銀河を持たない超大質量ブラックホールを発見。宇宙誕生の定説を覆す可能性
ブラックホールと銀河 Image credit: NASA/ Daniel Rutter

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 我々の太陽系がある天の川銀河を含め、ほとんどの銀河の中心には太陽の数百万~数十億倍もの質量を持つ「超大質量ブラックホール」が存在し、お互いに影響を与え合いながら成長していると考えられていた。

 だが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、ビッグバンからわずか7億年後の初期宇宙に、銀河をほとんど持たないまま単独で存在する超大質量ブラックホールをとらえた。

 英ケンブリッジ大学の研究チームは、ブラックホールの形成と成長に関する従来の定説を見直す必要がある発見だという。

 この研究成果は学術誌『Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-026-10579-4]』および『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society[https://academic.oup.com/mnras/article/548/1/staf2109/8607050]』(2026年)に掲載された。

銀河とブラックホールは共に成長するという定説は正しいのか?

 超大質量ブラックホールとは、太陽の数百万倍から数百億倍もの質量を持つ宇宙最大規模のブラックホールだ。

 私たちが住む天の川銀河の中心にも、いて座A*という超大質量ブラックホールがあり、太陽の約400万倍の質量を持っている。

 銀河とブラックホールはお互いに重力や放射エネルギーで影響を与え合いながら、ともに大きくなっていく。天文学者たちは長年、そう考えてきた。

 まず宇宙空間にガスが集まって銀河が生まれ、銀河の中で大質量の星が生涯を終えて崩壊し、ブラックホールが誕生する。

 そのブラックホールが周囲のガスや他のブラックホールを飲み込みながら成長し、やがて超大質量ブラックホールになるという説だ。

 ところが近年、この定説に当てはまらない観測結果が相次いで報告された。

 宇宙誕生直後の初期宇宙に、あまりにも巨大なブラックホールが多数見つかったからだ。

 銀河の中でゆっくり成長したとするには時間が足りなさすぎて、どうやってそこまで大きくなったのか説明がつかなかった。

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ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡が初期宇宙で発見した赤い点の正体

 2021年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、この長年の謎に新たな手がかりをもたらした。

 JWSTは主に赤外線で宇宙を観測する。赤外線は宇宙空間のガスやチリを透過しやすいため、ハッブル宇宙望遠鏡では見えなかった遠方の天体を観測できる。

 遠くを見るほど過去の宇宙を見ることになるため、初期宇宙の姿を直接とらえられることができる。

 JWSTが観測を続けるうち、初期宇宙に奇妙な天体を次々と発見した。

 赤みがかった小さな点状の天体で、天文学者たちは小さな赤い点(Little Red Dot)と呼んでいる。

 2022年以降すでに数百個が見つかっており、2025年以降の研究ではその70~80%が超大質量ブラックホールを持つ天体である可能性が高いことが示されてきたが、詳細はまだ解明されていない。

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 そうした小さな赤い点の一つが「Abell2744-QSO1」、通称QSO1だ。

 今回の詳細な観測によって中心に超大質量ブラックホールを持つ天体であることが確認された。

 ビッグバンから約7億年後の宇宙に存在した天体で、現在の宇宙の年齢138億年のわずか5%にあたる時代のものだ。

 直径は約1300光年と、天の川銀河の直径約10万光年と比べると極めて小さい。

 観測をさらに有利にしたのが、QSO1の手前に位置する巨大な銀河団アベル2744、別名パンドラ・クラスターの存在だ。

 銀河団の強大な重力がQSO1から届く光を曲げるレンズのように働き、1つのQSO1がA・B・Cの3つの像に分かれて拡大された状態で観測できた。 

 重力レンズ効果と呼ばれるこの現象のおかげで、QSO1は3か所に拡大されて見え、通常では不可能なほど詳細な観測が可能になった。

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史上初、初期宇宙のブラックホール質量を直接測定

 英ケンブリッジ大学のイグナス・ジュオジュバリス氏とフィレンツェ大学のコジモ・マルコンチーニ氏らの研究チームは、JWSTに搭載された近赤外線分光器NIRSpecを使い、QSO1の詳細な分析に取り組んだ。

 チームはブラックホールの周囲を渦巻く水素ガスの動きに注目し、ガスの回転速度を中心からの距離ごとに測定した。

 すると、万有引力の法則に従って中心の一点を公転する、惑星が太陽の周りを回るのと同じケプラー運動のパターンが現れたのだ。

 中心から遠いほど公転速度が落ちるこのパターンは、質量が一点に集中しているときにだけ現れる。

 もし周囲に多くの星があって質量が分散していれば、このような規則正しい回転は生まれない。

 ケプラー運動を確認したチームは、ガスの速度データと重力の法則を組み合わせてブラックホールの質量を直接算出した。

 初期宇宙のブラックホールの質量が直接測定されたのは、史上初めてのことだった。

 算出された質量は太陽の約5000万倍で、QSO1全体の質量の3分の2以上をブラックホール一つで占めていることもわかった。

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QSO1は銀河を持たないブラックホールだった

 QSO1は銀河をほぼ持たないまま単独で存在する超大質量ブラックホールであることが、質量と化学組成の両面から裏付けられた。

 近くの銀河では、超大質量ブラックホールの質量は宿主銀河全体の質量の約0.1~0.5%程度にすぎない。

 銀河という大きな器の中に、ブラックホールはほんのわずかな割合で収まっているのが普通だ。

 QSO1ではその比率が逆転しており、ブラックホールが銀河全体の質量の3分の2以上を占めるという、近傍銀河と比べて数千倍もアンバランスな状態だった。

 QSO1の化学組成を調べると、天体全体がほぼ水素とヘリウムだけで構成されており、通常の銀河に見られる酸素や炭素などの重い元素がほとんど存在しなかった。

 重い元素は星が核融合を繰り返して死ぬ過程で宇宙空間にばらまかれるもので、QSO1にそれがほとんどないということは、星の活動がほぼ起きていないことを示している。

 太陽の金属量の0.5%以下という値は、これまでに測定された中で最も原始的な銀河環境のひとつだ。

 巨大なブラックホールと原始的なガスだけがそこにあり、銀河を構成するはずの星がほとんど存在しない天体だった。 

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銀河より先にブラックホールが生まれていた可能性

 研究チームはブラックホールの起源について2つの可能性を挙げている。

 1つは原始ブラックホール説だ。

 ビッグバン直後の超高密度状態から、星の誕生とは無関係に直接生まれたとされる仮説上のブラックホールで、1966年に理論として提唱された。

 もう一つは直接崩壊ブラックホール説だ。

 初期宇宙の巨大なガス雲が星を作る過程を経ずにそのままブラックホールへと崩壊したとする説だ。

 どちらも理論上は予測されてきたものの、これまで観測的な証拠がなかった。

 どちらの説の経路をたどったとしても、QSO1のブラックホールは最初から巨大な状態で誕生し、今まさに周囲にガスを集めて銀河を作り始めている段階にある可能性が高い。

 ケンブリッジ大学のロベルト・マイオリーノ氏は、ブラックホールの形成と成長に関する従来の定説を根本から見直す必要がある発見だと述べた。

 研究チームはQSO1と同様の小さな赤い点をさらに解析し、超大質量ブラックホールが銀河に先行して存在するケースが初期宇宙でどれほど広く見られるかを調べている。

まとめ

この研究でわかったこと

  • ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、銀河をほぼ持たないまま単独で存在する超大質量ブラックホールを初期宇宙で発見した
  • 初期宇宙のブラックホールの質量を直接測定することに史上初めて成功し、太陽の約5000万倍と確認された
  • ブラックホールが銀河より先に誕生し、後から銀河を形成していく可能性が示された

まだわかっていないこと

  • このブラックホールがビッグバン直後の超高密度状態から生まれた原始ブラックホールなのか、巨大なガス雲が直接崩壊して生まれた直接崩壊ブラックホールなのか、起源はまだ特定されていない
  • 銀河を持たない超大質量ブラックホールが初期宇宙にどれほど広く存在していたかは、現在も調査中だ

References: NASA’s Webb Reveals Black Hole That Formed Before Its Galaxy[https://science.nasa.gov/missions/webb/nasas-webb-reveals-black-hole-that-formed-before-its-galaxy/] / DOI:548/1/staf2109/8607050[https://academic.oup.com/mnras/article/548/1/staf2109/8607050] / DOI:s41586-026-10579-4[https://www.nature.com/articles/s41586-026-10579-4]

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