏らによる今回の研究では、ロックギタリストの即興演奏を調べて、こうした脳内の創造的活動をさらに深掘りしている。
対象となったのは19~63歳までの男性ギタリスト20名だ。
全員がギターの熟練者(3名はプロ)で、実験では脳の血流と酸素濃度を測定するキャップ(fNIRSキャップ)をかぶったまま、即興演奏とあらかじめ決められたブルース・ロックのフレーズを弾いた。
その結果、即興演奏ではブロードマンの脳地図でいう「45野」とその関連領域が活発になる一方、一般的なコード進行・リフ・ソロを繰り返す定型的な演奏ではこうした変化がないことがわかった。
ブロードマン45野はブローカ野の一部を構成しており、言語の発声や理解に不可欠とされる領域だ。
即興演奏時に見られたその活動は、主観的感情・ギターの腕前・年齢・演奏の難易度・既往歴・練習量に関わらず、参加者全員で共通していたという。
研究チームによると、このことは「即興演奏における運動制御」と「言語制御における運動計画」が関連しているだろうことを示しているそうだ。
ちなみに過去の研究では、即興演奏では背外側前頭前野にあたる「ブロードマン46野」が活発になることが確認されている。
こちらは、ワーキングメモリ・認知的柔軟性・計画といった実行機能に関係する領域だ。
今回の研究は、ギターの即興演奏を題材に、創造性を生み出す脳の活動に光を当てたものだ。
だが創造性といっても、さまざまなものがあり、ギターの即興演奏はそのうちの一つに過ぎない。
別のタイプの創造的活動では、また異なるの脳領域が関与している可能性もあるため、更なる研究が必要だそうだ。
この研究は『BMC Research Notes』(2024年3月3日付)に掲載された。
References:Rock guitarists show increased neural activity in Brodmann area 45 of the brain when improvising / written by hiroching / edited by / parumo
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