陸上自衛隊員だった五ノ井里奈さんが実名で顔を出して訴えた性被害に関し、福島地裁は元陸自隊員3人に懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。 無罪を主張する被告3人の行為を「被害者の人格を無視し、性的羞恥心を著しく害する卑劣で悪質な態様」と厳しく非難したのだ。
   女性の尊厳を傷つけ、退職に追いやった組織の問題として、防衛省・自衛隊も重く受け止めなければならない。 判決によると3人は、2021年8月、北海道の陸自演習場の建物で飲食中、格闘技を使って五ノ井さんをベッドにあおむけに倒し、覆いかぶさって下腹部を押し付けた。部屋には十数人の隊員がいたが、女性は1人だけだった。 裁判で争点となったのは、強制わいせつと認められる行為があったかどうか。 3人は懲戒免職となる前の昨年10月、自筆の謝罪文を持参し五ノ井さんに会い謝罪している。  しかし公判では一転し無罪を主張。
「下腹部を接触させていない」「笑いを取るため腰を振った。性的意図はなかった」などと述べたのだ。 五ノ井さんは被害に遭った後、母親にメッセージを送っている。目撃した隊員の供述もある。 判決は、五ノ井さんの証言の信用性を認めた上で、「笑いを取るため」だったとしても、わいせつ行為に当たると判断した。 被害者の苦痛を思えば、笑いを取るためには、まったく通用しない。
その無自覚さこそが問われるべきだ。■    ■ ここに至るまでの道のりは長かった。 事件当時、上司に訴えた被害は、事実関係も調査されないまま「黙殺」状態に。多くの隊員が見ていたにもかかわらず目撃証言が得られなかった。 問題を動かすきっかけをつくったのは、泣き寝入りせず声を上げることを選んだ五ノ井さんの勇気である。昨年6月、陸自を辞めて実名で被害を告発したのだ。
 当初、嫌疑不十分で不起訴となった3人について、郡山検察審査会も「不起訴不当」と議決。福島地検が再捜査し、3月に在宅起訴した。 性被害の訴えを踏まえ、防衛省は全自衛隊員を対象にした「特別防衛監察」にも踏み切った。 裁判では同僚だった現役の男性隊員が、調査に対して「見ていない」とうそをついたことも証言している。■    ■ 実施された特別監察では、パワハラやセクハラの被害申告が1325件にも上り、その6割以上が相談窓口を活用していなかったことも明らかになった。相談による不利益などを懸念したためだ。
  さらに特別監察の最中、海自で起きたセクハラでは、対面謝罪として、加害者との面会を強要された女性隊員が退職に追い込まれている。 ため息しか出ない。 五ノ井さんの告発は、ハラスメントを容認する自衛隊の組織体質に確かに風穴をあけた。その風がよどまないよう、今後の動きを注視し続ける必要がある。