【科目】介護✕在宅介護  【テーマ】遅すぎる政府のコロナ対応

【目次】 家庭内感染で陽性者よりも陰性者の隔離期間が長くなった 「陽陽介護」を強いられる介護施設 高齢者施設で不足する抗原検査キット

新型コロナの感染拡大の第6波では、陽性者が自宅待機となり、濃厚接触者である同居家族(陰性)の社会復帰が大きく遅れるという事態が多く見受けられました。

これにより、介護施設では大きな混乱が起きたそうです。

今回は、当時の状況を関係者への取材を通して、紹介いたします。

家庭内感染で陽性者よりも陰性者の隔離期間が長くなった

第5波までは多くの自治体で陽性になった人は入院などの隔離措置が取られていたため、その時点から濃厚接触者(陰性)である家族は、陽性者との接触がなくなりました。

しかし、今回は子どもが感染者になり、入院しないパターンも多く見受けられました。例えば、ある介護施設に勤める職員のお子さんに、陽性反応が出たケース。ここで何が起きたのかを、振り返ってみましょう。

お子さんの発症日は今年の1月17日。入院せずに自宅療養になりました。

この時点で介護職員の母親を初め、家族全員が濃厚接触者となりましたが、検査の結果は全員が陰性でした。

しかし、ここからが問題でした。陽性者との最終接触日も1月27日となるため、濃厚接触者は最終接触日から、10日間が待機期間とされたのです。

その結果、保健所から言われた自宅待機解除の日は2月7日。つまり「10日+10日=20日」が待機期間となったのです。

陽性者は10日間だけなのに、元気な濃厚接触者(陰性)は最終接触日から10日、実質20日間の自宅待機という異常な状況が生まれました。

療養の場所は自宅がほとんどだったため、このような事態が起こってしまったのです。介護職員などのエッセンシャルワーカーの待期期間は6日間だったとはいえ、それでも16日間。以前の14日間よりも長くなってしまいました。

「10日+10日ルール」によって介護現場にもたらされた大混乱...の画像はこちら >>

「陽陽介護」を強いられる介護施設

第6波は子どもや孫、幼児から高校生くらいまでのお子さんが多く感染しました。家庭内感染では同居人が陽性となると、自身が陰性でも濃厚接触者だと保健所から言われてしまいました。

その結果、医療や介護の現場に入る人がどんどん減っていくという深刻な事態に直面したのです。

実際、どのようなことが現場で起こっていたのか、複数の介護施設代表者であるAさんにお話を伺うと、当時の切羽詰まった心境を打ち明けてくれました。

「1月の時点で、自宅でコロナ陽性が出た職員を抱えた施設では、かなりの混乱がありました。私も保健所に直接電話をし、どのように捉えたら良いのか尋ねたこともありますが、16日の待機が相当と言われ、自分のところで起きてしまったらと恐怖を覚えました」

実は、現在も混乱が続いており、人手不足が深刻な事態を引き起こしています。Aさんは同業者から聞いた、こんな情報も明かしてくれました。

「現状も高齢者接種の遅れから介護施設でのクラスターが発生して職員が足りず、陽性者が陽性者を介護する『陽陽介護』をせざるを得ない施設も出ていると聞いております」

それほど状況はひっ迫しているのです。

高齢者施設で不足する抗原検査キット

もうひとつ深刻な問題が浮上しています。それは抗原検査キットの問題です。

「待機期間短縮のために2日間の抗原検査を行う必要がありますが、そのキット自体が不足しています。また、施設でキットを職員に配布しなければならないのですが、その費用はもちろん施設持ちで、国の助成がありませんでした」

これは2月6日に取材した時点でのコメントですが、最も大きな問題は、高齢者へのワクチン接種が大幅に遅れたことにあります。

2月24日、厚生労働省にこの問題について尋ねると、次のような答えが返ってきました。

「2月18日の事務連絡で、まさにその件をうたっています。高齢者施設に限らせていただいておりますが、行政検査になりますので、国の負担になります」

そのうえで、同省のホームページにある「自治体・医療機関向けの情報一覧」を参照するように言われました。

これは同省の新型コロナウイルス感染症対策推進本部が1月7日付で、各都道府県・各保険所設置市・特別区の衛星主管部(局)宛てに出した業務連絡を、2月18日付で一部改正したものです。

気になる改正箇所は、以下の通りです。わざとわかりにくくしているのではないか、と思いたくなる言い回しですが、実態をわかっていただくためにそのまま引用しています。

「今般の一部変更により、濃厚接触者になった場合の待機を早期に解除するための検査を集中的実施計画に位置づける場合、集中的実施計画を変更するとともに、変更後の計画を厚生労働省に、2月28日(月)中に報告してください。(報告前に検査を開始することも差し支えありません。また、期限後に開始頂くことも可能ですので、ご相談ください)」

集中的実施計画とは、高齢者施設に勤める人に対して、計画的に実施される抗原検査のことです。このように期限を設けたうえで、相談を前提として、検査実施の前倒しを認めていました。

さらに「集中的実施計画の策定及び実施について」という項目の中に、「社会機能保持者(エッセンシャルワーカー)の濃厚接触者の待機を早期解除するための検査」として次のような記述があります。

「集中的実施計画を策定し、頻回な検査を実施している場合、当該計画で対象としている施設等における、社会機能維持者が濃厚接触者になった場合の待機を早期に解除するための検査について、集中的実施計画に基づく検査の一環として行うことは差し支えありません。

(中略)なお、集中的実施計画に基づく検査の一環として、実施可能な範囲は、原則、頻回な検査を行う対象として集中的実施計画に位置づけられている施設等となりますが、現時点で、自治体が集中的実施計画を策定していない場合や、集中的実施計画に位置づけられていない施設等であっても、今後、自治体が、頻回な検査を行う対象として集中的実施計画に位置づける予定がある施設等については、当該施設等における社会機能維持者が濃厚接触者になった場合の待機を早期に解除するための検査のみを実施することも差し支えありません」

厚労省側もようやく重い腰を上げたわけですが、前出のAさんは「まさに今さらですね…。ないよりはましですが」と冷ややかな反応でした。それもそのはず、最も大変だったのは今年の1月から2月初旬。遅きに失した感は否めません。

都内の介護関係者も「都や日本財団などは、申請すれば、検査キットの無料配布をしてくれていますが、濃厚接触者の自宅待機による人手不足もあり、自主休業していく事業者もいるなど現場はバタバタです。

また、その対応に疲弊しています。自治体でも独自の対応をしていますが、それはつまり、国の判断や指示を待てないからということです」と厳しく指摘していました。

コロナ禍において、最も求められているスピード感は、行政の上に行けば行くほど、欠けているように感じます。

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