夏の脱水症状が命の危険を伴う可能性が高いことは広く知られていて、テレビなどでも水分補給と温度・湿度管理について盛んに注意喚起が行われています。

一方、冬は汗をかく機会も減り、喉の渇きを感じにくくなるため、夏に比べると脱水の意識も低下しがちです。

しかし、高齢者の冬の脱水は体感を得にくいからこそ注意が必要です。そこに潜む危険性とその対策についてご紹介します。

高齢者の冬の脱水、水分補給の必要性

体に不可欠な水分だけでなく、体液量(カリウムやナトリウムを含む細胞液)が不足した状態を脱水といいます。

私たちは普通に過ごしていても汗や尿、呼気などで1日に1,500~2,500mlの体液を失っており、さらに体温によって皮膚で蒸発する水分も含めると、実に多くの水分が失われています。

脱水の場合、なんらかの理由で体内の良好な水分状態を保てないうえに、水分と体液を同時に失っていることになります。

加齢に伴い、筋肉量、骨量、細胞数の低下が起こり、体の機能は大きく変化します。そのため高齢者は気づかぬうちに体に蓄える水分が減少した状態で生活しているのです。

冬は冷えと相まって「トイレが近くなるから」という理由で水分摂取を控える方も多くなります。介護状態にある方は、おむつ交換の頻度が増えてしまうことを懸念して水分摂取量を調整する方もいるようです。

冬の脱水状態は、気づきにくく水分補給が遅れれば命にかかわる場合もあります。

そのため、必要な水分補給が負担とならないように高齢者やそのご家族、周囲の方は水分補給の重要性を知っておく必要があります。高齢者が脱水状態になりやすい理由を次にまとめてみました。

高齢者が脱水状態になりやすい主な理由

筋肉量が低下する 体の中で最も水分含有量の多い場所である筋肉が減少することにより、多くの水分を貯えることができなくなる 喉の渇きを感じにくい 加齢によって「喉が渇いた」と感じ取る脳の機能が低下するため、水分摂取が遅れがちになる 食事の全体量が減っている 加齢による活動量の低下、嚥下機能の低下により食事摂取量が不足、食事の際に摂るべき水分量も減少している

ほかにも、高血圧治療などに用いる利尿作用のある薬の服用、頻尿を理由とした水分摂取控えなどが脱水状態を招く原因となる場合があります。治療に必要な薬と水分摂取の関係を知り、冬場の脱水対策に備えましょう。

脱水を防ぐ水分補給のタイミング

暖房器具を使用した室内では空気が乾燥し、自覚がないまま皮膚・鼻の粘膜や口の中の乾燥が起こりやすくなります。室内の湿度を適度に保つとともに意識をして水分摂取を行う必要があります。

就寝前

就寝中は、長くて6~7時間水分を摂取しない状況が続きます。夜間の脱水対策として就寝前に水分補給を行う習慣をつけましょう。

入眠すると体温が下がり、皮膚を通して放熱が活発になります。夜間の脱水状態は、脳梗塞などのリスクが高まるので、就寝中の健康を守るためにも寝る前の水分補給は大切です。

また、夜間トイレに起きた際は、コップに1杯の水を飲むことをおすすめします。

水分補給とともに口の中や喉の乾燥を防ぐことができます。

起床時 寝ている間も室内の乾燥、呼気や皮膚からの放熱によって失われる水分が多くなります。寝ている間に失った水分を起床時に補うことが重要です。

起床時は、補給目的だけでなく、からだを目覚めさせ胃腸の働きを活発にするなど1日を快適に過ごすための役割も兼ね備えています。

入浴前後 入浴時には多くの汗とともに多量の水分が失われています。血液が濃縮されるのを防ぐためにも入浴前後の水分補給を行いましょう。
運動前後 運動時、汗をかくことで熱を放出し、体温調節を行っています。水分が不足すると血液の濃度が高まり酸素を運ぶ力も弱まります。運動を行う30分くらい前に適度な水分補給を行いましょう。
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好ましい飲みものと温度について

飲みものの温度は、飲料の種類や飲むシーンによっても違いがあります。喉が渇いたとき、冷たい飲みものはおいしく感じますが飲み続けることはできません。普段は常温(15~20℃)に近い温度での水分補給が望ましいでしょう。

起床時に好ましい飲みもの

体温に近い30~40℃前後の白湯をおすすめします。

腸内の働きをよくし吸収を高めます。一方で冷水(5~10℃または10℃以下)をすすめる説もあります。

冷水も腸の蠕動運動※を高めますが、起床時は空腹であるため、過度な刺激となり下痢を引き起こす可能性もあります。かえって水分を失いかねないので、負担の少ない白湯は起床時の水分補給においては適しているといえるでしょう。

※消化した食べものを腸が伸びたり縮んだりを繰り返して腸内を移動させる動き

入浴後に好ましい飲みもの 入浴後は体温も上昇しています。クールダウンもかねて冷たい飲みものでも構いません。
運動後に好ましい飲みもの

運動後は汗で失ったナトリウムや適度な糖質も補うようにします。

たくさん汗をかいたとき、水分の吸収を高めたいときは、体液に近い塩分濃度であるスポーツドリンクなどを飲むことで水分の吸収を速めるようにしましょう。体温調整のためにも適度に冷やした飲みものがおすすめです。

水分補給として注意すべき飲みもの

逆に、水分補給として注意すべき飲み物もあります。

利尿作用のある飲みもの お酒、ビールなどのアルコール飲料は、利尿作用があり、就寝前の「水分補給」には適していませんのでご注意ください。 カフェインの多い飲みもの

カフェインには利尿作用があります。就寝前はカフェインを多く含む飲みものの摂取にはご注意ください。

例えば、カフェインを多く添加した清涼飲料水、インスタントコーヒー、コーヒー(浸出液)、紅茶(浸出液)、煎茶(浸出液)などがあります。

食品中のカフェイン濃度 食品名 カフェイン濃度 カフェインを多く添加した清涼飲料水 32~300mg/100mL インスタントコーヒー(顆粒製品) 1杯当たり80mg コーヒー(浸出液) 60mg/100mL 紅茶(浸出液) 30mg/100mL せん茶(浸出液) 20mg/100mL ほうじ茶(浸出液) 20mg/100mL ウーロン茶(浸出液) 20mg/100mL 玄米茶(浸出液) 10mg/100mL

水分補給に注意が必要な病気もある

脱水状態を防ぐために水分摂取の重要性をお伝えしてきましたが、中には治療によって水分制限を必要とする場合もあります。自身の体調に見合った水分摂取についてかかりつけの医師に相談しましょう。

水分の摂取に注意が必要な場合

心不全 心不全は心臓のポンプとしての機能が低下した状態であるため、過剰な水分は負担をかけてしまいます。ただ、水分制限がすべての心不全治療の方に該当するわけではないため医師にご相談ください。 腎臓病

腎機能が低下すると尿量が減り、水分をとり過ぎるとむくみ、呼吸困難、血圧上昇などにかかわることがあります。病状に合わせた水分摂取量を確認する必要があります。

【水分摂取が推奨される場合】

高血圧、痛風、認知症、発熱、嘔吐、下痢など

無理なくできる水分補給テクニック

1日に必要な水分摂取量は2.5リットルと言われています。日中飲料としての水分補給を約1.5リットルとすると、コップ1杯分(200ml程度)を1日6~8回くらいに分けて飲むといいでしょう。

また、飲料以外にも料理や汁ものなどで補うことで1日の必要摂取量をとるようにします。飲むタイミングは、朝起きたとき、朝食、昼食、夕食、入浴前後、寝る前などです。

そのほか、運動前後、帰宅時、薬を飲むときなどに補給する習慣をつけることで「飲まなきゃ」という気持ちの負担が軽減します。

全体の摂取量を把握するための方法

飲料として1日の摂取目標量を把握するため500mlの自分専用ペットボトルに水をに入れて3本分用意しておくとどれくらい飲んだのか目安がわかり便利です。

最近では、「マイボトル」が流行っており、保冷・保温に優れたサイズ・デザインともに多様な水筒が出回っています。お気に入りが見つかれば手元において活用するのもおすすめです。

高齢者は冬の脱水に要注意!予防のポイントは「コップ1杯の水」

高齢者は冬場の脱水を感じにくいため夏に比べ警戒心が低下しやすくなります。だからこそ、脱水への対策として「コップ1杯の水」の補給を習慣化することがおすすめです。元気に冬を過ごすために必要な水分補給を見直してみましょう。

参考文献

『経口保水療法ハンドブック』日本医療企画
『日本食品標準成分表 2020年度版』文部科学省
『カフェインの過剰摂取について』農林水産省

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