オランダの湖畔で、他のヒナたちがすべて孵化し、過ぎ去った後の巣に、たった一つだけ取り残された大きな卵があった。
ニック・マイヤーさんはこの卵を放っておくことができず、自宅の孵卵器を使い温め、一か八かの望みにかけた。
すると20日後、殻を破って元気な白鳥のヒナが誕生したのだ。
イップと名付けられた白鳥は、自分を救ってくれた男性に深い愛情をささげ続けている。
奇跡の誕生から始まった男性と白鳥の特別な絆
オランダに住むニック・マイヤーさんは数年前、白鳥の巣の中で、他のヒナたちがすべて旅立った後も、たった一つだけ残されている卵に気が付いた。
通常、白鳥の親は孵らない卵を見捨てる習性がある。マイヤーさんはその卵にまだ命が宿っているかは不明だったが、自宅の孵卵器(ふらんき)に入れて望みを託した。
それから20日が経過した頃、卵の殻にひびが入った。
中から小さなくちばしが覗き、元気な白鳥のヒナが誕生したのだ。
マイヤーさんはこの小さな命にイップ(Jip)と名付け、白鳥の育児という未知なる挑戦を始めた。
生まれたばかりの鳥は、最初に見た動くものを親と認識して後を追う「刷り込み(インプリンティング)」という性質がある。
イップもマイヤーさんに対し、種を超えた深い愛情を示し、彼もイップを愛情で包み込んだ。
24時間いつでもパパのそばを離れない甘えん坊
白鳥のヒナは本来、天敵から身を守るために親の羽の中に隠れて過ごす。
イップにとって最も安全な場所は、マイヤーさんの首筋やパーカーのフードの中だった。
イップは片時もマイヤーさんのそばを離れようとせず、どこへ行くにも運んでほしいとせがむほどパパべったりの甘えん坊になった。
マイヤーさんは白鳥を育てた経験がなかったため、手探りで食事や体調の管理を学んでいった。
イップは24時間体制で注がれるマイヤーさんの愛情を受け、すくすくと成長していった。
実は白鳥が真っ白になるまでには時間がかかる。
生まれたばかりのヒナは灰色のふわふわした産毛に包まれており、成長して若鳥になると、イップのように灰色や茶色が混じったしっかりした羽に生え変わる。
これは、天敵から見つかりにくくするための保護色の役割を果たしている。
その後、生後1年から2年ほどかけてゆっくりと真っ白な羽へと生え変わっていくのが白鳥の一般的な成長過程だ。
Instagramに投稿された画像や動画では、イップがニックさんの元で順調に大人への階段を上っていき、毛の色が徐々に変化している様子が分かる。
自由を手にしてもマイヤーさんの近くに住むことを選ぶ
イップの羽が生え揃うと、マイヤーさんは彼を家の近くにある池へ連れて行き、水辺での生活に慣れさせることにした。
白鳥にとって水の上は本来の居場所であり、空を飛べるようになればどこへでも好きな場所へ行ける自由がある。
しかし、イップはマイヤーさんが池で泳げばその後を懸命に追いかけ、たとえ庭のゲートが開いていても、決して遠くへは去ろうとしなかった。
これも刷り込み効果によるものだが、マイヤーさんはイップが自立して、野生の白鳥と同じ生活をさせてあげたかった。
そこでマイヤーさんはイップが孤独にならないよう、同じく保護された白鳥のビューレを引き合わせた。
白鳥は本来、仲間との社会的な交流を重んじる知能の高い鳥だ。
一夫一妻制の鳥でとても愛情深く、愛するパートナーのために複雑なボディランゲージや発声を使うという。
二羽はすぐに打ち解け、一緒に泳いだりダンスをしたりして過ごすようになった。
それでもイップにとって、マイヤーさんは何にも代えがたい特別な存在であり続け、自らの意思で彼のそばに留まり続けた。
2年の歳月を駆け抜けたイップがのこした大切な教え
ニックさんとイップが育んだ唯一無二の友情は、2年という月日が流れた昨年の秋、突然の別れによって幕を閉じた。
イップは自分が育った大好きな池で、静かにその生涯を終えたのだ。
白鳥の寿命は野生でも20年近くといわれており、2歳という若さでの死はあまりに早かった。
マイヤーさんは深い悲しみに暮れたが、イップが残してくれたものの大きさに気づくことで前を向こうとしている。
マイヤーさんは、イップとの日々を通じて、動物たちがいかに豊かな感情を持ち、人間に多くの愛を与えてくれる存在であるかを学んだという。
すべての命がそれぞれ1つずつ、光り輝いているのだ。だからこそ、今そこにある命を大切にしていこう。











