最近もスマホRPG『モンスターストライク』のテレビCMでセーラー戦士に扮し話題になるなど、ユニークな活躍を見せるタレントのりゅうちぇる。本サイトではこれまで、そのりゅうちぇるが同調圧力に屈することなく、徹底して個人の人権や多様性を尊重していることを紹介し、絶賛してきた。
もちろんそうした姿勢はいまもまったく変わっていない。つい最近も「さすが、りゅうちぇる!」とうならせられたことがあった。
それは、『news zero』(日本テレビ)が同性婚にまつわる諸問題を特集した12月8日(7日深夜)放送「“同性婚”できないカップル ある“夫夫”の生活は?」に、コメンテーターとして出演した時のこと。
特集の冒頭で、キャスターの有働由美子から「同性カップルの結婚について考えたことがあるか」と問われたりゅうちぇるは、早速こう話した。
「自分のまわりでも、どんどん増えてきて…というか、前からいたと思うんだけど、それを公表しやすくなったのか、よく聞くし、人が人を愛する時代だし、すべての愛は美しいと思います、僕は。人が人を愛するって、異性愛とまったく同じことじゃないですか、だからなんの疑問も思わないです」
どういう性のあり方もカテゴライズすることなく「すべての愛は美しい」と肯定するのはさすがりゅうちぇるだが、「増えているわけではなく公表しやすくなっている」という表現には、りゅうちぇるが考えなしに発言しているわけではなく、性的マイノリティに対する認識の細やかさをもっていることが見てとれる。
番組では、七崎良輔さんと亮介さんという同性カップルに密着。七崎さんらは3年前に結婚したカップルで、番組では2人が結婚披露宴を行ったときの映像も紹介されていた。
2人は2015年に役所へ婚姻届を提出している。日本で同性同士の結婚は認められていないため婚姻届が受理されることはなかったが、それを承知で届け出を提出したのは「当たり前のことを当たり前にしたい」という思いがあったからだ。
『news zero』のなかで良輔さんは「自分がゲイだっていうことに気づいたときに、結婚がこの先ないんだと。自分にはもう結婚できる未来がないんだと思ったときに、足元が崩れていくような感じがして。
また、亮介さんは「なにか特別なプラスアルファを求めているわけではなくて、ただ単に平等というところの話です」と、男女の「夫婦」と同性同士のカップルを比べると、人生や生活のさまざまな局面で「不平等」が蔓延しているシステムの不備を嘆いた。
このVTRを受け、りゅうちぇるもこう語った。
「同じ愛じゃないですか、異性愛者の方と同じ愛なのに、そして、愛する人と結婚したいというのは当たり前に思うことじゃないですか。でも、性別のせいで愛が認められないというのがとっても不公平。悔しいですよね」
同性愛も異性愛も等しく愛なのに、性別の違いで結婚が認められないのは不公平。りゅうちぇるは、問題の本質をきわめてシンプルに言い切った。
続いて番組では、法的に婚姻の認められている男女の「夫婦」には認められているが、同性カップルには認められていない権利があるとして、「遺産の相続」「配偶者控除」「パートナーが集中治療室に入った際の面会や医師との話し合い」「介護休暇の取得」などを挙げた。こうした法整備がなされていないのは主要先進国7カ国のなかでは日本だけだ。
こうした同性婚をめぐる法整備の遅れについても、りゅうちぇるは「やっぱり家族になるって、2人の絆も深まるし、僕たちもそうだったので、(同性愛カップルは)それを経験できないって、すごく大きい差がありますよね」とした。
●公正証書という代替手段提案にも「愛の証明にお金がかかるのはありえない」
さらに番組では、こうした同性カップルの「不便さ」を解消するための方策として公正証書による契約という手段を紹介したのだが、異性カップルが婚姻届を出すのは当然無料だが、公正証書を作るのにはお金がかかる。りゅうちぇるはこう疑問を呈した。
「こういう取り組みを紹介するということは、やさしさだなと思うんですけど。お金がかかっちゃうのかって。(ツメ)やっぱり、愛を証明するためにお金がかかるっていうのは、ふつうじゃあり得ない話」
同性婚を認めるか認めないかは、単に便利・不便の問題ではない。同性愛の人が、異性愛の人と同等の権利を手にするために、特別なお金を払ったり特別な手続きを取らなければならないこと。すべての人に等しく与えられるべき権利を得るために、ある属性のためにその権利を得られないということ。これは差別と平等の問題だ。そのことをりゅうちぇるは喝破したうえで、すべての愛が認められるべきと主張しているのだ。
しかし右傾化の顕著な昨今の日本社会では、りゅうちぇるが言うような「すべての愛が美しい」とは真逆の価値観が根強い。
〈彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです〉(「新潮45」18年8月号/新潮社)などという「優生思想」にもつながる差別発言をした自民党の杉田水脈衆議院議員がその後、自身の言葉を撤回することなく、そして、自民党内から処分を受けることすらもなく、現在でもなんら変わりなく国会議員を続けていられている事実が、それを端的に表している。
『news zero』では、視聴者から寄せられた同性婚に対する反対意見も紹介された。「日本の伝統的な家族観が失われる」「少子化につながる」といったものが主な反対意見だが、それに対してりゅうちぇるは、自身の体験を交えながら語った。
りゅうちぇるはテレビに出るようになった当初は、当時恋人だったぺことの関係について「あの人たちは本当は付き合ってないんじゃないの?」「ビジネスカップルじゃないの?」と言われてきたと振り返る。
2人が結婚して子どもをもうけてからはそういった声もなくなってきたが、しかし、今度は「あの2人に子育てできるの?」やら「パパになるなら金髪を黒髪にしなきゃね」といった「パパだから○○すべき」「夫婦だったら××すべき」というコメントが多く寄せられるようになったという。
世間からそういった反応が起きる原因についてりゅうちぇるは「それまでこういう2人がいなかったから、見たことなかったから、なにかこう人を枠にはめたい、決めつけてしまいたいっていうのがあると思う」と分析している。
●世間の「こうあるべき」圧力と闘い続けてきたりゅうちぇる
しかし、りゅうちぇるがそうした世間の「こうあるべき」「普通」にいかに抗ってきたか、本サイトでは何度も取り上げてきた。「男らしくない。子どもができても、そういうパパでいるの? 子どもがかわいそう」と言われても、「絶対かわいいパパでいる。人に何を言われても、自分がしっかりしていれば大丈夫」「人に合わせないで自分の好き嫌いを表現できる子、しっかり自分をもった子に育てるので、お父さんがこうやって言われるのがイヤと思うなら『お父さんって思わなくてもいいよ』って言います。何か言われるのが恥ずかしいと思うような弱い子には絶対に育てない」「ずっとそう言われて育ってきたので、こうやって言われるのは人生初めてのことじゃない。家族ができて子どもができても、偽りの自分に慣れたら人に何も教えられない」などと反論し、実際に貫いてきた。
この日に『news zero』ではさらに踏み込んで「伝統的な家族観が失われる」という反対意見についても反論した。りゅうちぇるは「(伝統的にやりたいという)その意見も、もちろんあってもいいと思うんですよね、だって多様性が大事だから。その意見があってももちろんいいんだけど」と留保しつつ、しかし「伝統」に固執することの問題を、こう主張した。
「でもそれ(伝統)にとらわれてしまって、自分の生きていく人生、自分の個性や、自分の色に、自分のなかで制限をかけてしまうというのは、この世界、やっぱり、いまから生きていく世界のなかではとっても悲しいことだから、もっともっとみんなが個性をもって、自分の色で生活できるような世の中になってほしいなと本当に思いますよね」
伝統を大事にすることは否定しないが、伝統に固執することで、個人の生が制限されるのはよくない。
●“I have black friends! 論法”を駆使する差別主義者と真逆のりゅうちぇる
しかも、りゅうちぇるは上から目線でわかったように語ることはしない。
たとえば、この日も同性カップルを紹介するときと異性カップルを紹介するときで微妙にニュアンスが違ってしまうことなどを挙げ、「やっぱり当たり前じゃないっていう雰囲気がたまに出ちゃうときがどうしてもあるんですよね。そのときは、やっぱり本人たちは息苦しい世の中なんだろうなって考えるときはあります」と自身の言動をもかえりみ、性的マイノリティが感じているであろう目には見えない不自由さを思いやる。“I have black friends”論法で「ゲイの友人がいる」「レズビアンの友人がいる」と言いながら性的マイノリティ差別を垂れ流す差別主義者とは対照的だ。
異なる価値観を受け入れるにはどうしたらいいかと有働キャスターに問われたりゅうちぇるはこう答えた。
「正直、『理解』とかにまではいかないこともあると思うんですね。でも、認める、理解はできなくても認め合う、お互いの存在や、お互いの生き方、お互いの個性を認め合うっていうのは、誰でもいまからできることだと思うんですね。なので、ちょっと考え方、気持ち、思い方の違いで、明日から人への考え方、自分の生き方も変わってくるんじゃないかなと思います」
「お互いの存在や、お互いの生き方、お互いの個性を認め合う」こと。たとえ、「理解」できないことであろうとも、お互いがアイデンティティを「認め合う」ように努めること──。
りゅうちぇるが社会に向けて発信しているメッセージはずっと一貫している。
しかし同調圧力が強く、「国家のため」「伝統だから」「男だから」「女だから」「日本人だから」という主張が跋扈し「個人」が抑圧される現在の日本社会で、こうしたメッセージをりゅうちぇるのような影響力のあるタレントが積極的に発信し続けることは非常に貴重なことだ。これからもりゅうちぇるの活動に期待したい。
(編集部)