新井広光さんのLIFE STORY
[INDEX-AREA]「介護」は特別なことじゃない。幼少期から育まれた、高齢者を支える意識
まずは前職のお話を聞かせてください。
アパレルの会社で働いていました。店舗での販売スタッフを経験した後はWebサイト事業部へ異動し、ECサイトや自社HPの運営を任されていました。
学生時代に通っていたアパレルショップの店長から「うちで働かないか?」と誘われたのがきっかけです。好きな洋服に触れていられるのは魅力的だなと思い、就職を決めました。
Before After 雇用形態 正社員 正社員 業種 アパレル 訪問入浴 職種 WEB事業部主任 事業所長 勤務時間 11:00~20:00 8:30~17:30 休日 月8日のシフト制 週休2日のシフト制 仕事内容 ECサイト運営・WEBデザイン 入浴介助・管理業務福祉系の専門学校ご出身だと伺いましたが、最初は異業種の道へと進まれたんですね。
両親に「高校卒業後は、何か資格を取って手に職を付けなさい」と言われたことから、介護福祉士の資格が取れる専門学校を選びました。親には色々と迷惑をかけたので(苦笑)、親孝行しないといけないなと。
でも正直なところ、福祉への特別な想いは持っていませんでした。学校で介護の勉強をした後、実際に介護職に就かなかったとしても、家族の世話などで将来的には役に立つだろうからまぁいいか、程度の軽い気持ちで入学しました。
当初から熱量が低かったのに加え、入居型介護施設で実習を受けた時に少し疑問を感じることがあり、最終的に異業種へ目を向けることになりました。
実習先で、どう感じられたのですか?
私の実家は農家で、祖父母が近くにいる環境で育ちました。周囲も同じような家庭が多く、高齢者とおしゃべりをしたり、身の回りのちょっとしたお手伝いをしたりするのは当然という土地柄でした。私にとって「介護」というのは、誰もが毎日食事や入浴をするのと同じように、日常の風景そのものだったんです。
だから、そうやって子どもの頃から当たり前にやってきたことを、施設が「介護サービス」として提供し、対価を頂戴するという仕組み自体に疑問を覚えました。「本当にこんなに簡単なことで他人様からお金をもらっていいのか?」と自問自答してしまって。若かったからこそ、生真面目に考えてしまったんでしょうね。
幼い頃から自然に身に付けていた「介護」への価値観が、現場の風景と一致しなかったのですね。
実習先では「○時に入浴、○時に食事」というふうに、入居者様の1日のスケジュールがきっちりと決められていたことにも引っかかりました。
多くの方へ必要なケアを効率良く提供するには仕方のないことですが、そこにはご本人の意思は考慮されておらず、施設の都合でつくったルールが敷かれているばかり。それが私にはどうしても受け入れられませんでした。
介護の世界で働くのはちょっと無理かもしれない…と感じたことが、別の道へ進む決定打になったんです。
なるほど。色々と考えさせられるお話です。では、新卒で入ったアパレルの会社を退職された理由は?
仕事自体は気に入っていましたが、個々の成果や能力に対しての報酬制度が整っておらず、ずっとモヤモヤした感情を抱えていたんです。役職が付き、課せられる責任が大きくなるのと反比例するように、自分のモチベーションは下がるばかりでした。
勤続10年を区切りに転職することを決めた時、せっかく学生時代に介護福祉士の資格も取ったわけですし、一度くらいは介護職も経験してみようと思いました。そして2015年、介護スタッフとしてアサヒサンクリーン株式会社へ入社することになります。
一度は見送った介護業界での心機一転に、不安はありませんでしたか?
退職前は自社HPをはじめ、サイト運営に関する部署に5年間所属しており、制作やWebマーケティングのキャリアも積んでいました。
介護職として実際に働いてみて、万が一「やっぱりダメだ」と感じても、IT系企業への転職や独立の道に方針転換すればいいかなと思っていましたね。介護の分野以外で自分の強みを手に入れていたことで、気持ちに余裕を持って新しい職場にチャレンジできた気がします。
訪問入浴ってこんなサービス!お風呂を待ち望む利用者様のために
今の職場を転職先に選んだのはなぜですか?
入所施設での介護業務だと、また専門学校時代のように違和感を覚えてしまうかもしれません。それに、施設という1ヵ所に留まって働く勤務スタイル自体が、私には刺激が足りず向いていないんじゃないかとも思いました。
転職に向けて調べるうちに「訪問入浴」という介護サービスの存在を知り、「これなら働けるかもしれない」とピンときたんです。
「アサヒサンクリーン」は、日本ではじめて訪問入浴を事業化したパイオニア企業です。訪問入浴のお仕事の流れなど詳しく教えてください。
訪問入浴は、要介護の在宅高齢者に向けた入浴介助サービスです。事業所のスタッフは介護職員2名・看護職員1名の3人一組でチームを組み、利用者様のご自宅へ訪問します。
看護職員がバイタルチェックなどをする間に、介護職員が器材をセッティング。使用するのはご自宅のお風呂場ではなく、当社オリジナルの介護用浴槽を持ち込むことで、利用者様のベッドの脇で安心・安全にご入浴いただけるのが特徴です。
洗身だけでなく、お湯に浸かってのリラックスタイムも設けていますので、皆さんが本当に嬉しそうに入浴される姿にこちらも思わず笑顔になる毎日です。
1日に何件くらいのお宅を訪問されるのですか?
7件前後です。1件あたり45分間がサービス提供時間となっており、10~15分で次のご利用者様宅へ車移動してまた入浴介助をして…という流れです。
忙しそうですね!
確かに、あっという間に1日が過ぎます。でも、作業マニュアルの通りに実践すれば「時間がない!」と現場で慌てることはありません。それよりも頭を悩ませるのは、効率的に利用者様宅を回るためのスケジュール調整や運転ルートの作成です。
できるだけ隣接したエリアで回るなど、工夫が必要ですね。
そうですね。けれど、利用者様はヘルパーさんなど他の介護サービスも受けているため、こちらが訪問できる時間が限られている場合が多々あります。距離的にAさんの次はBさんのお宅へ行けるとベストだな…と思っても、そうそう都合良くはいきません(苦笑)。
ただ、最初の段階でスケジュールさえ上手く組み立てられれば、各訪問先で無理なくサービス提供でき、業務効率も上がります。この一連の調整には、前職のWeb運営の現場で身に付けたディレクションのスキルが役立っていると思います。
こういった調整はすべて新井さんが担っているのですか?
はい、事業所長として大切な仕事の1つです。入社2年目で事業所長となり、現在は上尾とさいたま市与野の2ヵ所の事業所長を兼任しています。
事業所長には、ほかにどんなお仕事があるのでしょう?
毎日の訪問入浴の現場には、もちろん私も入ります。ほかには、両事業所で約20名所属しているスタッフの管理や新人育成ですね。
また、利用者様のご家族やケアマネなど外部機関との連絡・調整業務。新規利用者獲得のため、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所へ行う営業活動も私の仕事です。
最も気を遣うポイントはどこですか?
人材マネジメントの部分かな。前職では、会社全体が体育会系の風潮だったため「上司の言うことが絶対」というベースがあったんですよ。そんな環境で経験してきた人材育成法だと、転職してからはまったく通用しなくて焦りました。
相手の性格や立場によって、応対や言葉を選ぶ重要性を痛感しました。そのため、社内のリーダー職が受けられるコーチング研修などで大いに勉強させてもらっています。
各自が現場へ出てしまう毎日だと、スタッフと顔を合わせる時間は限られますね。個々とコミュニケーションを取るためにどうしていますか?
現場から戻ってきたところをすかさず捕まえ、短時間でも顔を見て言葉を交わすようにしています。あとは、現場から現場への車中の時間ですね。ちょっとした会話でもいいのでお互いの気持ちをシェアし、信頼関係を築くようにしています。
マンネリにならない働き方が事業所スタッフの魅力のひとつ
働き方について聞かせてください。
事業所の定休日である日曜日のほか、シフト制で週に1日お休みがあります。
訪問入浴のお仕事で、やりがいを感じる瞬間はいつですか?
「ありがとう」という言葉をいただいた時ですね。利用者様の多くは介護依存度が高く、ご自身や家族だけでは入浴が難しい方。「アサヒサンクリーンさんのおかげでお風呂に入れるんだよ」と心から喜んでいただけます。在宅生活のリフレッシュの時間として入浴を楽しみにしてくれているのが僕たちも嬉しく、日々やりがいを感じています。
入浴介助は介護者にとって体の負担が大きいのではないかと気になりますが、いかがでしょうか?
そういったイメージを皆さんお持ちですよね(苦笑)。まず、介護者が腰痛などに悩む原因の1つは、中腰の無理な体勢での介助方法にあります。それを予防する目的もあり、当社ではオリジナルの浴槽を使用した入浴介助を行っているんです。低い位置での作業になるため、スタッフは膝をついて洗身などのお手伝いをすることができ、体への負担は大きく軽減されています。
働く人のことを考えられているんですね。では次に、利用者様宅へ訪問する際、心がけていることを教えてください。
まず第一に、お部屋を汚さないことに神経を使います。また、浴槽をセットするためにお部屋の調度品や布団を移動させる場合があるんですが、100%現状復帰することを意識しています。
訪問入浴の介護スタッフに向いている人って、どんな方だと思いますか?
協調性のある人、でしょうか。常にチームで動くことになるため、メンバーへの気配りとお互いをフォローし合おうという意識を持っていないと、利用者様にもご迷惑をおかけしてしまいます。
また、飽き性だったり、物事を思い詰めてしまうタイプの人に向いているかもしれません。私もそうですが、ずっと同じ場所で働いていると、業務中に頭を切り替えることって普通はなかなか難しいんじゃないかな。ちょっとしたミスを引きずってしまったりね。
でも訪問入浴なら、ケアが終わるたびに別の場所へ移動するため、1回1回気持ちがリセットできるのがメリットだと感じます。
会社の一員として、自分ができることを積み重ねたい
新井さんのこれからの目標は?
訪問入浴の仕事が好きなので、現場の第一線で長く活躍していたいですね。また、日頃お世話になっている埼玉支店長がよく口にする「自社ビルを構える」という目標。その夢を実現するためには、事業所を率いる人間のひとりとして、私もさらなる努力が必要です。
エリア内の利用率を上げるための営業活動、スキルの高い人材を増やし育てることで、会社の発展に貢献していきたく思っています。
最後に、介護業界への転職を目指す方へメッセージをお願いします。
未経験の方は、戸惑いや不安な気持ちがあって当然だと思います。「介護業界は大変そう」なんてイメージもありますからね。それに、待遇や給与面を心配される方もいるかもしれません。
実は私も、当社の求人票をはじめて見た時「本当にこんなに高収入なの?」と、正直なところ疑っていたんですよ。報酬面への不満が前職を辞めるきっかけになったため、こんな美味しい話はあるわけないと、まさに疑心暗鬼の塊ですね(笑)。
でも、実際に入社してみて、頑張った結果に対してきちんと評価をしてくれる給与制度に間違いはありませんでした。
また、人の命を預かる介護の世界では、手厚い研修制度が用意されている場合がほとんど。知識やスキルは後からいくらでも付いてくるものです。だからまずは、とにかく一度挑戦してみましょう!
撮影:丸山剛史