厚生労働省が介護助手の効果を確かめる事業を実施
「社会保障審議会・介護給付費分科会」で介護助手の有効性が議題に
2022年7月5日、厚生労働省は社会保障審議会・介護給付費分科会の場で、介護現場で掃除や見守りなどの補助的な業務を行う「介護助手」について、施設や事業所に配置する効果を確認する事業を今年度に実施すると公表しました。
介護助手が補助的な業務を行い、介護職員がより専門性の高い介護業務に専念するという方法は、すでに実践している施設・事業所が多数あります。
厚生労働省としては、実証事業を通してその効果を定量的に調べた上で、今後の施策を考える際の参考にする方針です。
次回の介護保険制度改定は2024年度に行われますが、今年度中に取りまとめられた実証事業の結果は、改定をめぐる議論においても活かしていくとのことです。
介護助手が業務効率の向上に貢献することが明らかになれば、導入を促進するために、次回の改訂で介護報酬や人員配置基準などの面でインセンティブを設ける可能性もあります。
実証実験を通して介護助手に関する動きが今後どのように展開していくのか、現在注目を集めています。
介護助手とは?
介護助手とは、食事・排せつ・入浴の介助のような要介護者の身体に触れる介護を行わず、見守りや話し相手、清掃、配膳などを行う介護職のことです。
介護分野では一般的に、要介護者の身体に触って行うケアは直接的業務、身体に触れない周辺業務のことを間接的業務と呼んでいますが、介護助手は後者を中心に行う職種です。
直接的業務には介護の知識・スキルが求められますが、間接的業務だけを行う上では専門的な能力は必要ありません。無資格でも従事できるので、基本的に誰でも介護助手として働くことができます。
介護助手が間接的業務を行うことで、介護福祉士などの有資格者である介護職員が直接業務に専念することが可能です。この分業体制により、施設全体としての業務効率を高め、介護サービスの質も上げることができる、と期待されています。
独立行政法人福祉医療機構が全国の特養を対象に行った調査によれば、介護助手を導入している施設は、入居者の定員が29人以下の施設で45.1%、100人以上の施設だと72.5%との結果でした。
2021年時点でみると、定員数の多い施設では導入割合は高めですが、少人数体制の施設では導入割合は低めとなっています。
出典:『2021 年度(令和 3 年度)特別養護老人ホームの人材確保に関する調査について』(福祉医療機構)を基に作成 2022年08月04日更新介護助手が導入された背景要因とは?
最大の理由は人材確保
介護分野で介護助手の導入が検討されるようになった背景にあるのは、介護人材の不足です。
厚生労働省によると、2020年度の施設介護員の有効求人倍率は3.90倍。つまり、100人の求職者に対して、求人数が390件もあるという状況です。
一方、全職種の2020年の年間有効求人倍率は1.18倍。他の職種に比べ、施設介護員の人手が極端に足りない状況が、これら数字の比較を通して明確にわかります。

介護職の人手不足が深刻化する中、限られた人的資源を有効活用できるように、介護知識・スキルを豊富に持つ介護職員を、専門性の高い業務に集中できる環境を整える必要性が高まりました。
そこで、単純作業が多い間接的業務を介護助手に任せ、技術をもった介護職員は直接的業務に専念する、という体制のあり方に注目が集まったわけです。
高齢者の就業先としての位置づけも
また、介護助手には元気な高齢者の就労先としての機能も期待されています。
例えば、介護助手の導入をいち早く進めた三重県では、介護助手の人材募集をするにあたって、求人対象を「元気高齢者」に絞って実施していました。
高齢者に介護助手として1日3時間程度、週3日程度勤務してもらうことで、介護予防効果、将来自分が要介護状態となった場合に備えての知識の獲得などのメリットがあると考えられていたのです。
介護予防については、介護分野の施設・事業所では、利用者を対象にレクリエーションを通して日々取り組みが行われています。
高齢者は介護助手として働く中で、身体を動かすという意味での介護予防効果に加えて、介護予防に関する知識や方法についても学ぶことが可能です。
さらに近年、低年金を余儀なくされている高齢者も多く、介護助手として就労してもらうことは、生活費を稼ぐことにもつながります。介護助手は、住み慣れた地域で体に負担をかけずに働けるので、高齢者に適した仕事であると言えます。
介護助手は今後普及する?
介護助手導入による効果は
介護助手を実際に活用している施設からは、一定の導入効果があることが報告されています。
三重県が行ったアンケート調査によると(2016年報告)、介護助手を導入している施設に対して、導入によりどのような効果があったのかを尋ねたところ(複数回答)、「介護職員の業務量が軽減した」との回答割合が84.0%にも上りました。
他にも、「介護職員が気持ちにゆとりをもって業務ができるようになった」(52.0%)、「介護職員が利用者1人1人に応じた丁寧な介護をできる場面が増えた」(48.0%)、「介護職員の専門職としての意識が向上した」(36.0%)との回答が多くなっています。
また、三重県老人保健施設協会が行った調査によれば、同県内にある介護老人保健施設では2015年から介護助手の導入がスタートしましたが、導入施設における離職率は年々低下。2015年の離職率は11.3%でしたが、2018年には5.1%と半分以下にまで減少しています。
介護助手が周辺業務を引き受けることで既存の介護職員の業務負担が減り、より働きやすい職場に変化したと考えられます。
介護助手の普及に立ちはだかる問題
介護助手の導入効果が報告される一方、今後普及を進めていく上では検討すべき課題もいくつかあります。その一つは、現場のニーズと合致していない恐れがあるという点です。
福祉医療機構が2019年に行った特別養護老人ホームを対象にした調査では(Webアンケート、回答数853施設、複数回答)、「不足している職種」について尋ねたところ、「介護職員」が99.0%、「看護職員」が32.6%であったのに対し、「介護助手」はわずか3.9%でした。
実際の介護現場では、介護助手ではなく、介護職員に対するニーズが圧倒的に高いのが現状です。

この調査結果を見る限りでは、2019年時点でニーズがわずかしかない介護助手に対して、これから導入を進め普及させていくことにどれだけの意義があるのか、との疑問点も生じます。
さらに、特に若い世代にとって介護助手は就きたい職種となるのか、という問題もあります。介護助手は、ただでさえ給与額が他職種に比べて低めである介護職員よりさらに下位の職位であるため、給与額はより低くなるでしょう。
また、介護福祉士・介護職員の「下働き」として、雑用に追い使われるというイメージも生じます。総じて介護助手の仕事は、魅力を感じにくい面もあるのではないでしょうか。
こうしてみると、介護助手の普及におけるハードルは決して低くないとも考えられます。今年度中に実施される介護助手の導入効果を測定する実証事業をもとに、国・自治体が今後どのような動きを見せるのか、引き続き注目を集めそうです。