社会保障審議会でケアプラン有料化の議論に焦点

2024年度の介護保険制度改正に向けたケアプラン有料化の動き

3月24日、2024年度に控えている介護保険制度改正に向けた議論が、社会保障審議会・介護保険部会にてスタートしました。

厚生労働省の担当者は、主な議題として「ケアプランの有料化」「軽度者に対する生活援助の見直し」「福祉用具の貸与から販売への転換への促進」などを提示し、さらに科学的介護の推進、ロボット・AI・ICTを活かした生産性の向上が必要であることを紹介。その上で、参加した委員に議論を求めました。

24日の部会の初日から、「ケアプランの有料化」を巡って議論が活発に行われました。

日本経済団体連合会、健康保険組合連合会の両常務理事は、有料化の実現を主張。厚生労働省側から高齢者人口と要介護認定者数の増加傾向などのデータが提示されていましたが、こうした状況が続く以上、介護給付費を少しでも抑えるために有料化を促進すべきと強調しました。

介護支援専門員協会がケアプラン有料化に反対を表明!有料化に向...の画像はこちら >>
出典:「介護保険制度をめぐる最近の動向について」(厚生労働省 老健局) 2022年4月13日更新

ケアプラン有料化に向けた議論はこれまでも重ねられてきましたが、2024年度の制度改正に向けて、いよいよ動きが本格化しつつあります。

日本介護支援専門員協会はケアプラン有料化に反対

ケアプランを有料化すべきとの意見に対して、日本介護支援専門員協会委員は反対意見を表明。その根拠として挙げられたのが、有料化によって積極的に利用しようとする動機が失われ、無料で利用できる自治体や地域包括支援センターにおける支援へと業務が転嫁されるのではないか、という点です。

また、在宅介護での費用増を避けるために、いわゆる社会的入院・入居が増加する恐れがあり、そうなれば結果としてコストが増加するとも指摘。その上で、ケアプランの有料化は介護保険制度の意義や理念を弱めるようなケースが考えられるため、引き続き給付による無償の体制を続けるべきと主張しました。

さらに「公益社団法人認知症の人と家族の会」委員からは「有料化によってサービスの利用控えがおきかねない」と反対意見が上がりました。

ケアプラン有料化に対しては有識者の間でも賛成派と反対派に分かれる傾向にありますが、今回の介護保険部会においても、委員の間で意見が二つに分かれる状況が生じていたといえます。

ケアプランの有料化で社会保障費は抑えられる?

ケアプラン有料化の動きの背景

ケアプランとは、介護保険サービスを利用する際に作成する必要のある利用計画書のことで、居宅介護支援事業所のケアマネジャーと相談しながら作成するのが基本です。

現行制度では、ケアプラン作成の費用は介護保険の財源からの全額給付となっていて、利用者は無料でサービスを利用できます。これを他の介護保険サービスと同様、利用者に自己負担額を支払ってもらうべきとするのが、ケアプラン有料化の議論です。

ケアプラン有料化に向けた動きは今に始まったわけではなく、2021年度に実施された介護保険制度改正に向けた話し合いの場でも同様の議論は行われていました。

当時は見送られましたが、2024年度の改正において実現化する動きが、現在再び活発になっているわけです。

ケアプラン有料化を行うべきとする考え方の根拠の一つが、増え続ける社会保障関係費です。財務省作成の『令和3年度社会保障関係予算のポイント』によれば、令和3年度の国の一般会計歳出のうち、社会保障費が占める割合は全体の33.6%。国家予算の3分の1が社会保障費に充てられています。

社会保障費には年金給付費、医療給付費、少子化対策費、そして介護給付費が含まれます。令和3年度(2021年度)の介護給付費予算は3兆4,662億円で、前年度から824億円増加しました。高齢者人口が増え続け、介護保険サービスの利用者数も増加している中、少しでも介護給付費を抑制しようというのが、ケアプラン有料化のねらいといえます。

ケアプラン有料化による社会保障費の抑制効果は低い

少子化により労働力人口が減少している中、社会保障費・介護給付費を少しでも抑えるためにケアプランを有料化すべきとの意見は、もっともな考えでしょう。では実際のところ、ケアプランを有料化することでどのくらいの介護給付費の抑制効果があるのでしょうか。

厚生労働省が3月24日の介護保険部会で提出した「介護保険制度をめぐる最近の動向について」によると、令和2年度(2020年度)における介護保険サービスの提供費用額は総額で約10兆5,000万円です。この費用は、公費負担額と保険給付額、利用者負担額の合計金額を示しています。

このうち、ケアプラン作成を含む「居宅介護支援」に対する費用は約4,883億円です。ケアプランを有料化した場合、自己負担1割で計算すると、そこで抑制できる金額は約500億円として計算できます。

年間約500億円の節約は大きいようにも見えますが、介護保険サービスの総費用が10兆5,000億円、国の介護給付費予算(令和3年度)は先述の通り約3兆5,000億円です。この総体としての金額と比較すると、500億円という数字はわずかなものでしかありません。

有料化によって生じる問題などを考慮し、抑制効果に見合うほどのメリットがあるのかどうかをしっかりと検討する必要があるでしょう。

介護支援専門員協会がケアプラン有料化に反対を表明!有料化に向けた動きは今後どうなる⁉
出典:「介護保険制度をめぐる最近の動向について」(厚生労働省 老健局) 2022年4月13日更新

現場の声を踏まえた慎重な議論が今後も必要

現場のケアマネジャーは有料化には反対の声が多い

3月24日の介護保険部会では、日本介護支援専門員協会の委員からケアプラン有料化に対する反対意見が出されましたが、実際のところ現場のケアマネジャーでも反対の声が多いようです。

例えば、大阪社会保障推進協議会が2019年に実施したアンケート調査によれば、有料化に反対するケアマネジャーの割合は88.1%にも及んでいます。

介護支援専門員協会がケアプラン有料化に反対を表明!有料化に向けた動きは今後どうなる⁉
出典:『大阪社保協通信』(大阪社会保障推進協議会)を基に作成

反対する理由としては、有料化によって「過剰な要求をする利用者が出てくる」(82.1%)、「他のサービスを削る利用者が出てくる」(75.3%)、「ケアマネジャーの負担が増える」(75.3%)、「ケアプランを断る利用者が出てくる」(73.1%)などが挙げられています(複数回答)。

ほかにも、ケアプラン作成を有料化することで、ケアマネジャーは何でもしてくれると思うようになるのではないか、払いたくないと言う利用者が出てくるかもしれない、などの懸念の声が挙がっていました。現場のケアマネジャーからは、ケアプラン有料化によって生じる現場の混乱を恐れる意見が多いようです。

有料化に向けた議論は慎重に進めることが必要

効果の少なさや反対意見などがある中でも、財務省が牽引役となりながら、ケアプラン有料化に向けた動きが活発化しているのは事実です。しかし、もし有料化策を推し進めるのであれば、現場からの懸念材料に配慮した政策策定を並行して行うことが重要といえます。

例えば現場のケアマネジャーからは、有料化によって利用者からの要求が増えてより忙しくなるのではないか、との懸念の声があります。これに対しては、ケアプラン作成のAI化を進めるなど、業務のスリム化を実現できる対策を施していく必要があるでしょう。

また、有料化による利用控えによって、「本当は介護サービスが必要なのに提供されていない」といった事態が起こらないようにするための対策も用意する必要があります。

さらに、ケアマネに頼らない「セルフケアプラン」が増え、適切な利用計画が立てられなくなるとの懸念もあり、これに対する対処法も事前に考えておく必要があります。

2024年度の介護保険制度改正においてケアプランの有料化が実現するのかどうかについては、今後も注目を集めそうです。もし有料化を推し進めるなら、それによって生じる障害に対処できる体制作りも必要といえます。

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