悪質なクレーマーに対して、どのように対応すればいいのか。クレーム対応研修講師の津田卓也さんは「クレームを受けたときに、相手の主張を全面的に認めて謝罪するのはNG。
全面的に謝ってしまうと、訴訟でも不利になるリスクがある。悪意のあるクレームを付けられた場合は、部分謝罪フレーズで対応したほうがいい」という――。(第3回)
※本稿は津田卓也『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
■「全面謝罪」は絶対にNG
クレームを受けたら、どんなケースでも最初に部分謝罪をします。お詫びの言葉があるだけで、お客様の怒りを落ち着かせることができ、クレームの内容を具体的に聞き出しやすくなるためです。
しかし、謝罪をしたことを理由に、心理的に追い詰めてくる悪意クレームもありますので、どんなに慌てていても、「この件は、全て弊社(私)の不手際です、申し訳ありませんでした」などと、相手の主張を全面的に認めて謝罪することは絶対にしないことです。
「さっきは非を認めて謝ってきたじゃないか!」と対応の一貫性のなさを指摘されて状況が悪化しかねません。万が一、訴訟に発展したら不利になることもあります。部分謝罪は「お客様に今ご不便をお掛けしていることについて、誠に申し訳なく思っております」というように、何に対してお詫びをしているのかを、必ず明確に言葉にして伝えてください。
ここからは、便利で使い勝手の良い、部分謝罪フレーズをご紹介します。各フレーズが何に対して限定的な謝罪を行っているのかに注目してください。皆さんの業種に合ったフレーズが見つかると思いますので、ハードクレーム対応でパニックになったときでもすぐに言葉にできるよう、練習して覚えてしまいましょう。

「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」

→販売店、飲食店、アミューズメント施設、接客に慣れていないアルバイトのスタッフが多い時期や新人が多い時期など、スタッフ対応でクレームが多い現場で使用。
「ご心配をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした」

→保育所、学校、介護施設など、連絡系統が煩雑だったり、忙しかったりで、迅速な事実確認ができない現場で使用。
「ご不便をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした」「ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした」

→交通、インフラ、役所、メーカーなど、不具合が起こるとお客様の生活やお仕事に支障が出てしまう現場で使用。
「お時間をとらせてしまい、申し訳ありませんでした」

→コールセンターや案内所、レジなど、常に混雑していたり、確認に時間がかかったりでお待たせすることが多い現場で使用。
ほかにも、次のような部分謝罪のフレーズはあらゆる場面で使えますので覚えておきましょう。「ご足労をお掛けし、申し訳ありませんでした」「お手数をお掛けし、申し訳ありませんでした」「説明が不足し、申し訳ありませんでした」
■「お詫びを連呼」は相手を煽るだけ
一方、絶対に言ってはいけないフレーズがあります。
「今後二度と、このようなことがないようにいたします」

「今後、ご迷惑をお掛けするようなことは絶対にありません」
「二度としない」「絶対しない」というのは、クレーム対応だけでなく、どんな場合であっても言葉にすることは避けるべきです。なぜなら、その言葉を守れなかったときに責任をとれないからです。
事実関係がはっきりするまで「全面的なお詫びはしない」というルールを設けている企業もあるようですが、クレームは初期消火が肝心です。相手の怒りをとにかく収める方向に進まないとこじれるだけですので、初動は必ず部分謝罪と決めておきます。そのほうがその後の対応が楽になります。
また自分たちに非がないのに謝罪するのは、なかなか気持ちの整理がつかないかもしれません。
そのお気持ちは痛いほど分かりますが、例に挙げたような部分謝罪をフレーズごと覚えてしまい、その後の対応をスムーズにしていきましょう。
また、次のようなお詫びの仕方はNGです。口先だけの謝罪に聞こえてしまうので注意しましょう。
◎ お詫びを連呼する

◎相手のお話を何も聞かない状態で、真っ先にとりあえず謝る

◎「お詫びはいたします“が”……今回は」「申し訳ありません……“が”、“でも”、やっぱり」と、言い訳を付け加えようとする
最後のパターンは、対応者の「あなたの主張に納得していない」という気持ちがにじみ出てしまっていますよね。お詫びは必ず言い切りの形で終わらせましょう。
■声の大きさと、話のテンポを相手に合わせる
相手の要求内容を理解したら、いよいよこちら側の言い分を話し、ご納得いただけるよう話を動かしていきます。このとき、ペーシングとチューニングを意識しましょう。
早口でまくし立てる方、ゆっくり言い分を述べる方など、人によって話し方はさまざまです。いずれにしても、怒りをなだめる方向にもっていくことが大事です。まずは相手の話す速度に合わせて話をしていきましょう。これをペーシングと呼びます。
ペーシングは、相手の警戒心を取り除き、安心感を与えることができるテクニックです。
一方、チューニングは、相手の声の大きさや調子、テンションに合わせて話す方法です。落ち込んでいる友人から相談を受けたら、少し声の調子を落としますよね。それと同じで、話し方を合わせることで相手の心情に寄り添っているという印象を与えることができ、相手も話しやすくなります。
また、相手の話し方に同調することで、会話のテンポがスムーズになります。大きな声で話してくる相手には、負けずに大きな声で応答します。こちらを弱い相手だと思わせないことが大事だからです。
反対に、小さな声でボソボソ話す相手に、大きな声で対応したら「怒鳴られた」などと言われてしまいます。ここもチューニングしていきましょう。
■「はあ……」の“二文字”で優位に立つ
続いて、少し高度なテクニックをご紹介します。
要求に応じるよう執拗に迫ってくる相手の場合、ほとんどがハードクレームです。会話のペースや論点を意図的にずらしていきましょう。
相手は、対応者側が「金品での解決」を提案してくるのを待っているので、決して、自分から解決策を言葉にしてはいけません。
「はあ……」「そう言われましても……」のように、曖昧な返答で相手の気をそぎます。
このテクニックのポイントは、「相手の主張に同意しているわけではない」と言葉ではなく態度で伝えることです。そして、のらりくらりと対応することで相手をイラつかせ、相手の口から具体的な金品の要求や暴言などを引き出せれば、法的措置をとるという選択肢を持つことができ、対応者側が優位になるのです。
ハードクレーム対応では、必然的にお客様の要求を「断る」ことが多くなります。そんなときには「断るときの3つのK」を使いましょう。3つのKとは、感謝→簡潔な結論→感謝です。
■“NO”の結論を「ありがとう」で包み込む
クレーム対応で相手の要求を断る際には、ついお詫びの言葉ばかりを使ってしまいがちです。しかし、できるだけお詫びの言葉を感謝の言葉に置き換えたほうが、言われた側も嫌な気分がしないものです。
「つい興奮して大きな声で怒鳴ってしまった」というような、一般クレームから派生したハードクレームの場合、「ありがとうございます」の一言で、相手の怒りのボルテージを下げることもできるのです。
「わざわざお電話いただき、ありがとうございました」「ご足労いただきまして、ありがとうございました」「私どもの商品をお選びいただき、ありがとうございました」
お客様が「自社の商品やサービスを選び」「わざわざ窓口までお越しになっている」という現状に対して感謝の言葉を伝え、その上で要求に応じられない場合は簡潔にお断りします。
そして最後に、「貴重なご意見をいただきまして、ありがとうございました」「ご指摘をいただきまして、ありがとうございました」と感謝の言葉を再度伝えましょう。
例えば「渋滞で窓口に到着するのが遅れるので、閉店時間を延ばせ」とか「商品をもっと安くしろ」といった要求は、組織の仕組み上、応じられないことが多いので、結論は即「できません」になります。
ハードクレームの場合、要求に応じられない旨を簡潔に伝えるしかありません。
でも、“NO”という結論を「ありがとう」で包み込むことで、相手が感じる不快感を和らげることができます。

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津田 卓也(つだ・たくや)

クレーム研修担当講師

キューブルーツ(Cube Roots)代表。1965年生まれ。京都府出身。1995年ブックオフコーポレーション株式会社に入社し、2000年にはブックオフコーポレーションの年間MVP獲得。2005年にセミナー&研修会社キューブルーツを設立。メディアでも活躍し、フジテレビ『バイキングMORE』、テレビ東京『解禁!暴露ナイト』、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」、NHK「あさイチ」等に出演。執筆活動にも力を入れており、雑誌では『日経ビジネスアソシエ』等にも寄稿。著書に『どんなクレームも絶対解決できる!』、『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』(ともにあさ出版)、『なぜか印象がよくなるすごい断り方』(サンマーク出版)などがある。

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(クレーム研修担当講師 津田 卓也)
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