杉山 崇(心理学者)
「ママカースト」に巻き込まれて…
ママ同士のお付き合いは本来的にはフラットで、インフォーマル(非公式)な関係です。上下関係が発生するものではない「はず」です。

ですが、なぜか上下関係が発生して多くのママを悩ませています。
それが「ママカースト」なのです。
ママカースト、下位はこんなに怖い!
まず、ママカーストで下位になると幼稚園生活での情報格差が生まれます。
必要な情報が回ってこなくて、何の用意もなく登園したら「あれ、知らなかったの?」とちょっと意地悪い反応もしばしばです。
もっと悪意があるものとしては、メールやSNSでこっそり笑いものにされていたりもします。
また、子どもが仲間はずれになる、幼稚園の外でのお友だち関係が貧弱になる…といったこともあります。

「かわいい盛りの子どものためにも、自分のためにも…」 下位ママの悲劇
ママ同士の関係は子どもの成長とともに薄くなっていく一時的なもののはずです。そんなに悩むこともないのでは…と思われるかもしれませんが、子どものこの時代は一度だけ…。
かわいい盛りの子ども時代を貧相なものにしたくないという思いから、下位に位置づけられても「情報のお恵み」「お誘いのお恵み」をいただくために懸命にカーストにしがみついているママも少なくありません。
セレブ系の幼稚園なら「自分も子どももセレブから脱落したくない」ということもあるようです。
カースト下位のママはこのような惨めな思いに耐えながらがんばっているのです。
 ママカーストはなぜ発生するのか?
ママカーストは勝ち組意識が高いママ集団にかぎらず発生しています。

実は、人は常に社会的なランキング競争をしています。社会的な存在である人は社会の中でしか生きていけません。
人が本能的に怖がっていることの一つが社会的排斥、すなわちのけ者にされることです。
下位になると排斥リスクが高まるので、私たちは本能的により優位なランキング(=カースト)を求めて競っています。
この本能をむき出しにすると社会が混乱するので、普段は穏やかに作用するように抑えられています。
ですが、一般的に男性は相手の肩書に、女性は相手の持ち物や仕草を意識しやすいと言われているように、男女とも無意識では常にカーストを気にしているのです。

ママカーストの確認は頻繁に
肩書はある程度固定化されているのに対して、持ち物や仕草は流動的なもの…実は女性は男性よりも頻繁にカーストを含めた人間関係の確認を行うのです。
さらに子どもは最大の宝物でもあり弱点でもあります。そのため「子ども(宝物≒弱点)を守る」という思いが、より「優位な立場」を求めさせます。そのため、上下関係をめぐる争いが激しくなります。
さらに、カースト上位になる優越感やカースト下位を作っておくことで「自分は排斥されない」という安心感も相まってママカーストを維持しようというメカニズムが働くのです。
下位になったら、どうしたら…
人間は「場」の力に左右されるので、優位な立場を求める本能が働きやすい場の構造があるかぎり、ママカーストという現実は変わらないでしょう。
インフォーマルなだけに幼稚園も介入が難しいのです。
カースト下位になることで最も怖いのは自分の存在価値を見失うことです。私たちは社会の中で自分の存在価値を確認していますが、社会が狭くなりがちなママは、ママカーストでの立場の影響を強く受けます。特定のママ集団にこだわらずに、他のママ集団とも付き合うように心がけましょう。
そして、ご主人には味方になってもらいましょう。女性のあれこれに首を突っ込むことを好まない男性は多いものですが、「5分でいいから黙って私の話を聞いて!!」と訴えれば愛する妻のために5分はがんばってくれるでしょう。

「相談じゃないからアドバイスはいりません」と明言して、最後には「聴いてくれてありがとう!」とあなたが感謝すればご主人もまんざらではないはず。
そして、本当に苦しい時はカウンセラーを使うのも一つです。
ママカーストに悩む女性は実はとても多いのです。カウンセラーはそんなあなたのお気持ちを敏感に理解して、あなたの存在価値を守ってくれることでしょう。

<執筆者プロフィール>
杉山 崇(すぎやま たかし)
神奈川大学人間科学部/大学院人間科学研究科教授。心理相談センター所長、教育支援センター副所長。
臨床心理士、一級キャリアコンサルティング技能士、公益社団法人日本心理学会代議員。
公式サイトはこちら⇒ http://www.sugys-lab.com/