【田園日記~農と人の物語~】色の濃さと、日もちのよさが自慢の「ゴーヤー」
震災で河内晩柑の収量が激減…
「例年ならば、うちの河内晩柑は春から七月ごろまで収穫の真っ最中。今ごろの五月末は、紺碧の海や段々畑の緑に、果実の鮮やかな黄色が、ほんとうにきれいな季節なんです」
そう話しながら軽快な足取りで急斜面の圃場を登り、宇和海(うわかい)を望む農園一の景観スポットへと案内してくれたのは、「わたなべ果樹園」の渡邉眞由美さん(57)です。
令和六年四月の豊後水道を震源とする地震では、最大震度6弱の揺れが果樹園のある愛南町を襲いました。ちょうど河内晩柑(かわちばんかん)の開花時期であり、影響で花が落ちてしまったこともあって、今年は収量が少なくなり収穫時期も短かった、と話してくれました。
「天災はしかたない。ただ、今年は花がたくさん咲いたから、来年は期待できそう」
結婚して初めて農業と向き合う
眞由美さんは、果樹園の四代目となる夫と息子夫婦の四人で柑橘を栽培。温州ミカンやポンカン、ブラッドオレンジなどを手がけていますが、主力は三ヘクタールの圃場で栽培する河内晩柑です。
河内晩柑は一般的に四月に開花し、翌年二~三月に収穫。しかし、わたなべ果樹園では木成りで果実を完熟させます。四月下旬まで待ち、収穫を開始。
「甘さだけでなく、ほんのり爽やかな酸味も持ち味。料理や菓子に使えるのも魅力です。果実はサラダや生春巻きに、果汁や皮は菓子にと幅広く活用できます」
手がけている河内晩柑への愛ある言葉が続きます。
「あっ、まだ実が残っとるね」と言うや、木の枝に足をかけて登り、三メートルほどの高さにある果実を、手早くもぎ取る眞由美さん。運動神経のよさに感心していると「このまえ、転んで骨折しちゃった。昔は急斜面で何度も転んだのよ」と笑います。
地元とはいえ、農業とは縁のない家庭に生まれて育った眞由美さん。二十三歳で結婚して、人生で初めて農業を経験します。
「結婚するときは『親も元気やけん、手伝わんでいいよ』という夫の言葉を真に受けたの(笑)。昔は体が細くて体力もなくてね。
JA女性部加入が人生の転機に
数年後には二人の息子に恵まれ、子育てと農業に奮闘するなか、このままの生活でいいのか? と思い始めます。個人でなにかしたいと、JAえひめ南女性部に加入。そこで、同じ悩みを抱える同世代の仲間と出会います。
「お金、子育て、仕事と、同じ悩みや不満を抱えていました。フレッシュミズ(JA女性部内の次世代グループ)では、全国の仲間とのつながりができて、うれしかった。地元の仲間と、加工品企画から地域の食農教育まで、積極的に活動していきました」
女性部での活動は、地域を盛り上げる楽しさや喜びとなり、日々の子育てや農業の糧となっていきます。女性部フレッシュミズ部会の部会長時代には、自身の経験を基に、JA女子大学「おれんじキャンパス」を創設しました。
「キャンパスには、いろんな企画や講座を盛り込みました。女性部活動に励んだ時期があったからこそ、今のわたしがある。助け合える仲間ができ、地域活動のたいせつさを知ることができたのは、JAのおかげやね」
初めて作った石けんに心奪われて
ここ数年、眞由美さんが新たに力を入れている活動が、石けん作りを中心とした「農ライフ講座」。きっかけは、二十年ほど前に女性部の活動で、石けんを作ったことでした。
「初めて石けんを作ったときに、やさしい泡と、なめらかな肌あたりに驚いたの。それをずっと覚えています」
使用感のよさに感動した眞由美さんは、本を買って自己流で石けん作りに精を出します。栽培している柑橘のエキス、ミカンの花を漬けたオイルを加えるなど工夫を凝らします。作った石けんは、知人や友人にプレゼント。趣味として楽しんでいました。
引退後こそ、農業の魅力を発信
「六十歳になったら、息子夫婦に農業を引き継ぐと決めた。そのあと、なにをする? と思っていたときに、知人から『石けん作り講座』をしてほしいと依頼があってね」
引き受けたものの、人に指導するなら最新の技術や指導法を身に付けよう、と自らもスクールへ通います。技法や装飾を学ぶなかで、自身が作りたい石けんの方向性が固まってきたと、眞由美さん。
「なにをするにしても、強みは農家だということ。だから”農ライフコーディネーター・アグリソーパー”として、地域の農産物を使った石けん作りや食農講座をしていくと決めました。講座をとおして、参加者が農業や食を考えるきっかけになればいい。石けんには、柑橘のほか地元林業家のヒノキオイルも取り入れています」
多いときには、月二回ほどワークショップを開催。
農業や女性部で得たつながりを強みにして、その先の人生を進み始めた眞由美さん。
「”農ライフコーディネーター・アグリソーパー”として、地元はもちろん、全国の農産物を取り入れた四十七都道府県の石けんを作ってみたい。地域や全国の女性部の仲間からの応援が心強いです」
※当記事は、JAグループの月刊誌『家の光』2025年9月号に掲載されたものです。
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