【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第17回:リスク管理の具体例3(追証、株価と担保の両方下落1)
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今回もリスク管理について解説します。前回は建玉と代用有価証券の両方が値下がりした例について解説しましたが、今回も建玉と代用有価証券の両方が下落した例になります。
ではその例とは・・・。
その例は、俗に「2階建て」などと呼ばれる取引になります。この「2階建て」の意味ですが、代用有価証券として担保に差し入れた銘柄と同じ銘柄を信用取引で買う取引のことを指します。
つまり、レバレッジをさらに効かせた取引と言うことです。例えば、代用有価証券と同じ銘柄を買い建てした場合、代用有価証券と建玉が全く同じ値動きをするため、買い建てているときに代用有価証券が上昇すると、建玉の含み益も増加すると考えられるため、投資余力が膨らみ含み益も大きく膨らみます。
一方で株価が一旦下落に転じると、建玉の評価損が膨らむと同時に代用有価証券も値下がりするため担保価値が下がり、一気にマイナスが膨らんで追証が発生してしまうことになりかねないのです。したがって、この取引はハイリスク・ハイリターンと考えられ、信用取引の経験の有無にかかわらず行わない方が良いというのが筆者の見解です。
それでは、具体的な例をここでお話ししたいと思います。例として取り上げる銘柄は北海道電力(9509)です。北海道電力は、最先端半導体の量産を目指すラピダスが北海道に進出すると発表したあと、電力需要の高まりへの期待から2024年3月ごろから株価が上昇に転じました。また、買うタイミングを探していたところ、5月に入って反落したことから8日に現物株を1,200円 で400株買ったとします。
そこで信用取引を使って買うことにしたとします。1,200円で買った北海道電力は、5月29日の取引時間中に1,750円の高値をつけたあと反落して下げ止まったことから買い建てようと考えました。この時6月11日終値が1,465.5円となっていましたが、代用有価証券としての評価額は1,465.5円×400株×0.8=468,960円となります。また、この委託保証金額で買える金額は468,960円÷0.3=1,563,200円です。
そこで北海道電力を6月11日の終値1,465.5円で1,000株買い建てます。ところが、思惑に反して株価は値下がりを続けることになってしまいました。このとき必要な委託保証金は1,465.5円×1,000株×30%=439,650円ですが、代用有価証券の評価額は1,465.5円×400株×0.8=468,960円と、余裕があるように見えます。
また、追証が発生する委託保証金額は1,465.5円×1,000株×20%(委託保証金維持率)=293,100円となり、468,960円-293,100円=175,860円も余裕があります。この金額だけ余裕があれば、株価が175,860円÷1,000株=175.86円超下落しなければ大丈夫のように見えます。すなわち、株価が1,465.5円-175.86円=1,289.64円までは追証が発生しないと考えてしまうかもしれません。
しかしながら、実際には、代用有価証券が北海道電力であるため、株価が下落すると代用有価証券の評価額も同様に下がってしまい、予想以上に早く追証が発生してしまうことが考えられるのです。
実際の株価を見ると、6月20日に1,324.5円の終値をつけましたが、この時の建玉の含み損は、(1,324.5円-1,465.5円)×1,000株=-141,000円です。
また、代用有価証券の評価額は、1,324.5円×400株×0.8=423,840円となりますが、ここから評価損を差し引きます。すると・・・。
423,840円-141,000円=282,840円となって、約定代金の20%である293,100円をわずかに下回ってしまい追証が発生することになります。
このような株価下落時における委託保証金現在高の急激な減少は、建玉と代用有価証券が同じ銘柄であると連動して起こることから、リスク分散にならないだけでなく、ここで紹介したように株価が下がり損失が発生し始めた場合、予想以上に早く追証が発生することになるのです。
一方、委託保証金が現金の場合は評価額が変動するわけではありませんから、建玉の評価損に注意しておけば良いことになります。
ここで改めて注意しておきたいことをまとめます。代用有価証券を使う場合は建玉とは別の銘柄にすること、値動きが安定している銘柄を代用有価証券にすること、そして最も安心できる現金を委託保証金に使うことが初心者には重要ですので覚えておいてください。
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