TBS水曜日のダウンタウン』演出の藤井健太郎氏がプロデュースを手掛けた、DMM TVオリジナルバラエティー『大脱出2』が話題を呼んでいる。「芸人が閉ざされた空間から限られた情報をヒントに脱出する」というシンプルな構成だが、仕掛けられたさまざまな罠や絶妙な難易度のクイズ、謎解きのトリック、そして極限状態でむき出しになる芸人たちの本性など、まさに「地上波テレビでは見ることができない」としか表現できないコンテンツだ。


 今作で囚われたのはクロちゃん、みなみかわ、高野(きしたかの)、井口(ウエストランド)、お見送り芸人しんいち、みちお(トム・ブラウン)ら前回の地獄を経験した芸人たちに加えて、森田哲矢(さらば青春の光)、東ブクロ(さらば青春の光)、酒井貴士(ザ・マミィ)らが新たに地獄の門をくぐることとなった。彼らの奮闘に鋭いツッコミを入れながらを見守るのは、シーズン1から続投するバカリズム小峠英二バイきんぐ)。

 ORICON NEWSでは、この刺激と知性あふれたバラエティーを仕掛けた藤井氏と、今作のエグゼクティブプロデューサーでDMM TV コンテンツ部オリジナル制作グループ責任者の久保田哲史氏の対談取材を行った。後編では、『大脱出2』全話の配信が行われたタイミングだからこそ、ネタバレも含んだ秘話に迫る(※以下、全話視聴を前提にしたネタバレ表現を含みます)。

■『大脱出2』は謎解き要素強め 放送尺の自由さ生かして6話予定から7話へ

――藤井さんの中では最初に『大脱出』を作った時から、2の構想はありましたか?

藤井
いや、全然なかったです。「2とかどうですか?」みたいな感じでお話をいただいたので、それを受けて考えはじめた…という流れです。


――今作について、バカリズムさんが「謎解きとしてもドキュメンタリーとしても面白い」とコメントされていました。

藤井
たしかに、今回は謎解き要素が強くなっちゃったかもしれないですね。前作での「合流する」というサプライズは、今回はもうサプライズにならないので、それはありきで驚きがあるような展開を意識して、「こことここが、こうつながるんだ」という、連鎖するような仕組みを考えました。

――それぞれの話の放送時間(尺)に制限がないので、各話で見せたいパートがちゃんとある形にできましたか?

藤井
各話の終わり方は意識しましたね。ドラマだと脚本段階でそれも考えるだろうし、考えられるんでしょうけど、バラエティーの場合、厳密には難しいので。そんなことで、ちゃんと続きが気になるところで終わらせようとしたら、もともと6話の予定だったのが、7話になってしまいました。
やはり、話数も尺もある程度融通がきくのは配信の大きなポイントですよね。

――さらば青春の光の森田さんが、リーダー的な存在で最後の最後まで引っ張っていかれていましたが、藤井さんの中でその部分は想定されてましたか?

藤井
(さらばの部屋が)一番で出やすい部屋なので…というか、他の部屋はさらばが出ないことには基本的に自力脱出ができないので、話が2人の目線で展開していくのは想定通りですね。あのチームが、最初にフィールドに出て自由に動けるようになるので、その逆算で、最も適任な2人を選びました。

――見ている側としては、トム・ブラウンみちおさん&ザ・マミィ酒井さんの部屋が一番つらかったですが…。

藤井
あの部屋は、本当にめちゃくちゃ狭くて、たぶん2畳くらいだったんじゃないかな…?映像で見るとまだ少しマシに見えるんですけど、実際に中に入ったときの圧迫感はすごいですから。本当は、もうちょっと広くしてあげたかったんですけど、見ていただいたらわかりますが、部屋を重たくできない理由があったので。
中の2人には申し訳ないけど(笑)。

■「クロちゃんは電話するぐらいでいいか(笑)」 藤井氏が振り返る脱出の舞台裏

――そんな中、クロちゃんだけ、別の場所からの脱出となりました。

藤井
今回も屋外の画が一カ所くらいはほしかったんで、そこをクロちゃんに担ってもらいました。で、小さい島にポツンといるのは面白いなと。ただ、クロちゃんってあの中だと一番先輩になっちゃって、芸人みんなでいるとちょっと偉そうにしたりするので、あんまり面白くならないんですよね(笑)。だから、最終的に合流するパターンも一旦は考えたんですけど、結果、電話するぐらいでいいかなと(笑)。
伝達が下手だったり、勘が悪くて腹立つってのも予想通りです。

――クロちゃんとは『水曜日のダウンタウン』でもご一緒されていて、改めて伺うのも野暮ですが、クロちゃんの魅力はどこでしょう。

藤井
どうですかね。いいフィールドを用意してあげると、ちゃんとパワーを発揮する人っていうか。放っておいて面白くなるわけじゃないし、苦手なこともいっぱいあると思うんですけど、ある得意な場においてはすごい力を発揮する人っていう感じですよね。

――今回も、埋められている時に唯一やり取りできるAIスピーカーに感情移入していく流れも面白かったです。


藤井
いいですよね、ほどよくしょーもなくて(笑)。ちょっと裏側っぽい話になりますが、あの状況でやれることを探していく中で、ああいう風になるのはよくわかるんですよね。でも、それを(VTRを見ているバカリズム、バイきんぐ小峠に)ちゃんと見透かされるという(笑)。

久保田
どこまで計算してやってるのかなって、藤井さんの頭の中を覗きたいです。

藤井
今回は前回よりもルートがしっかりしちゃっているので、基本的にはほとんどが想定通りですかね。合流だったり、大オチの部分は、1を見てくれた人たちは、2でもそうなるだろうと思いながら見るとは思うので、大きなサプライズにはならないけども、完全な焼き直しではなく、でもがっかりしない程度の展開を考えたつもりではありますね。


■最終話の仕掛けは「想定通りではあります」 藤井氏が考える“テレビ局の持つ優位性”とは

――小峠さんが「地上波でやったら2、3人ぐらいはクビになるだろう」といったことをおっしゃっていましたが、そもそもの話ですが、なぜDMM TVで実現できたのでしょう。

久保田
これは、もう藤井さんの力です。藤井さんは「地上波なのか配信なのか」という線引きで番組を作るクリエイターではないように思います。ただ、配信番組だと、藤井さんだけでなく、出演者もそうですけど、制約が少ないとか、いいものを追求できる土壌があるとか、そういう面が大きいのかもしれないですね。

藤井
最後のところとか、不快に思う人も多いんですかね?この前、ある出演者に会ったとき、本人が完成形をまだ見ていない状態だったので、「どこまで使ったんですか?」みたいなことを聞かれて、「基本的には全部使ってますよ」って言ったら、びっくりしてました(笑)。

――最終話の仕掛けも、どこまで想定されていたんですか?

藤井
だいぶ裏側の話ですけど、あの2人がその仕掛けを担うことになったのも想定通りではありますね。あれが似合う2人ではあるじゃないですか、しんいち&井口組ではちょっと笑いづらいというか。だから、その辺の展開も含めて(仕掛けに必要な伏線である)電話を一番に取るはずの、あの狭い部屋にいる…っていう。万が一、他の組があの電話を取っちゃった場合は、食事の順番を変えて対応するつもりでしたけど。

――DMM TVさんでの今後の展開についても聞かせてください。

藤井
まだ具体案があるわけではないのですが、『大脱出3』はできたらいいなと思っているので、どんなパターンがあるか絶賛考え中という感じですかね。まったく別物にしちゃうと意味がないですけど、同じじゃつまらないので、変化のつけ具合が難しいところではありますが、いい新要素とアイデアがあれば、3ぐらいまでならなんとかなるのかなと。だいたい、映画も面白いのは3くらいまでじゃないですか(笑)。4が一番面白いなんて前例はないので、3がギリですよね。

久保田
藤井さんは地上波でも配信でもこれだけ結果を出されて…。今後もDMM TVとやりたいと思ってもらえるためにも、オリジナル中心にもっともっとみんなに見てもらえるようなプラットフォームにしていかないといけないですね。いっぱい見てもらえるように頑張らないといけないなっていう感じです。

――テレビ局員でありながら配信のコンテンツを作るということに関してはいかがでしょうか?

藤井
バラエティーに関しては、なかなかテレビ以外の土壌から作り手が出てくるのは、まだ難しいですよね。そこしか学ぶ場所がないというか、ノウハウだったりも独特のところがあるので。ドラマや映画はだいぶ事情が異なるとは思うんですけど、バラエティーコンテンツを作るのにテレビ局を経由しない作り手っていうのは、まだちょっと時間かかりそうな気がします。そういう意味では、テレビの放送自体のパワーとは別のところで、まだテレビ局の持つ優位性みたいなものがあるかもしれないですね。

――藤井さんの中での土壌はやっぱりまだ地上波ですか?

藤井
そうですね、別にそこに強いこだわりがあるわけではないですけど、まだ見られる人数でいうと、地上波が圧倒的に多いわけで。僕らとしては、やっぱりなるべく多くの人に見てもらうというのが、目的やモチベーションの大きなひとつですから。