鳥の目で遠くから全体の形を捉え、虫の目で近付いてディテールを楽しむ。
 「第75回沖展」がきょう、ANAアリーナ浦添(浦添市民体育館)で開幕する。

 絵画や彫刻、写真、書芸、漆芸、染色、織物など12部門に、一般応募の中から選ばれた514点と会員・準会員の作品を合わせた724点が展示される。
 沖展は県内最大の総合美術・工芸公募展だ。会場に足を運び、沖縄の風物詩となった「芸術の春」を楽しんでほしい。
 新型コロナウイルス感染拡大による2年間の空白期間を経て、2022年に再開した。今年も、作品解説会やワークショップなど関連催事がめじろ押しだ。
 コロナ後、作品の幅が広がり、新しい感覚の作品が増えているという。

 はんだごてで木材に絵を描きその画像データを基に作ったポスター、3Dプリンターで成形した陶芸なども登場した。
 特にアフターコロナを感じさせるのが写真部門だ。
 コロナ禍では室内で撮った作品が多かったが、屋外で行われた年中行事や日々の暮らしを切り取った作品が増えた。
 一般応募で選ばれた作品と会員・準会員ら熟達したベテランの作品が一堂に会するのも沖展の醍醐味(だいごみ)である。
 「首里の織物」で昨年、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された祝嶺恭子さんの新作も見ることができる。
 解説会では、作品の背景を知ることも。
暮らしの息遣いが伝わる、多様な作品を堪能したい。
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 伝統工芸でありながら新しい息吹を感じさせるのが漆芸部門である。
 沖展賞に選ばれた嘉数翔さんは、琉球王国時代の古い技法「朱螺鈿(らでん)」や貝そのものの色味を出す「伏彩色(ふせざいしき)」の技術を用いて作品を制作した。県産木材のゆがみや割れなど自然の形を生かし、同じものが二つとない生木のユニークさを表現した。
 奨励賞の松崎森平さんは、浦添市安波茶交差点の夜景を、皆研出蒔絵(かいとぎだしまきえ)という高度な技法で描いてみせた。写真や絵画のようにも見える、斬新な作品である。

 琉球漆芸は、琉球王国時代の15世紀ごろに始まったとされる。螺鈿、沈金、箔絵、堆錦(ついきん)、密陀絵(みつだえ)の五つの技法があるのが特徴だ。中国から伝わった技術に創意工夫を加え、発展してきた。
 沖展という作品発表の場が、漆芸家同士の刺激となり、継承発展を後押ししてきた。
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 沖縄戦の混乱で国外に持ち出された琉球国王の肖像画「御後絵(おごえ)」など22点の文化財が米国内で見つかり、今月14日、県に返還された。
 朱色や金箔(きんぱく)の華やかな美術品に、改めて琉球・沖縄文化の豊かさを感じた人は少なくないはずだ。

 沖展は戦後、「郷土再建には文化振興が県民の支えになる」と焦土と化した沖縄でスタートした。
 沖縄の文化と歴史を再発見する機会にもなるだろう。