大手広告会社においてさまざまなクライアントのマーケティング戦略の立案やクリエイティブ実務に携わったあと、独身生活者の研究をライフワークとしてきた荒川和久氏。コラムニストとして深い研究に基づく記事を執筆するほか、講演やテレビ・ラジオなどでも発信を続けている。

「ソロ男」「ソロ女」「ソロ活」などの言葉の生みの親でもある荒川氏は、昨今ソロ人口が増えた背景をどのように捉えているのか。

日本の婚姻数は1972年から年間46万組も減っている

みんなの介護 日本で結婚が減って、独身者が多くなったのはなぜでしょうか。

荒川 “お膳立て”がなくなったことが独身者が増えたことに直結しています。日本で年間の婚姻数が一番多かった1972年と2015年を比較すると46万組も減っています。

その46万組というのは、お見合いと職場結婚が減った数と完全に一致します。こうした“お膳立て”がなくなったことでソロのまま生きる人が増えたことがわかってきた。裏を返せば、皆婚はお見合い結婚や職場結婚という結婚のお膳立てシステムによって支えられていたということです。

意識高い系の人は、「私たちの価値観がアップデートされて結婚しなくなった」と言ったりしますが、実際はそうではありません。環境の変化が先にあって価値観はそれに適応したにすぎません。

これは、冬になったらダウンジャケットを着て、夏になったらTシャツを着るようなものです。その結果として、生涯未婚にならざるを得なくなった人もいるし、「その方がいい」と選択的非婚を選んだ人もいる。

みんなの介護 お膳立てとは具体的にどのようなものでしょうか。

荒川 職場結婚が華やかなりし頃は、上司がいい意味のおせっかいをやいてくれていたんですよ。

周りから見ても、わかるじゃないですか。自分の部下があの子に気がありそうだなって。で、それを言えないのもわかる。

なので代わりに「誰々がお前に気があるらしいよ」というようなことを言う。今であれば大きなお世話だしセクハラ扱いです。しかし、これが案外大事だった。

この上司のお膳立てで結婚に至った人だってたくさんいたはずなんです。

それに、女性だって悪い気がしません。今までなんとも思っていなかった相手が自分に好意を持っていると思った瞬間に、異性として意識するようになる可能性がある。もちろん、気持ち悪いと思って嫌いになる場合もありますが。

会社にも地域にも、おせっかいをやいてくれる人がいた

荒川 今のは職場の例ですが、地域でも同じような“お膳立て”をするおせっかいなおばちゃんがいたりする。「結婚できなかったら困っちゃうよね」と。

また、大企業なんかは、ある意味結婚は人質制度でもあったんですよ。

自分の会社の男性社員に早く結婚させて、早く子どもを産ませて、早く家を建てさせる。そしたらもう仕事するしかないだろうと。

だから福利厚生がものすごく充実していました。社宅があったし、専業主婦になっても十分な手当があったわけです。

みんなの介護 なるほど。会社にとってもメリットがあったのですね。

荒川 今はそういったことはほとんどなくなりましたね。職場でのお膳立てがなくなると当然外部に出会いを求めざるをえなくなるわけですよね。

お見合いの代替としての結婚相談所があり、古くは合コンが流行し、最近はマッチングアプリというものがあります。

でも、マッチングアプリがかつてのお膳立ての代わりになるかといえばそうはならない。あれは、街頭ナンパのデジタル版にすぎません。マッチングアプリでモテる男性というのは、リアルでもモテる。

つまり、恋愛強者にとってとても便利なツールでしかなく、残念ながら、リアルで困っている恋愛弱者を救うものにはなっていない。

パレートの法則のように、3割の恋愛強者と7割の恋愛弱者という構図。私はそれを「恋愛強者3割の法則」と名付けていますが、それがデジタルに移っただけのことです。

二次元キャラクター・初音ミクと結婚する男性も

みんなの介護 ご著書に「フィクトセクシュアル」(二次元キャラクターに性的魅力を感じる)の男性のエピソードがありました。その方は初音ミクと結婚されて、「ミクさんのおかげで幸福度はいつも高いです」とTwitterでつぶやいていました。時代の変化に伴って、今後このような結婚は増えていくのでしょうか。

荒川 そもそも何をもって“結婚”とするかですよね。男性と女性が結びついて子どもを産む。その子どもを遺伝子上の二人の親が育てていく。それが今日に至るまで広く認知されてきた “結婚”のあり方です。

しかしテクノロジーが発達すれば、それだけではない結婚の可能性が広がってくるわけです。もっと言えば、結婚してつがいにならなくても子どもを産むことはできる。

例えば、女性がどこかで精子を買ってきて自分で子どもを産む。男性も、人工子宮というものがあれば、理論上は子どもがつくれてしまうわけです。実用化されるかは別にして。

結婚しなくても子どもを産み育てることができるようになってくると結婚の形が変わり、選択肢も広がりますよね。

荒川和久「日本の婚姻数が劇的に減ったのは、お見合いや職場結婚が減ったから」
「結婚したら幸せ」は間違い。一緒に何かを行う過程にこそ幸せは生まれる

みんなの介護 「恋愛結婚よりもお見合い結婚の方が長続きしている夫婦が多い」と書かれているのが印象的でした。

荒川 恋愛結婚でダメになる方の多くは、結婚をゴールのように捉えてしまっているのではないでしょうか。結婚さえすれば幸せになれると。

「〇〇したら幸せになれるはず」という思考は幻想でしかありません。これは結婚だけではなく、良い学校に入ったら、良い会社に入ったら、お金持ちになったら、と当てはめてみてもそうです。この思考を「フォーカシングイリュージョン」と言います。

“幸せ”とは“仕合わせる”と書きます。もともと、仕事や作業を合わせるという意味で使っていました。

自分以外の誰かと“仕合わせる”ことで得られる達成感や満足感がいつしか“幸せ”になったのです。“仕合わせる”という動詞なんです。

“幸せ”とは“仕合わせる”こと。その方法とは?

みんなの介護 ちなみに、一人の場合は、どのように“仕合わせる”達成感や満足感を感じることができますか?

荒川 仕合わせることは、四六時中誰かと一緒にいなくてもできます。なぜなら、人は人とつながることで新しい自分が必ず生まれます。それは、デートや仕事、友人と会うことに限らない。今日のように1~2時間しか喋っていなかったとしても、この時間の中で、新しい自分が生まれている。それは本を読んだりすることでも生まれてきます。

ここで言う「新しい自分が生まれる」ということは、上書きや上塗りというものではなく、全然違う自分がぼんと出てきたと思った方がいい。そのことがわかると、今日会っただけの人であっても、「新しい私を生ませてくれてありがとう」という感謝の気持ちが生まれるわけです。

同時に、今まで生きてきて、多くの人と接してきたと思うんですが、その度に新しい自分は生まれている。自分の中にたくさんの自分が充満していることに気付けるはずです。

一人であったとしても、今までの人生の中で新しく生まれたたくさんの自分と仕合わせることができるわけです。自分と向き合うということは決して小さな殻に閉じこもることではなく、自分の内面にあるたくさんの自分、つまり無限の広がりに気付くということです。

みんなの介護 自分との対話をいかにできるかがソロの時代を幸せに生きるヒントになりそうですね。

荒川 そう。でも自分との対話をするためには新しい自分が生まれてなきゃいけない。そして、新しい自分が生まれてくるには、人と関わらなければいけない。循環するわけです。

無人島でたった一人で過ごして誰とも関わらなかったら、新しい自分は生まれてきません。逆に「誰かが周りにいてくれたら寂しくない」という考えだと、外部唯一依存に陥ります。

一人でお昼ご飯を食べに行けない上司とかいるじゃないですか。あれ、本人は本当に寂しいんです。ソロランチが当たり前の人からすれば「一人でご飯も食べに行けないのかよ」と考えるのですが、できないんです。

こういうタイプは外部依存の典型で、自分の外側に誰かがいてくれないと不安になってしまう。そうした人が定年退職すると、一気に仕事上の付き合いがなくなって、周りに誰もいないことに気付く。特に、仕事一辺倒できた高齢の男性は、定年後に依存すべき外側を失ったと同時に自分自身も見失ってしまうパターンが多いようです。

撮影:駒形美世瑠