高橋秀樹[放送作家]

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情報番組やニュース番組などでは、VTRを見ている「出演者の顔」が画面の片隅に入る。「ワイプで出演者の顔を抜く」という技法である。
それ自体は悪いことではない。でもこの技法を使っていながら、技法の「意味や効果」をわかっていないバカなディレクターが多すぎる。

この「ワイプ」は、ビデオジョッキーという型ができた時から始まった。外のロケに担いで持っていけるビデオカメラが出来たのはそう昔のことではなく、30年ほど前だ。これが出来て以来、取材VTRを見ながらスタジオでしゃべるという「ビデオジョッキー」という形式がバラエティやワイドショーを席巻した。

そうなると、せっかくキャスティングした大物タレントの露出がVTRのせいで少なくなる。せっかく高いギャラを払っているのにもったいない。それを防ためにワイプで大物の顔を出した。それが始まりである。

さらに、一部の手抜き大物タレントが、VTRを見ていないという自体が発生するようになった、そこで、「あなたの顔はきちんと撮っています。だからVTRをきちんと見て下さい」というメッセージを発するためにワイプで抜いた。

前者でいえば、めったにゲストにでない大物、木村拓哉の顔を抜いておけば視聴率に貢献するかもしれない。
後者で言えば寝ている演者や、私語する演者を排除できるかもしれない。

ところで、こうしたワイプ抜きは始まった当初は「邪道」と言われていた。

ビデオジョッキーの形を完成させたのは、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(1985~1996・日本テレビ)だと思う。

番組が成功したのはVTRでスタジオに流すコーナーが面白かったからだが、VTRに自信があるので、流れている間にビートたけし松方弘樹の顔を抜くことはしなかった。

顔が入ったらかえってVTR の面白さを損なうからだ。そのかわりVTRが終わって、スタジオに降りる際の工夫はいつもきちんとなされていた。

『ぴったしカン・カン』(1975~1986・TBS)という番組をやっていた。久米宏が司会でコント55号が出演する。常時30%を越える視聴率をとった、この番組冒頭に「フィルム問題」というのがあった。取材はアリフレックスという16ミリのフィルムカメラで撮っていた。

オーストラリアのサンタクロースはサーフィンに乗ってやってくる、といったようなトピックスを取材するのである。この「フィルム問題」はフィルム編集で行うので編集はすべてカットつなぎである。
賭けていたのは最終カットである。どう、コント55号と久米宏を笑わせるか? 誇大な言葉を使えば命を賭けていた。そこでは、リアクションを貰えばいいのであって、顔ワイプなど考えたこともなかった。何度めかのテイクでサンタクロースは見事に海に落ちた、というわけだ。

さて、これまで言ったことを簡潔にまとめると次のようになる。

・VTRが面白ければ顔ワイプはいらない。
・視聴率の取れる大物でもなければワイプはいらない。
・視聴率の取れない演者のワイプを入れているのは、ワイプの役目を知らないバカなディレクターだ。
・だだらに顔ワイプを入れるのは「このVTRは面白くない」という印を入れているようなものだ。

ところで、こういう顔ワイプやテロップの字体や色や大きさにやたらとこだわって、会議で激論をするプロデューサーがいるが、あれは、最も出来ないタイプだ。

プロデューサーは、

 「顔ワイプなんかいらないような面白いVTRつくれ!」

と発破をかけるのが役目である。

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