AIを使用するたびに水が消費される。AIを動かす巨大なコンピューターは、発する熱を冷ますために大量の水を必要とするのだ。
国連大学の水・環境・保健研究所が2026年6月に公表した報告書によると、2030年にはAIが1年間に消費する水の量は9.3兆リットルに達するという。
世界の全人口81億人が飲む水のおよそ1.6年分にあたる量を、AIは1年で消費することになる。
データセンターの熱を冷ますために大量の水が必要
AIに文章を書かせたり、画像を作らせたりするとき、その作業は手元のスマホやパソコンの中だけで完結していない。
世界のどこかにある巨大な施設、データセンターが大量のコンピューターを動かして処理している。
データセンターのコンピューターは、休みなく計算を続けると激しく発熱する。サーバーが熱を持ちすぎると壊れてしまうため、冷やし続けなければならない。
その冷却に水が使われる。
さらに、データセンターを動かす電気をつくる発電所でも、タービンを冷やすために水が必要になる。AIが動くほど、見えないところで水がどんどん消費されていく仕組みになっている。
2030年、AI使用による水消費は9.3兆リットルに
国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)によると、AIの普及はこの先、電力だけでなく水の消費にも大きな負担をかけていくという。
UNU-INWEHはカナダのオンタリオ州ハミルトンに本部を置く水問題の専門研究機関で、2026年6月に公表した報告書では、AIが環境にかける負担を電力・水・土地・廃棄物の面から数値で示している。
報告書の試算では、2030年にAIを支えるデータセンターが1年間に消費する水は9.3兆リットルに達する。
これは世界の全人口81億人が1年間に飲む水のおよそ1.6年分にあたり、AIの消費する水が人間の飲み水を大きく上回ることとなる。
ただし、ここで気をつけたいのは、9.3兆リットルという数字の中身だ。
この水の大部分は、データセンターそのものではなく、電気をつくる発電所で使われる分が占めている。データセンターが冷却で直接使う水は、その一部にすぎない。
しかも水は、二酸化炭素とは性質が違う。
大気に出た二酸化炭素は長くとどまり続けるが、水は蒸発しても雨となって地上に戻り、川へ流れてまた巡っていく。使った水がそのまま消えてなくなるわけではない。
とはいえ、問題がないわけではない。
報告書は、たとえ取った水の一部が戻るとしても、乾燥した地域や地下水が乏しい地域では、大量の取水が川や地下水に重い負担をかけると指摘している。
水が足りない場所でデータセンターが大量の水を取れば、その地域の暮らしや農業に影響が出る。
AIの水問題は、世界全体の総量よりも、どこで取るかという地域の事情に左右される。
電力の消費や設備に必要な土地も増大
報告書によると、2030年に世界のデータセンターが消費する電力は945テラワット時に達する見込みで、世界全体の電力のおよそ3%を占めるようになる。
発電所では電気をつくる過程で水が使われ、設備や送電網のために土地も必要になる。
AIの電力消費が増えるほど、その裏で消費される水や土地も連動してふくらんでいく。
報告書は、AIにかかわる土地の利用が2030年に1万4500平方kmを超えると見積もっている。
福島県や岩手県といった、本州の県が1つまるごと収まるほどの広さにあたる。
効率化が進むほど消費が増える逆転
AIは作業効率を上げるためのものだ。そうなれば、必要な電力も水もいずれ減っていくはずだ、と思うかもしれない。
報告書は、その期待こそが落とし穴だと指摘する。根拠として、「ジェボンズのパラドックス[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%9C%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%81%AE%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9]」と呼ばれる経済の法則をあげている。
この法則は、19世紀イギリスの経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェボンズが石炭の使われ方を観察して見つけた。
技術が進んで石炭を効率よく使えるようになると、石炭の消費は減るどころか、かえって増えた。
効率が上がって安く便利になったことで、それまで以上に多くの場面で石炭が使われるようになったためだ。
身近な例で言えば、自動車の燃費に似ている。燃費が良くなれば1台あたりのガソリン消費は減るはずだが、ガソリン代が安く感じられることで人々はより遠くへ、より頻繁に車を走らせるようになり、社会全体のガソリン消費はなかなか減らない。
AIも同じで、安く手軽に使えるようになるほど、世界中で使われる回数と量が爆発的に増えていく。
効率改善で節約できたはずの電力や水は、利用の拡大にのみ込まれて消えてしまう。
アメリカと中国に集中するデータセンター
AIを動かすデータセンターは、特定の国に偏って置かれている。
AI専用の設備を持つ国は世界で32カ国にとどまり、しかも約9割がアメリカと中国の2カ国に集中している。
残る1割を、日本を含む30カ国が分け合っているかたちだ。
日本でも、データセンターの建設は急ピッチで進んでいる。
千葉県の印西・白井エリアには新設計画が集中し、データセンターを動かすのに必要な電力が、その地域で用意できる電力の量を上回るほどの申し込みが寄せられている(資源エネルギー庁[https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/system_design_wg/pdf/005_05_00.pdf])。
AIを使う回数が増えていけば、それを支えるデータセンターも増え、必要な電力と水もふくらんでいく。
国連が呼びかけるのは責任ある使い方
報告書を率いた国連大学水・環境・保健研究所のカーヴェ・マダーニ所長は、これはAI使用に反対するための報告書ではないと強調している。
AIが世界の数十億人の暮らしを良くしている技術であることを認めたうえで、意図しない環境への影響に先回りして対処し、持続可能で公平なものにしていこうという呼びかけだとしている。
報告書が示すのは、AIの環境コストを開発の初期段階から計算に入れ、透明性をもって公開していく道筋だ。
効率を上げれば自然に解決するという楽観に頼らず、どれだけ使い、どう使うかを社会全体で考える段階にきている。
誰もがAIを使用できるようになり、暮らしに入り込んでいる今、その足元で何が消費されているのかを知っておく意味は大きい。
まとめ
この研究でわかったこと
- 2030年にAIが1年で使う水は、世界中の人が1.6年かけて飲む量に並ぶ見込み
- AIが使う電力は2030年に世界全体の約3%に達し、水や土地の消費もつれて増える
- 効率が上がっても、便利になって利用が増えれば、消費全体はかえってふくらむ
数字をどう読むか
- 9.3兆リットルの大半は発電に伴う水で、水は蒸発しても雨となって循環する
- 問題が深刻になるのは、水の乏しい地域で大量に取水される場合に限られる
まだわかっていないこと・今後の課題
- どの地域でどれだけ水不足が起きるか、地域ごとの実際の影響はまだ見えていない
- AIの利用がどこまで増え、消費がどう推移するかは予測の幅が大きい
References: The Environmental Cost of Artificial Intelligence: Carbon, Water, and Land Footprints[https://theconversation.com/un-report-warns-ai-could-soon-use-3-of-worlds-electricity-and-more-water-than-we-need-to-drink-284442] / UN report warns AI could soon use 3% of world’s electricity and more water than we need to drink[https://theconversation.com/un-report-warns-ai-could-soon-use-3-of-worlds-electricity-and-more-water-than-we-need-to-drink-284442]











