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あんなに芸能人らしくない芸能人に出会ったのは初めてでした。岡江久美子さんのことです。
石川さんは特に意識していなかったようですが、僕は、朝の時間帯に、ワイドショー以外の番組をつくることが命題であると固く思っていました。そこで僕たちは石川さんが既に決めていたふたりの司会者の名前を告げられました。岡江久美子さんと薬丸裕英さんです。僕は初めて仕事をするふたりでしたが、石川さんは何らかの勝算を持っているようでした。
石川さんはこう切り出しました。「ワイドショーっぽいっていうのはどういうことですか」僕はこう答えたと思います。
[参考]<水曜日のダウンタウン>ネットでダメ出しされても何一つ直さない説?
それから、僕は、それまで何回か構成したことのある、ワイドショーの司会者に抱いていた不信感を口にしました。「司会の人は毎日やってきますが、全く何を話すか考えてきません。何も考えないで仕事に臨む人を僕は信用できません。番組の冒頭に2分、時間を取ってはどうでしょうか。そこでは岡江さんと薬丸さんに、日々の身辺雑記を話してもらいます。台本のないフリートークです。毎日何を話すか考えてきてもらうのです」
放送作家が台本を書かないという提案。しかし、集まった、石川さん、吉田さん、山田さん、腰山さん、意外にも、全員が賛成してくれたのです。
うまく行くかどうかは分からないという不安は、第一回目の放送で氷解しました。岡江さんと薬丸さんは見事にフリーで夫婦漫才を繰り広げてくれたのです。
スタッフと出演者が、参加する芋煮会が多摩川で行われました。岡江さんもいらしたこの芋煮会に、僕は妻とふたりの息子を連れて参加しました。妻が岡江さんに挨拶しました。すると、岡江さんは妻にこう尋ねたのです。「後妻さんですか」僕はひっくり返りそうになりました。確かに僕は見た目がじいさんです。
下北沢の焼き肉屋さんで岡江さん一家と偶然鉢合わせしたことがあります。隣のテーブルでした。ご主人の大和田獏さん、お嬢さんの美帆さんは、匂い立つようなティーンエイジャーだったと記憶しています。僕がもぞもぞと挨拶をしていると、連れてきた小学一年生の次男が突然立ち上がって大声でこう言ったのです。
「〇〇小学校一年一組、高橋〇〇です、趣味は特撮です」
店中の人が振り向きました。妻は慌てて非礼をわびます。すると岡江さんは笑って次男に、こう言ったのです。
「上手に挨拶できたわね。
次男は褒められてニコニコです。いまは、もう20代も後半になった次男は一度しかあったことのない岡江さんの死を知って涙を流しています。
TBSにおねがいがあります。『はなまるマーケット』のどの回でもいいですから、編集しないでまるまる一本、同じ時間帯に流してくれませんか。