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2021年、8月。茅原実里と私たちは河口湖ステラシアターにいた。
TEXT BY 澄川龍一
PHOTOGRAPHY BY 草刈雅之
“ホーム”での3年ぶりの河口湖ライブ
3年ぶりとなる茅原実里の山梨・河口湖ステラシアターでのライブ。その間には2023年に行われた音楽活動再開後初となるライブ「富士河口湖町制20周年記念花火大会 茅原実里 LIVE 2023 “We are stars!”」があり、その後は“ANIMAX MUSIX 2024 SPRING”などのフェス出演……と、この日まで音楽活動が展開されていった。それらを経てのこの日の河口湖ステラシアターという“ホーム”でのライブとなると、その期待感も格別だ。薄い紗幕が降りているステージを前にして、ざわざわとした声が会場のところどころから聴こえる。観客の声出しが禁じられていた3年前にはなかった久々の光景だ。
そんななか、茅原実里登場の瞬間が訪れる。
そこで聴こえた音は、紛れもない“茅原実里の音楽”だ。強靭なCMBによるサウンドに乗せて茅原の歌声は変わらず張りのある力強さを誇っている。そして爆発的な歓声が加わって完成される茅原実里サウンドは、長いブランクを一切感じさせない息のあったものだった。3年の空白を埋めるにはあまりにも美しく力強い「詩人の旅」が披露されたあと、茅原はその余韻に浸る間もなく、一目散にステージ下手へと駆け出す。
観客とのコール&レスポンスもたっぷりに、コブシを効かせた熱っぽい歌唱でサマーアンセムを聴かせたあとは最初のMCへ。「“Hystorical Parade”へようこそ!」と叫んだあとは、「茅原実里の音楽と歌を思う存分楽しんでいってください。みんな、今日は最高のパレードにしましょう!」と宣言してすぐさまライブを再開。タイトな演奏の「Defection」、ヘビーな導入の「書きかけのDestiny」とパワフルな楽曲が続く。この日の茅原実里のサウンドを支えるバンドのメンバーは、須藤賢一(key)、馬場一人(g)、岩切信一郎(b)、岩田ガンタ康彦(ds)というお馴染みのメンバーに加え、初の女性ギタリストとなる瀬川千鶴(g)というラインナップ。そんな茅原とバンドの熱量の高いパフォーマンスのあとは、茅原の「フラッグ用意」という号令と共に、茅原実里ライブではお馴染みの旗曲「Lush march!!」へ。観客が一斉に小さなフラッグを茅原に合わせて振る光景は相変わらず圧巻だ。「Lush march!!」を1コーラスだけ披露したあとは、こちらも旗曲「Best mark smile」へと続く。
CMBのメンバー紹介を含むMCでは「今日はありったけの思いを込めて歌わせていただきます!」と宣言したのち、彼女と縁の深い京都アニメーション制作による、ライブのキービジュアルについて触れる。「思えば、2007年に歌手活動を本格的にスタートできたのも、『涼宮ハルヒの憂鬱』(京都アニメーション製作)のキャラクターソングがきっかけでした」と話したあとに披露されたのは、茅原が演じた『涼宮ハルヒの憂鬱』の長門有希のキャラクターソング「SELECT?」だった。“>yes>enter”と茅原が長門の声で発すると、客席からどよめきが起こる。ゆったりとしたリズムでクールダウンさせたあとは同じく長門キャラソンである「雪、無音、窓辺にて。」へと続く。彼女が語るように、2007年以降の茅原実里の音楽の原点でもある楽曲のあとには一転して、2021年発表の現在のところ最新作となる『Re:Contact』から切れ味抜群な「a・b・y」を披露(彼女のキャリアに大きな影響を与えたシンガー・奥井雅美による作詞だ)。まさに20年の道のりを一気に辿るような構成で、ライブ前半戦を終えた。
20年という道のりを辿り、新たな一歩を刻むステージ
茅原がステージを去ったあとはCMBによるバンドインストのコーナー。普段ならオリジナル曲であるこのコーナーだが、この日は『涼宮ハルヒの憂鬱』から「ハレ晴レユカイ」、『D.C.II~ダ・カーポII~』から「桜笑み君想う」、『デート・ア・ライブ』から「My Treasure」と、茅原のキャラソンがインストで演奏される。そしてライブ後半戦は、音楽活動を本格化させることとなった2007年にリリースしたシングル「純白サンクチュアリィ」で幕を開ける。会場が一瞬にして純白に染まるなか、茅原はステージ上ではなく、またしても1階席と2階席の間の客席通路から登場。白い衣装を身にまとい、河口湖ステラシアターの中心で彼女の“はじまりの歌”を歌い上げた。そこから2ndシングル「君がくれたあの日」が披露されると、茅原は客席の間を抜けてステージへと躍り出る。
MCを挟んでライブもいよいよ終盤戦。まずはマイクスタンドを手に「向かい風に打たれながら」をロッキンに歌い、こちらも彼女の代表曲の1つである「TERMINATED」で会場のボルテージを上げていく。そしてそのまま、デビュー15周年記念ソングでもある「We are stars!」へ。この曲のキモである観客とのコール&レスポンスがライブで達成されたのは昨年の無料ライブ“We are stars!!”が初となるが、そこにCMBのバンドが加わるという完全体での披露はこの日が初めて。とてつもないアグレッションのなか速射砲のような茅原のラップを含むパフォーマンスは圧巻の一言だ。最後は“ということで続きはこの先で…”というフレーズを、“ということで続いてはこの曲”と替え、客席前方から投げられたフレディマイクスタンドをキャッチすると「Paradise Lost」へ続く。茅原実里を代表する大アンセムに観客も、火柱がのぼるステージに向けて大歓声を送る。20年を彩るこの日のクライマックスにふさわしい瞬間となった。
そして本編最後のMCでは、改めて20周年を祝うこの日を迎えられたこと、そして河口湖ステラシアターに戻ってこられたことへの喜びを噛み締めながら、ゆっくりと観客に語りかけていった。決して順風満帆ではなかったという20年、しかし「そんな私だから、そんな私だからこそ、みんなの心に、人生に寄り添って、みんなの生きる力や勇気になるような歌をうたっていけたらいいなと思って、今そんなふうに、強く、強く思っています」と力強い言葉にして、「みちしるべ」を歌い始めた。茅原による歌詞、そしてメロディはその言葉の通り聴くものに寄り添うものである。
アンコールはすっかり日も暮れたなか、「夏を忘れたら」でチルアウトな雰囲気を演出してスタート。続くMCでは、富士河口湖町長の渡辺英之も登場し、改めて富士河口湖町と茅原の深い結びつきを示した。そんなアンコールらしいリラックスした雰囲気のなか、夏のライブには欠かせない「Sunshine flower」を披露し、観客とシンガロングを交えた楽しい時間を過ごした。そして「ずっとずっと歌いたかったこの曲を歌ってもいいですか!?」と言って、この日最後の曲「Freedom Dreamer」へ。河口湖ライブ恒例の花火も交えて、歌詞のとおり全員でジャンプする光景のなか、熱狂のライブ初日は幕を下ろしたのだった。
これまでのキャリアを総括し、未来へと放たれる音楽たち
3年ぶりの河口湖ステラシアターでのライブ。その2日目は、初日を終えた熱気がまだ会場にこもっているかのような雰囲気があった。この日は開演前まで突然の豪雨に見舞われるという天候だったが、開演を迎えるころには雨足も弱くなり、ライブへの機運も高まっていく。そんななかライブは昨日と同じく「透明パークにて」のインストから幕を開ける。初日はそこから「Contact」へと続いていったが、この日は「D-FORMATION」が鳴らされ、そこから「Dream Wonder Formation」が披露されると、観客も一斉に歓声を送る。2012年リリースの4thアルバムにして、原点回帰を掲げた『D-Formation』の冒頭を飾るこの2曲から再びライブが始まるというのも感慨深いものがあるが、デジタルな意匠をまとったオリジナルのサウンドは、ツインギターのCMBによってよりシャープに、分厚い音像に生まれ変わって耳に飛び込んでくる。
そんなエネルギッシュなライブは、MCを挟んでポップな「SELF PRODUCER」へ。サビの印象的なダンスもキュートに、ここでも終始ステージを動き回りながら安定感のあるボーカルを聴かせる茅原。続く「Perfect energy」でもライブらしい熱量を感じさせるパフォーマンスを展開させていった。その後の旗曲コーナーでは、初日で披露した「Lush march!!」に加えて、この日は「FEEL YOUR FLAG」をメドレーに組み込む。初日は白い旗がはためいた客席が、この日は真っ赤な旗に埋め尽くされていった。その後も初日と同じく「SELECT?」「雪、無音、窓辺にて。」という長門有希のキャラクターソングを聴かせ、「Re:Contact」へ。初日にも披露された「Contact」「詩人の旅」を想起させるこの曲は、彼女の活動休止前最後のアルバムとなった『Re:Contact』に収録されたものだ。「FEEL YOUR FLAG」も初日のこのブロックで披露された「a・b・y」もそうだが、思えば『Re:Contact』とは2021年当時の彼女のキャリアを総括する、いわばキャリアを区切るための作品だった。それが活動再開後の今にこうして鳴らされるのは感慨深いものがある。区切るための音楽たちが再び未来に向かって届けられるのだから、改めて奇跡的な瞬間であることを実感させるし、力強いものがあった。
立ち止まりながらも諦めず信じた、“終わらないパレード”の実現
CMBによる、初日と同じプログラムのバンドインストを経てのライブ後半戦は、茅原が客席から登場して「純白サンクチュアリィ」を披露。初日と同様にこの日のハイライトの1つになったこの楽曲だが、特に印象深かったのが、茅原ではなく観客の姿だった。普段の観客はステージに向かって、その中心にいる茅原に向けて自身の感情を顔にして声にして伝えているのだが、この曲で観客はステージに背を向けて茅原を見ることで、彼ら彼女らがどんな表情で茅原を見つめているのかがありありとわかるのだ。特に終盤で茅原に「歌って」と促されて、サビのメロディを観客が喜びに満ちた表情で歌う光景は何よりも美しく、普段知ることのできないステージ側から見た景色を伝えてくれるようで、観客を含めた茅原実里のライブの一体感というものを知ることができた。
そこから「Tomorrow’s chance」のイントロが鳴らされると、客席の歓喜の表情はより際立ち、客席を通ってステージへと向かう茅原に大歓声を送る。そして和のテイストが光るロックナンバー「FOOL THE WORLD」で会場を紫色に染め上げ、MCを挟んでエモーショナルな歌唱を聴かせる「境界の彼方」、壮大なスケール感の「ZONE//ALONE」とこの20年間で生まれた代表曲たちを次々と披露。そしてそこから手を緩めることなく「We are stars!」「Paradise Lost」へと続いていった。この一連の構成がとにかくタフで、観客の盛り上がりもさることながら、ステージ上の茅原もほとんど休むことなく歌い続けていく。キャリアを重ねながらもあえてアグレッシブに振り切った構成は素晴らしいの一言に尽きるし、そのなかで聴かせる高揚感に満ちた歌声は、まさしくライブでしか味わうことのできないカタルシスがあった。
そんな壮絶なパートを走り切ったあと、ボルテージも頂点に達した観客は、暗転したステージ上に歓声を送り続ける。初日はこのあと明転してMCへと続くのだが、暗闇のなかで茅原はしばらく微動だにしない。それを察知した観客からの声が大きくなるなかで彼女の胸に去来したものは、タフなステージを駆け抜けた達成感か、20年というキャリアを経た感慨か、ライブという今を生きている実感か、それともあるいは――。いずれにせよ、明転したあとの彼女が発した言葉は初日と似た内容のものであったが、そこには初日にはない感情の揺れが感じられた。時折言葉を詰まらせながら20年を振り返るなかで、「何度もやめようと思いました」という言葉に続く「何度もやってて良かったと思いました」という言葉には、掛け値なしのリアルな感情が込められていた。「ただ、ただ前を向いて歩いていれば、未来を見て歩いていれば、今日みたいな、こんなに……こんなに素敵な日がやってくるかもしれません」という言葉は、歌手活動を休止した3年間を過ごした彼女だから発することができるものだ。そんな思いを強く言葉に伝えたあとに披露された「みちしるべ」「Voyager train」は、初日以上にエモーショナルな色合いを強くしていた。それは茅原も涙で詰まってしまう瞬間もあったからではあるが、一方で2018年に発表された「みちしるべ」と2008年に発表された「Voyager train」という、それぞれ当時の彼女を描いた歌詞が巡り巡って2024年の今に、より実感が込められて歌われたことは当時とはまた違った感動があった。“Historical Parade”を通して茅原実里の音楽と歌に触れた答えはここにあった。彼女と私たちと同じように、曲たちもまた生き続けているのだ。
アンコールは初日と同じく「夏を忘れたら」でチルに始まり、河口湖ステラシアター館長の野沢藤司をステージに招き、改めてこの会場と茅原実里の結びつきを実感する。そしてこの日は河口湖ステラシアターで育ててきた楽曲である「purest note ~あたたかい音」を会場全体でシンガロングし、最後には「Freedom Dreamer」で満開の花火と共に、奇跡のような2日間の幕を閉じたのだった。
茅原実里の20年とは、自身が語る通り紆余曲折のキャリアだった。なかでも歌手活動を休止した期間は、このあと振り返ってみても大きな出来事になるだろう。しかしそれを乗り越えて、富士河口湖町との絆が消えることなく、またこうして河口湖ステラシアターに戻ってきたこと――それを茅原は“奇跡”と語った。そしてこの日をその先の“Animelo Summer Live”や年末に河口湖で開催を予定しているアコースティックライブという未来へと繋げていった。
ライブ本編最後に「人生はパレードだと思う」と語った茅原は、ライブを終えたあとに「パレードは終わらない!」とも口にした。アルバム『Parade』の最後に収録された「everlasting…」もまた同じ言葉で結ばれている。“パレードは終わらない 永遠に”。その言葉を信じる思いはあのときよりずっと強く、茅原実里と観客の心に深く刻み込まれているはずだ。
<SET LIST>
Day 1 2024.8.3
SE. 透明パークにて
01. Contact
02. 詩人の旅
03. 美歌爛漫ノ宴ニテ
04. Defection
05. 書きかけのDestiny
06. Lush march!! ~ Best mark smile ~ Lush march!!
07. SELECT?
08. 雪、無音、窓辺にて。
09. a・b・y
CMB Inst.(ハレ晴レユカイ ~ 桜笑み君想う ~ My Treasure)
10. 純白サンクチュアリィ
11. 君がくれたあの日
12. 会いたかった空
13. 向かい風に打たれながら
14. TERMINATED
15. We are stars!
16. Paradise Lost
17. みちしるべ
18. Voyager train Encore
19. 夏を忘れたら
20. Sunshine flower
21. Freedom Dreamer
Day 2 2024.8.4
SE. 透明パークにて
01. D-Formation
02. Dream Wonder Formation
03. 美歌爛漫ノ宴ニテ
04. SELF PRODUCER
05. Perfect energy
06. Lush march!! ~ FEEL YOUR FLAG ~ Lush march!!
07. SELECT?
08. 雪、無音、窓辺にて。
09. Re:Contact
CMB Inst(ハレ晴レユカイ ~ 桜笑み君想う ~ My Treasure)
10. 純白サンクチュアリィ
11. Tomorrow’s chance
12. FOOL THE WORLD
13. 境界の彼方
14. ZONE//ALONE
15. We are stars!
16. Paradise Lost
17. みちしるべ
18. Voyager train Encore
19. 夏を忘れたら
20. purest note ~あたたかい音
21. Freedom Dreamer
茅原実里 20th Anniversary Acoustic Concert
2024年12月20日~22日
出演:茅原実里 大嵜慶子
河口湖円形ホールにて
関連リンク
茅原実里オフィシャルサイト
https://minorichihara.com/
茅原実里オフィシャルX
https://x.com/minori_contact
茅原実里オフィシャルYouTube