指令に応じて自己破壊する生きたプラスチックが登場、マイクロプラスチックを出さず完全分解
6日で完全に分解されたプラスチック Image credit: Adapted from ACS Applied Polymer Materials 2026, DOI: 10.1021/acsapm.5c04611

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 往年のテレビドラマ、『スパイ大作戦』では、指令が終わると「なお、このテープは自動的に消滅する」といって録音データが自己破壊するシーンがおなじみだったが、新たに開発されたプラスチックも、同様のことが起きる。

 中国の研究チームが、指令に応じて自己破壊する「生きたプラスチック」を生み出した。

 素材に埋め込まれた微生物が指令を受けて目覚め、マイクロプラスチックなどの有害な微粒子を一切出すことなく、わずか6日で跡形もなく完全分解する。

 使い捨てプラスチック問題を根本から覆す可能性を秘めた新技術だ。

 この研究成果は『ACS Applied Polymer Materials[https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsapm.5c04611]』誌(2026年4月9日付)に掲載された。

プラスチックが環境に残り続ける理由

 私たちが日常的に使う包装材やレジ袋、ペットボトルのほとんどは、使用後に捨てられた場合、素材そのものは何百年も環境に残り続ける。なぜプラスチックはそれほど頑丈なのだろうか。

 プラスチックの正体は「ポリマー」と呼ばれる物質だ。

 ポリマーとは、小さな分子(モノマー)が何千、何万個も鎖のようにつながった巨大な分子のことで、一度この鎖が形成されると、自然界の力では容易に切ることができない。

 時間が経つにつれ、大きなプラスチックは紫外線や波の力で少しずつ砕かれていくが、完全に消えるわけではない。

 5mm以下の微細な粒子はマイクロプラスチックと呼ばれ、海や土壌に蓄積し、生物の体内に取り込まれるなど、深刻な環境問題を引き起こしている。

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生分解性プラスチックと生きたプラスチックの違い

 この問題に対するアプローチとして、これまで「生分解性プラスチック」が注目されてきた。

 土壌中に自然に存在する微生物の働きによって、時間をかけて分解される素材だ。

 しかし生分解性プラスチックにも弱点がある。

 分解されるかどうかは環境条件に左右され、適切な温度や湿度が整わなければ思うように分解が進まない。

 分解にかかる時間も数ヶ月から数年と長く、「いつかは消える」という受け身の仕組みにすぎない。

 中国・広東省深センにある中国科学院深圳先進技術研究院の研究チームが目指したのは、これとはまったく異なる発想だ。

 チームを率いるダイ・ジュオジュン氏は「従来のプラスチックは何世紀も残り続けるのに、包装材などの用途では短命だ。ならば、分解機能そのものを素材のライフサイクルに最初から組み込めないか」と考えた。

 この発想から生まれたのが「生きたプラスチック」だ。

 通常時は何も起きない。しかし指令を与えた瞬間、素材の内側から分解が始まる。分解のタイミングを人間が能動的にコントロールできる点が、生分解性プラスチックとの根本的な違いだ。

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栄養液が指令となり、2種類の酵素が完全分解

 研究チームが目をつけたのは、納豆菌の仲間としても知られる枯草菌だ。

 枯草菌は過酷な環境に置かれると「芽胞(ほうし)」と呼ばれる休眠状態に入る。

 乾燥や高温にも耐えられるカプセルのような形態で、条件が整うまでじっと待ち続ける性質がある。

 2025年のオーストラリアの実験では、枯草菌の芽胞が、宇宙空間へのロケットの打ち上げと再突入に耐え、無事に地上へ帰還したことが証明されたほどの生命力の高さを持つ。

 研究チームはこの枯草菌を遺伝子操作し、ポリマーを分解する2種類の酵素を同時に産生できるようにした。

 1つ目の酵素は長いポリマーの鎖をランダムに切断する役割を持ち、2つ目の酵素は切り刻まれた断片を両端から化学的に切断し、モノマーにまで分解する。

 1種類の酵素だけでは分解しきれなかった段階も、この2段階の連携によって完全に処理できるようになった。

 この枯草菌の芽胞を、3Dプリンターの素材や医療用縫合糸にも使われる生分解性ポリマー「ポリカプロラクトン(PCL)」と混ぜ合わせてフィルム状に成形したのが生きたプラスチックだ。

 通常の状態では芽胞は休眠したままで、プラスチックは普通の素材と変わらない強度を保っている。

 だがここで「指令」を与えることで、芽胞が目を覚まし、わずか6日間でプラスチックフィルムを完全に分解した。

 指令とは、50℃に温めた栄養液をプラスチックに加えることだ。

 2種類の酵素の連携が非常に効率的だったため、分解の途中でマイクロプラスチックが生じることもなかった。

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実証実験に成功、次の標的は海洋汚染

 研究チームは生きたプラスチックの実用性を確かめるため、この素材を使って肌に貼り付けるタイプの電極(ウェアラブル電極)を試作した。

 センサーや医療機器に使われるこの電極は、使用中は通常通りの性能を発揮し、指令を与えると2週間以内に完全に分解されることが確認された。

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 今後の課題は2つある。1つは、今回の実験で使用したポリマーがポリカプロラクトン1種類に限られていたことだ。

 研究チームは同様の手法をレジ袋や食品包装など、使い捨て製品に多く使われる他のプラスチック素材にも応用できると見ており、研究を広げていく方針だ。

 もう1つは、分解を開始させる「指令」の方法だ。今回は50℃の栄養液が必要だったが、プラスチック汚染の大きな行き先である海洋では、この条件を満たすことが難しい。

 研究チームは現在、水中でも芽胞を活性化できるトリガー(指令)の開発に取り組んでいる。

 芽胞が目を覚ますには50℃の栄養液が必要なため、理論上は海洋に流出しても勝手に分解を始めることはないはずだが、環境中への漏出リスクや安全性についてはプレスリリース中で言及されていない。

 この課題が解決されれば、海洋プラスチック問題への直接的な対策として機能する可能性がある。

 「なお、このプラスチックは自動的に消滅する」 かつてはスパイ映画の中でデバイス消滅に使用された名台詞が、科学の力で現実になろうとしている。 

まとめ

この研究でわかったこと

  • プラスチックに埋め込んだ枯草菌の芽胞は、50℃の栄養液を加えると目を覚ます
  • 目を覚ました枯草菌が産生する2種類の酵素が連携し、6日で素材を完全分解する
  • 分解の過程で有害なマイクロプラスチックが生じないことも確認された

まだわかっていないこと(今後の課題)

  • 今回分解できたのは1種類のポリマーのみで、他のプラスチック素材への応用はこれから
  • 海洋では50℃の栄養液という条件を満たせないため、水中で芽胞を目覚めさせる別のトリガーの開発が必要

References: 10.1021/acsapm.5c04611[https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsapm.5c04611] / This ‘living plastic’ activates and self-destructs on command[https://www.acs.org/pressroom/presspacs/2026/april/this-living-plastic-activates-and-self-destructs-on-command.html]

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