渡辺直美、近藤春奈、あのちゃん、幾田りらなど、芸能人も真似する様子が話題となった「猫ミーム」。TikTokをはじめ、YouTubeやX(旧Twitter)でもこの投稿を見ない日はない。
街中でも猫ミーム素材のフレーズで会話しているのが伺えることもあったが、トレンドとして広がりすぎてしまい、一瞬にして消費されてしまった感さえある。ある意味、ネットミームの宿命とも言えるが、模倣が模倣を呼び使い古される儚さは、純粋に「猫ミーム」に拠り所を求めていたユーザーにとっては辛い状況でもあるはず。そもそも消費されることを前提としたネットミームが普遍性を手に入れることはあり得るのか? これまでのネットミームの変遷を辿りながら探ってみたい。

■汎用性の高い“猫ミーム”の利点「闇深さやグロテスクさがマイルドになる」

 「猫ミーム」とは、日常のあるあるや過去の体験談を猫の動画素材で再現する、日常生活再現動画のことだ。その素材はグリーンバックで合成がしやすいように設定してあり、「説教猫」「チピチャパ猫」「はぁ?猫」、「うるさいヤギ」「ゲラゲラ笑う犬」など複数のパターンがある。なかでも子猫もぴょんぴょんと前脚を広げながら飛ぶ素材は「ハッピ~ハッピ~ハ~ッピ~♪」の音楽とともに目にしたことがある人も多いのではないか。


 その汎用性の高さからか、使用法の垣根がなく、「同棲カップルの一日」「テスト前あるある」といった共感性の高いネタから、いまや、「セックスレス夫婦の実情」「ステージ4のがんが見つかるまで」「家庭崩壊物語」など、正直笑いにはできないだろうというほど重苦しいネタにまで使われているのが現状だ。

 「『猫ミーム』の利点として挙げられるのは、どんなに重苦しい実体験ストーリーでも、なぜか嫌味なく聞き入れることができること」と語るのはメディア研究家の衣輪晋一氏。

「さまざまな便利なアプリが登場してはいますがそれでも、素材にセリフなどをつけていく編集作業はかなり大変です。そんななか、『猫ミーム』を使えば顔出しなしで日記のようなシナリオで表現することもできれば、重い話でも可愛い猫やどうぶつたちで表現するからこそエピソードの闇深さやグロテスクさがマイルドになる利点がある。炎上するリスクを回避しながら、初心者でも“流行り”の動画を作成できることから大バズリしていますが、ゆえにこれを嫌悪する人もでてきました」(衣輪氏)

 その理由は、【1】飽きた。【2】「猫ミーム」を使えば面白いと思っている感性が嫌。
【3】結局、内容が薄い。【4】性的な内容のモザイク代わりに使われている…などがあると言う。

■近年加速度を増すネットミームの消費、一方で「トレンドの餌食となるのは悲しすぎる」声も

 トレンドが広がり、ネットミームが消費される速度は年々早まっている。猫ミームの“本音をマイルドにする”という手法自体、過去より続いてきた系譜でもあり、共通点として語れる部分がある。例えば、2018年~2020年頃に流行った『ぴえん』の絵文字があげられると衣輪氏。「思い通りに物事が進まなかったり、残念なことがあったりして悲しい気持ちになったときに使われ、その語感のかわいさや甘えているような絵文字の表情もあいまって、自身に起こった過酷なこともマイルドに表現するということがなされてきました」(同氏)

 近年では2023年にTikTokのトレンドとなった「なぁぜなぁぜ」もそうかもしれない。
「○○○なのに×××なの、なぁぜなぁぜ?」と、自分が持っている身近な疑問や不満を言うときに使われる言い回しで、首をかしげて可愛く、ぶりっ子のようにセリフを発する。「かわいい」という印象、「わかる!」という共感の想いのほうが強く出てくるので、ストレートに批判や不満を表現していてもライトに受け止めてもらいやすい。

 「これは『出る杭は打たれる』という日本の文化をいかに生きやすくするかということから生まれたアイデアたちであるとも言えます。これを逆手にとって流行したものがHoneyWorksの『可愛くてごめん』。謙虚を美徳とする日本にあって、“私が私を愛して何が悪いの?”と持論を出し、さらには可愛くなる努力が綴られ、その努力に裏打ちされた自己肯定感で、謙虚である日本文化に“ごめん”と半ば煽った歌詞が綴られます。この歌詞の裏側にはネットスラングである『可愛いは正義』が強力な後押しとなって、その愛嬌ある自己肯定感の“可愛さ”によって、特にZ世代、α世代に大変支持されました」(衣輪氏)

 これらのトレンドから「猫ミーム」を考えると、多くのミームが辿る超高速な“消費”の儚さが見えてくる。
実際、先月26日に放送されたフワちゃんのラジオ番組「フワちゃんのオールナイトニッポン0(ZERO)」では、フワちゃんが「猫ミーム」のトレンドについて言及。猫ミーム企画を実施しようとしていたが1週目で中断し、その理由として、「この流行り方から考えて、今が『猫ミーム』のストップ高」であると断言していた。

「大手企業が『猫ミーム』を見つけて広告代理店がその土俵を食い荒らし、猫ミームグッズがクレーンゲームの商品になって終末を迎えることでしょう」、フワちゃんはそう“予言”していたが次週ではそれが本当に起こっていたことを報告。

リリー・フランキーさんが1997年に著した『女子の生きざま』で、“ブームはテレビや大企業が取り上げ始めたらすでに下火”とすでに喝破していましたが、まさにそれが今起こっています。実は流行り始めた時から、SNSでは「猫ミーム」が単なるトレンドの一端として消費されてしまうのではないか、それは悲しすぎるという声も挙がっていました」(同氏)

■普遍性を持つ”猫コンテンツ”の強度があるからこそ、”猫ミーム”が生き残る可能性も?

 そもそも「ネットミーム」は、「陰キャのHIPHOP」と言われ親しまれてきた側面がある。だが2ch創設者のひろゆき氏がコンテンツが終わる流れを「面白い人が面白いことをする」→「面白いから凡人が集まってくる」→「住み着いた凡人が居場所を守るために主張し始める」→「面白い人が見切りをつけていなくなる」→「残った凡人が面白くないことをする」→「面白くないので皆いなくなる」と語っていたように、いまや猫ミームを用いることは諸刃の剣ともなった。
「自分語り」「辛いですアピール」と言われ、共感を呼ぶ塩梅に持っていくには相当な技能が必要。みんなが楽しむものから全く共感できない自己顕示欲の象徴へと変わっている側面もある。

 「猫ミーム」も同様に消費の一途をたどるのか。他との明確な違いとして一つ言えるのは、“猫だからこそ伝えられることがある”ということだ。

 人間と猫の歴史は古く、その系譜は古代エジプトにまで遡り、バステト女神として神格化もされてきた。日本に猫が輸入されたのは奈良時代。
経典などをネズミの害から守るために中国から輸入されたといわれ、平安時代には『枕草子』や『源氏物語』(「若菜上」)、『更級日記』などで愛玩動物とされていたことがわかる。

「エンタメ系では1986年、映画『子猫物語』や漫画『ホワッツマイケル』、バンダイの玩具『猫ニャンぼー』がヒットするなど『猫商品』が日経ヒット商品番付に登場しています。昨今で猫ブームの火付け役となったのは、和歌山電鉄貴志駅の名物三毛猫、たま駅長。これで飼い猫の頭数が爆発的に増えたほか、猫に関連したコンテンツの人気はとても高く、インターネット界隈では『猫のコンテンツを出せばウケる』と感覚が根付いています。ネットミームに普遍性はありませんが、猫にはそれがあるのです」(衣輪氏)

 実際、匿名掲示板でも古くから「オマエモナー」とツッコミを入れる猫のキャラクター「モナー」や「逝ってよし!」「ゴルァ!」などツッコミを入れる「ギコ猫」が大流行。このほか、「のまネコ」ブームでは、その空耳の元となったO-Zone(オゾン)のアルバム収録曲である「DiscO-Zone(邦題恋のマイアヒ)」がオリコン・アルバムチャート総合1位の大ヒットを記録(2005年8月22日、この年の3月に発売)するほどの社会現象に。

 昨今では宇宙を背景にした真顔の猫の写真・通称「宇宙猫」が、理解を超える現象にあった時、また悟りを開いた時のキャッチとして貼られ、「宇宙猫になる」という言葉も生まれた。また絵師・くまみね氏によるイラストから派生した「現場猫」も触れざるを得ないほどの市民権を。実際は「ヨシ!」と言ってはいけない、あわや労働災害な状況でも「ヨシ!」と指先確認OKをしている姿が流行し、日本の過酷な労働環境をギャグにして“芯を食う”素材として広まっている。

 「このように“猫”で表現することで人間の愚かさや浅はかさを揶揄する手法は夏目漱石の『吾輩は猫である』も使用されています。“悲しいこと”や“不満”も“猫”または“猫”が題材のミームを用いれば強烈な批判や問題定義もマイルドになる」。

 “角が立たないように言いたいことを伝える”、日本人的な作法を用いながらも、“猫”という“可愛い”の象徴ともいえる存在を使ってさまざまな現象を表現する。様々なリスクを回避しながら面白さも表現できる最強進化系ミームともいえる「猫ミーム」。安易に人を蔑むことをしない、ネット界のセーフティーネットとして、これからも“消費”をまぬがれ、機能し続けてくれることを願う。

(文/中野ナガ)