25年間行方不明だった「失われた人工衛星」が発見される
 1990年代に完全に行方不明となってしまった人工衛星は、人知れず宇宙空間をさまよっていたが、アメリカ米宇宙軍の追跡データにより25年ぶりに発見されたそうだ。

 再発見されたのは1974年4月10日にアメリカ空軍の宇宙試験プログラムの一環として打ち上げられた、Infra-Red Calibration Balloon(赤外線較正気球:IRCB S73-7)だ。

 S73-7は直径66cmほどの小型の実験衛星で、当初の計画では、より大型の偵察衛星「KH-9 ヘキサゴン」から展開された後、バルーンを膨張させ、リモートセンシング機器の校正ターゲットとして機能するはずだった。

 ところが、その展開に失敗し、地上のレーダーから消失。1990年代以来、失われた人工衛星となっていた。

展開ミスで制御不能に Infra-Red Calibration Balloon(赤外線較正気球:IRCB S73-7)は、軌道上でバルーンを膨張させ、リモートセンシング機器の校正ターゲットとして機能するはずだった。

 ところが「KH-9 ヘキサゴン」からの展開に失敗したことで、高度約800kmの軌道への配備される途中で、地上のレーダーから姿を失い、制御不能となってしまった。

 ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの天体物理学者ジョナサン・マクダウェル氏によると、S73-7は1970年代と1990年代の2度にわたりレーダーから消失した経緯があるという。

 この衛星がすぐに行方をくらましてしまう原因は、「レーダー反射断面積」が狭すぎることなのだそう。

 レーダー反射断面積とは、レーダーの電波を浴びたとき、それを反射する度合いのこと。レーダーは反射されて戻ってきた電波をもとに、物体の位置を割り出す。

 だから、S73-7のように、あまり電波を反射しない構造の物体は、レーダーに映りにくいのだ。
おそらく追跡対象となっているのは、うまく展開されなかったディスペンサーか気球の一部なのでしょう。金属ではないので、レーダーにあまり映らないのです


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S73-7の展開に失敗したKH-9 ヘキサゴンの基本システム / image credit:National Reconnaissance Office四半世紀も行方不明だった理由 S73-7が25年間も行方不明だったのは、レーダーに映りにくいことだけが原因ではない。

 2万個以上の物体が軌道上にある現在、すべての物体の位置と正体を把握するのは、そもそも簡単なことではないのだ。

 たとえば地上のレーダーや光学センサーで、軌道上にある物体を発見したとしよう。だが、それだけではその正体まではわからない。

 それを知るためには、その軌道にあると考えられる衛星と照合して、それが何であるか特定しなければならない。

 「最近の軌道データセットがあり、似たような軌道のものがほとんどなければ、おそらく簡単に一致するでしょう」と、マクダウェルは話す。

 だが混雑した軌道で、しばらく行方不明になっていたような衛星を見つけようというのなら、難易度は一気に跳ね上がる。

 地上のエンジニアたちは、打ち上げられた衛星のコースをきちんと把握している。だからこの記録が残されていれば、衛星の進路をたどり、最後に報告された位置と比較することもできる。

 ところが予定外のことが起こり、当初の計画が変更されたり、衛星が予定軌道から外れたりすると、再びそれを見つけるために、いくつもの作業が必要になる。
展開操作がどこで行われたか正確にわからなければ、その位置を特定するのは骨が折れるでしょう。

たとえば、問題の物体(今回の場合はKH-9 ヘキサゴン)の軌道を巻き戻し、行方不明になった衛星(S73-7)の軌道を早送りしてみて、その2つの軌道が重なる点が、展開操作が行われた地点かどうか?の判断が必要になります。(ジョナサン・マクダウェル氏)
 このように難しい作業であるからこそ、今回の再発見は、地球を周回する何万という物体を追跡している人にとって、まさに大勝利と言える成果なのだ。  これからますます多くの人工衛星が宇宙へ打ち上げられ、地球軌道を周回する物体の特定はいっそう難しくなっていくだろう。

 無数にある宇宙ゴミ(スペースデブリ)を解決しないことには宇宙空間も安全とは言えないようだ。

References:'Lost' satellite found after orbiting undetected for 25 years | Space / written by hiroching / edited by / parumo

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