ジャニーズ事務所公式企業サイトより


 2日、ジャニーズ事務所が会見を開き、新社長の東山紀之らが「SMILE-UP.」への名称変更や新たなエージェント会社の設立などについて発表した。結局、肝心なところはごまかしているジャニーズ側の姿勢に呆れたが、もっと愕然としたのは、会見直後から、「記者の態度」が“炎上”していることだ。

 今回の会見では、質問に当てられない記者が声を上げ、現場が騒然としたのだが、その状況が「記者たちがルール無視で騒いだ」などと批判を浴びているのだ。

 一方、なぜか持ち上げられているのが、新たに設立されるエージェント会社の副社長に就任する井ノ原快彦だ。井ノ原は記者たちが声をあげ、場が騒然となった際、こう語って記者たちを諌めた。

「こういう会見の場は全国に生放送で伝わっておりまして、小さな子どもたち、自分にも子どもがいます。ジャニーズJr.の子たちもいますし、それこそ被害者のみなさんが『自分たちのことでこんなに揉めてるのか』というのは僕は見せたくないので、できるかぎりルールを守りながら、ルールを守っていく大人たちの姿をこの会見では見せていきたいって思ってますので、どうか、どうか落ち着いてお願いします」

 すると、会見上では拍手が巻き起こったのだ。

 しかも、スポーツ紙やネットメディアはこぞってこの場面を紹介し、「井ノ原の訴えに会場から拍手」(日刊スポーツ)、「ジャニーズ事務所会見、怒号飛び交う 井ノ原快彦が理解求める ルール無用の会見は「見せたくない」」(ORICON NEWS)などと伝えた。

 ネット上でも、記者バッシングが巻き起こり、〈ジャニーズに社会のルールを守れと言ってる記者たちが、どうして会見のルールを守らないんだ!!!〉〈記者の質問、女性記者のレベルが低い中、イノッチ本当に素晴らしい〉〈意味不明な質問をする記者なんかより、ジャニーズ事務所の方が誠実かつ冷静に対応していて、どう考えても記者よりジャニーズ事務所の方が好感を持てます〉などという意見が数多く寄せられる事態となっている。

 しかし、これ、どう考えてもおかしいだろう。まず、持ち上げられている井ノ原の発言だが、井ノ原はトップが子ども相手に性加害をおこない、しかも組織ぐるみでその行為を隠蔽してきた企業を代表して会見に出ているのだ。その人物が「ルールを守らない様子を子どもに見せたくない」と言った趣旨の発言をするとは、いったいどの口が、という話だろう。

 しかし、それ以前に、もっと問題なのは、声を上げた記者たちが「ルールを守っていない記者」として扱われ、批判を浴びていることだ。

 言っておくが、今回の会見では、ジャニーズ側が一方的に自分たちに有利な「ルール」を押し付けていた。

「会場の関係で会見は2時間」と宣言したのも、質疑応答では「1社1問」「指名した記者にマイクを渡すので質問を」などと指定したのも、すべてジャニーズ側。

 不祥事を起こした企業がこんなルールを押し付けてくるなんてあり得ないが、ジャニーズ側はこのルールを盾にして、手を挙げている記者たちを無視。多くの質問に答えることなく、会見を終えてしまったのだ。

 実際、統一教会追及で知られるジャーナリストの鈴木エイト氏もこの会見に参加していたが、会見についてX(旧ツイッター)にこう投稿していた。

〈前回とは異なり質疑応答は途中で終わり、最後まで当ててもらえなかった。確認したかったのは逸失利益に関すること〉

 また、評論家の荻上チキ氏も『荻上チキ・Session』(TBSラジオ)で、TBSラジオの澤田大樹記者とともに会見に出席、2人とも挙手していたものの指名されなかったとして、「まだまだ手が挙がって、指されていない方が多くいた」と語った。

 しかも、ジャニーズ側は意図的に厳しい質問をする質問者を避けていたフシがある。たとえば、前回、会見に参加してジャニーズに対して厳しい追及をおこなった東京新聞の望月衣塑子氏や「Arc Times」の尾形聡彦編集長は、手を挙げていたにもかかわらず、まったく当てられなかった。当の尾形氏はこうツイートしている、

〈最前列の真ん中に座って、ずっと手を挙げ続けた私と望月さんを絶対に当てないことを事前に決めていたとしか思えない会見で、失望し、憤りを覚えました〉
〈最初は当然質問が当たるだろうと思って、黙って手を挙げていました。が、ジャニーズ事務所と司会者側の最前列の私たちを当てないという意思が、会見が進むにつれて明白になりました。途中から、会場で声を上げざるを得ませんでした〉
〈厳しい質問をするであろう私と望月さんを絶対に当てない、という八百長のような不正なルールを容認するわけにはいきません〉

 望月記者も「今回は、おそらく私と尾形さんは完全にマークされている感じだった」と述べている。

 質問に当てられなかった当事者以外からも、同様の指摘が出ている。

会見で質問をおこなったアカデミック・ジャーナリストである柴田優呼氏は、会見後、旧ツイッターでこう指摘している。

〈私が質問できたのは、たぶん前回いなかったから。厳しい内容だったので、すぐ後ろから「長い」と男性の声が飛んだ。前回質問した記者の多くが質問できなかったのではと思った (鈴木エイト氏とか)。「顔が覚えられない」と司会が途中で言ったのは意味深。〉
〈全てシナリオができている、と会場で話す人もいた。

調査報告書が求めたメディアとの対話は早くも反故に。〉

 ようするに、会見場が騒然としたのは、ジャニーズ側のこうした理不尽な対応に対し、質問を無視されたジャーナリストや記者たちが、マイクを通さず質問の更問いをしたり抗議をおこなったということにすぎない。

 なかでも、望月記者は、司会者が会見を強引に打ち切ろうとした際、マイクなしで声を上げ、“ジャニーズの番頭”として長年事務所の中枢にあり “ジャニーズをもっとも知る男”と呼ばれてきた元副社長の白波瀬傑氏に言及。「白波瀬氏は前回……」と東山社長に投げかけると、東山社長は「白波瀬さんにはやはり説明責任があると思うので、うちの事務所に携わってくれた人たち、やはり協力を仰ぎたいなと思うので、それも含めて検討していきたいと思う」と回答した。

 このやりとりは、毎日新聞が「東山氏、白波瀬前副社長に「説明責任ある」」と題して記事にしたように、非常に重要な意味を持つ。望月記者は挙手しても当てられることはなかったが、報道として価値ある言質を引き出す質問をおこなっていたのだ。

 ところが、こうした追及に対して、勝手なルールを設けた側である井ノ原らが「子どものために」などという美辞麗句で抑え込もうとすると、会場からはよりにもよって拍手が起こり、井ノ原側についてしまったのだ。

 そして、御用メディアのスポーツ紙やネットメディアが“暴走記者に対して井ノ原が冷静に呼びかけ”といったかたちで記事にして拡散したのである。

 ジャニーズ事務所で性加害がここまで広がったのは、ジャニー本人や事務所の問題だけでなく、そうした実態があるにもかかわらず、ジャニーズ事務所に唯々諾々と従って、批判を封じ込めてきたマスコミの責任が大きいが、その体質はまったく変わっていないということではないか。

 実際、今回、会見で抗議の声を上げたことで、バッシングを受けている前出の尾形氏は、会見での御用マスコミのふるまいを暴いた上、こう喝破している。

〈驚いたのは、真面目に質問しようとする私たちに対する、テレビや新聞の大手メディアのスチールカメラマンやビデオカメラマンたち、芸能リポーターたちからのヤジでした。不正な「ルール」であってもジャニーズ事務所の意向に従え、と言う彼ら彼女らの忖度と共犯性が、ジャニー喜多川氏の性加害を50年にわたって続けさせてきた原動力であり、その共犯関係がいまも根強く続いていることを思い知りました。〉
〈多くのメディアが、私や望月さんを批判する記事を書くでしょう。私は彼らに問いたいと思います。あなたは、八百長を強要するルールを守れと言うのか。そして、あなたたちはジャニー喜多川氏の数十年に及ぶ性加害のなかで、何をしてきたのか。メディア人としての悔恨や怒り、責任感は全くないのか、と。〉
〈新社長や新副社長に説明責任を求める私たちの質問から、ジャニーズ事務所は徹底して逃げようとしました。東山氏は私の質問に少しだけ答えましたが、マイクを持った質問はさせてもらえませんでした。
そしてその状況を、社会の公器である、記者やカメラマンたちが、性加害問題を解明しようとは全くせずに、逃げるジャニーズ事務所に同調して私たちに匿名でヤジを浴びせ、ジャニーズ側に同調して拍手までしている。
今日の会見で性加害問題を数十年隠蔽してきたジャニーズ事務所の体質が全く変わっていないことが露呈しました。そして共犯であるテレビ・新聞が、追及しようとする記者たちに怒号を浴びせる、おぞましい姿を目の当たりにしました。
この問題は全く終わっておらず、むしろ解明が始まったばかりであり、ジャニーズ事務所やそれを取り巻くメディアが必死の隠蔽を続けようとしているのだ、ということを体感しました。〉

 尾形氏の言うように、マスコミはいまも、本音のところでは、ジャニーズの不祥事を隠蔽したがっているのである。いまは世論の目が厳しいから批判しているフリをしていても、実際は決定的なことは追及しようとしない。そして、誰かがそこを追及しようとすると、とたんにスクラムを組んでつぶしにかかる。

 マスコミがこういう状態では、今後、芸能界で同じような問題が起きても報道されることはないし、もしかすると、ほとぼりがさめたらジャニーズタブーも復活する可能性すらある。

 しかも暗澹とさせられるのが、こうした権力者と御用マスコミが結託した「ルール」による批判封殺は、今回のジャニーズ、芸能だけではないことだ。

 ジャニーズ会見でバッシングを受けている尾形氏は、今年5月のG7サミット後の岸田文雄首相の会見でも、記者クラブと官邸側がグルになった馴れ合いの茶番会見に抗議の声をあげ、計4名の質問に答えただけで会見を切り上げようとする岸田首相に「逃げるんですか」と呼びかけたことがあった。じつはこのときも、ネット上では尾形氏に対するバッシングが起こり、「言葉遣いがなっていない」「空気を読め」「非常に失礼で傲慢」などという批判が巻き起こった。

 望月記者に対しても同様だ。望月記者は安倍政権下の菅義偉官房長官記者会見での厳しい質問で注目を集めるようになった記者だが、当時の菅官房長官は望月記者に対して「あなたに答える必要はありません」「ここは質問に答える場所ではない」などと職責を放棄して暴言を吐き、官邸報道室長が質問を妨害・制限を加えた上、内閣記者会に“望月記者をどうにかしろ”と恫喝をかけるような文書を提示するなど、望月記者排除の動きが加速。それと呼応するかのように、ネット上ではネトウヨによる望月記者へのバッシングがつづいた。

 あらためて言うまでもなく、本来、政権や為政者が記者の自由な質問を制限することは、民主主義の国としてありえないことだ。ところが、この国ではとくに安倍政権以降、記者の政権忖度が進み、記者会見の出来レース化やそれに異を唱える記者の排除が起こってきた。そうした報道を見続けてきた結果、ニュースの受け取り側である市民までもが本来あるべき記者の責務を「礼儀を守ること」「(一方的に)設けられたルールを守ること」だと考えているのではないか。

 だとすれば、今回のジャニーズ会見と記者バッシングは、安倍政権以降の歪みきった記者会見のあり様を浮き彫りにしたとも言える。そして、責任追及の場であるべき会見で記者の態度を目の敵にし、旧来のメディアコントロールを図ったジャニーズ事務所の姿勢を看過すれば、性加害をスルーしてきたメディアの責任問題はこのまま覆い隠されていくだろう。