先日、3年連続となる『NHK白歌合戦』の総合司会を務めることが発表された有働由美子アナウンサー。司会者を発表するNHKの記者会見は有働アナが出演する情報番組『あさイチ』(NHK総合)で生中継され、「総合司会は有働由美子アナウンサー」と読み上げられると、ワイプと呼ばれる画面上の子窓には「え、そうなの!? ホントに? マジで!?」と手を口に当てて驚く彼女の姿が映し出されていた。

一部ネットニュースでは、「有働アナは事前に総合司会に選ばれたことを知っていたのではないのか」と報じられたが、実は有働アナは先日発売した初の著書『ウドウロク』(新潮社)で、紅白を含めたNHKの裏側を大暴露しているのである。

 例えば、紅白の司会。有働アナが初めて紅白の司会を務めたのは2001年のこと。NHKの"お偉いさん"が集まった局内の個室で司会を打診され、「記者会見は明後日。それまでは親兄弟を含め、絶対に他言無用」と厳しく釘を差されたという。大役を任されたうれしさとプレッシャーのために誰かに言いたかったという有働アナは、親しい人と連絡を絶つという手段に出るほど。
となると、今年の総合司会抜擢も事前に知っていたと見るのが自然だろう。

 有働アナやNHKが過敏になるほど、紅白に対する視聴者の注目度は高く、局内でのプレッシャーも相当なもの。それを物語る、有働アナが語るNHKの裏側は壮絶だ。紅白の司会者といえば台本をすべて暗記して本番に臨むという都市伝説があるが、司会者が初めて台本に目を通すのは、12月25日。しかも、その日は読み合わせだけで、終わり次第、情報管理を理由に没収されてしまう。実際に手元に置けるのは、本番まで残り3日となる12月27日。
出演歌手名や曲名、応援として出演する人の名前や肩書、伴奏者名などがすべて記された、厚さ3.5センチ、前後編2冊にわたる台本をそのタイミングから覚え始めるという過酷さなのだ。

 本番中は3秒押しただけでも、スタッフ間では「バカヤロウ」「このヘタクソ」といった荒々しい言葉が飛び交い、突発的な出来事にも臨機応変に対応しなければならず、有働アナ自身「本番のことは、しっかりとは覚えていない」というほどの緊張感。そして本番が終われば、出演者や事務所関係者と打ち上げが始まり、ビールを片手にあいさつ回り。その後、制作担当者と労をねぎらい合い、終了......と思いきや、スタッフとともにカラオケボックスに繰り出し、紅白の1曲目から全曲を入れ、曲紹介をしていく「紅白やり直し」がスタート。「絶対にミスがあってはならない」というプレッシャーから解放されたゆえの宴なのかもしれない。

 紅白ほどではないが、平日の朝の『あさイチ』も生放送ゆえに緊張する番組。
そのため大きな反響を集めたのが、有働アナの「脇汗」問題である。これは、番組中に有働アナが、自身の脇汗に対する視聴者からの苦言ファクスを読み上げたことが発端。有働アナ自身はまったく気にしていなかったものの、視聴者から飲み薬や張り薬、下着を送ってもらったため、「見苦しさ軽減」のために対策を講じることに。ある時には衣装スタッフが透明のガムテープを意気揚々と持ってきたので試したところ、「完全に毛穴を塞いでしまうので、確かに一滴も落ちてこない」と効果は抜群。しかし、はがすときに大量の汗が落ち、ひきはがすときの痛みが強く、2~3日続けたときにはしばらく長袖しか着られないほど帯状に皮膚がただれてしまったという。軽妙な筆致で書かれているが、脇汗という生理現象さえNHKアナウンサーであるがゆえに、世間から厳しい目に晒されることを露呈したエピソードだ。


 脇汗を開き直るなど、いまや局の看板アナとして堂々たる立ち居振る舞いの有働アナだが、人生で一番大変だった時期と振り返るのが、アメリカ総局特派員としてニューヨークに赴任した3年間。こう書くと、有働アナが流ちょうな英語を話すとイメージしがちだが、学生時代に留学経験はなく、大手英会話教室に通っていたという実績のみ。アナウンサーには帰国子女が多いため、まさか自分に辞令が降りるとは思わずに、毎年の考課表の「英語がどの程度理解できるか」という質問には、実際「簡単な業務打ち合わせができる」レベルだったのに、「こみいった業務の打ち合わせができる」という欄に○をつけていたそうだ。語学力をチェックすることもなく、考課表だけをもとに辞令を出したNHKの対応にも驚きを禁じ得ないが......。

 ヒアリングも怪しい状態だったが、出発前には可能な限り英会話教室に通い、赴任後は現地の人と積極的に食事に行くのはもちろん、夜中にオフィスに仕掛けておいたボイスレコーダーで自分たちの会話を聞き直し、意味がわからなかったことを調べ、翌日の業務の予習をこなすなど自力で語学力を高めていく。そのために帰宅するのは午前3時、4時となり、睡眠時間は2~3時間という毎日。
その努力が功を奏したのか、生中継の現場で起こったアクシデントを機に、自分の思ったままに英語を操れるようになったという。まさに自分で自分の居場所をつかみ取った形だ。

 ときにお役所体質と非難されるNHKにおいて、有働アナの存在自体が"異例"づくしなのだろう。本書の中にも「言いたいことはいっぱいある。理不尽なことがいっぱいある。辞める理由がいっぱいある。
それでも、私は行く。」と、会社に行く自分を奮い立たせる散文がある。異質だからこそ視聴者に愛される彼女。昨年の紅白では、衣装がセクシー過ぎるという批判もあったが、今年はどんな"騒ぎ"を起こしてくれるのか、楽しみにしたい。
(江崎理生)