■マクドナルドの謝罪がさらなる批判を浴びるワケ
8月11日、日本マクドナルドがハッピーセットのポケモンカードキャンペーンで、転売目的の大量購入、店内の混乱、食品の放置・廃棄が発生したことなどをホームページ上で謝罪。
「お客様」「クルーの皆様」「テナント入居先のオーナーの皆様」に詫びた上で、これらの行為を「容認しません」と断言し、再発防止の取り組みを明かした。
しかし、この謝罪文が報じられてもマクドナルドに対する不満の声は収まらず、むしろさらなる怒りにつながった感すらある。いったいマクドナルドはどんなことで怒りを買い、誰をどのように傷つけたのか。そして、どんな対応が問われているのか。
なぜ謝罪文が受け入れられなかったのか……というより、これで理解を得られると思っているから、このような事態を招いてしまったのではないか。そう思われても仕方がないほど、「変えなければ」という決意が感じられず、具体性に欠ける文章が並んでいた。
対策について書かれていたのは、「購入数のより厳格な制限について」「フリマアプリ運営事業者様との継続的な協議について」の2項目。
マクドナルドが今回設定した「1人5セットまでの購入」は誰が見ても違和感があり、今年5月に、ちいかわで批判を受けた反省がまったく生かされなかった。
マクドナルドの対応は基本的に「ご遠慮いただきますよう」という性善説に基づく消極的なものであり、いわば客任せ。個人や回数の制限はせず、転売ヤーたちが繰り返し購入するのは目に見えていた。
■失われたハッピーセットの理念
ポケモンのファンでなくてもその人気が凄まじいことはわかるはずであり、マクドナルドでしか買えないものである以上、転売ヤーでなくても食べられない量を購入する人がいるのは明白。店内放置だけでなく、廃棄された食品がどれだけあったのか。発売人数と来客数に対する売上を見れば、マクドナルドはどのくらい廃棄されたのか、おおよそ把握できるだろう。
ハッピーセットの商品ページには「私たちは、これからの社会を担う子供たちの『今』も、そして『未来』も、明るく幸せなものであって欲しいと心から願っています。そのために、ハッピーセットは『ほん』や『おもちゃ』で、子供たちが夢中になって遊びながら、いきいきと自分らしさを発揮し、発達することをサポートしていきます」と、その理念が書かれている。
また、本やおもちゃについては、「ハッピーセットの『ほん』や『おもちゃ』で子供たちが夢中になって遊びながら幅広い領域への興味を深め考える楽しさを広げてほしいと考えています。自分らしく生きていくための想像力・表現力・創造力を育むことを目指し子供の発達支援の専門家とともに発達のための7つのテーマに沿って開発しています」とも書かれていた。
これだけ明確に「子供のための商品」と掲げているにもかかわらず大人が買い占める。しかもその中には転売ヤーも多い。その結果、子供には行き渡らず、ハッピーどころか失望させている。
■涙を流して帰った子供
このような事態が過去にも起きていたにもかかわらず、マクドナルドは子供優先の販売形態を取ろうとしていない。たとえば、子供同伴者のみの先行販売、キッズアカウントを使った販売、大人はアカウント販売で1個しか購入できないなど、できるレベルの対策をやらないことが子供たちの失望と親の怒りを招いている。
筆者の子供は小学生だが、彼らの間でポケモンの人気は絶大。実際、友達の中には「朝から店に並んだが、さんざん待たされた結果、購入できずに涙を流して帰った」という子供もいる。
ハッピーセットは今回のポケモンに限らず、小学生だけでなく園児たちの人気も凄まじい。トミカ、プラレール、マインクラフト、ジョブレイバー、ちいかわ、すみっコぐらし、ハローキティ、リカちゃん、ドラえもん、クレヨンしんちゃん、星のカービィなど、日本のオールスターというべきおもちゃがもらえるのだから、特に幼児は「興味ない」という子供を探す方が難しいくらいではないか。
これだけ子供が喜ぶ上に、食べ物と飲み物がついて価格が500円あまりなのだから、親が買ってあげたくなるのは当然だろう。つまりマクドナルドの企業努力によるところが大きい魅力的な商品だけに、不十分な対応にもどかしさを感じさせられる。
前述したハッピーセットの理念も、肝心の子供に届かないのであれば、絵に描いた餅に過ぎず、「けっきょく利益優先の企業」というレッテルを貼られるだけだろう。
■大量の食品廃棄
もう1つ人々の怒りを買っているのは、ハッピーセットの商品内容に基づく食品ロスの必然性。転売対策の甘さが転売ヤーの大量購入と放置・廃棄を招いただけでなく、商品内容にも問題点がうかがえる。
ハッピーセットは、バーガー(チキンマックナゲット、チーズバーガー、ハンバーガー、プチパンケーキ)、サイド(えだまめコーン、サイドサラダ、マックフライポテト)、ドリンク(12種類)の3ジャンルから1つずつ選ぶセットとして販売されている。
問題はメインのバーガーが子供向けのメニューのみであることだろう。
定番のビッグマック、ダブルチーズバーガー、てりやきマックバーガー、フィレオフィッシュ、チキンフィレオ、ベーコンレタスバーガー、えびフィレオ、チキチー、エグチ。
つまり、大人がおもちゃ目当てでハッピーセットを注文すると「バーガー」の選択肢が物足りず、複数購入するほど廃棄する人が出やすくなる。
マクドナルドがこのような状況をわからないとは思えないだけに、今回の騒動では「食品ロスを助長している」という批判があがっていた。「子供向けの安価な商品だから仕方がない」「たくさん買った大人もきっと全部食べてくれるだろう」という客任せの性善説がここでも見受けられる。
■「地球環境のために」の空虚
たとえば、ハッピーセットを大人が購入する場合、バーガーの選択肢を増やしてあげつつ、一方で金額は単品のオーダー時より割高で販売してもいいのかもしれない。これは「それくらいの対応をしなければ食品ロスを削減できないほど、ハッピーセットのおもちゃが大人にとっても魅力的なもの」ということでもある。
マクドナルドはホームページ上の「サステナビリティ 地球環境のために Made For You」で食品ロス削減を掲げている。そこには廃棄物発生状況(2024年)のデータがあり、食品は年間50.8千トン(対前年比+1.8%)という数値が掲載されていた。このデータ自体の信憑性にも多少の疑問はあるが、今年はちいかわ、ポケモンと大きな騒動が続いただけに数値が上がるのではないか。
■転売対策で絶賛された任天堂との差
話を転売対策に戻すと、現在は「転売ヤーがほぼ手を出せない状態まで徹底する」ことで初めてその企業が評価されるようなムードがある。
それを物語っているのが、今春に任天堂が行ったSwitch2の転売対策。大量購入や高額転売を防ぎ、本当にほしい人が抽選に参加できる徹底ぶりが絶賛された。
物価高騰が社会問題となるなど、人々が商品の価格に敏感な中、企業に転売対策が求められるのは当然だろう。「ただでさえ高くなっているのに、買い占めによってフリマサイトで金額を上乗せして買わなければいけない」という状況の予防は、もはや企業側の義務と言っていいのかもしれない。
任天堂とマクドナルドに対する声の違いを見れば、さらなる価格高騰を招く転売を防げば絶賛され、不十分であれば酷評されることは確かだろう。
深刻なのは、ふだんマクドナルドにあまり行かない、あるいは、ポケモンに興味がない人々からも批判されていること。この状態が続くほど、企業イメージの低下や販売機会損失は避けられないだけに、1日でも早くもう一歩進んだ対策を打ち出したほうがいいように見える。
■罵声を浴びせられる現場のクルー
マクドナルドは謝罪文の中で「多大なるご迷惑をおかけしました」という相手にあげたのは、「お客様」「クルーの皆様」「テナント入居先のオーナーの皆様」の3者だった。ここまで書いてきたように、最も怒っている人が多いのは「お客様」であることは間違いないだろう。
しかし、最も迷惑をかけ、「お客様」以上に怒っているかもしれないのが「クルーの皆様」。本部の方針や対応によって各店舗は混乱状態に陥り、クルーたちの中には心ない言葉を浴びせられた人が少なくないという。
ポケモンのハッピーセットを買えなかった人から厳しい言葉をかけられたことは想像に難くないが、買えずに悲しい顔で帰っていく子供の姿を見ることも、店内に廃棄された食品を片付けることもつらかったのではないか。
さらに、朝から並んで購入できた人の中にも、「店内に入ってから1時間以上待たされた」などの声が散見された。
■本部だけが気づかない風通しの悪さ
ただ、現場のクルーたちはこれくらいの混乱は予想できていたのではないか。
もし現場のクルーたちが「本当はこうしてほしい」「もっと具体的な対策をしなければ危ない」と言いたかったけど言える組織ではないのなら問題は深刻。外食産業は他業種以上に現場の声が重要なだけに、もし本部とのコミュニケーションが足りないのなら、今回以上のリスクが起きても驚きはないだろう。
一部報道では「配布されたポケモンカードは6種類・計300万枚弱」とされているが、本部の人々はこれで混乱なく終えられると思っていたのだろうか。
ポケモンカードほどの人気コンテンツであれば「すべてをそろえたい」というファンは多く、「コンプリートするために最低5セット以上は買わなければ」などと考えるのが自然だ。さらに、発売後すぐに中国のフリマサイトへ出品されていたように、海外での人気も相当高く、世界中に幅広い年齢層のファンがいる。
今回の騒動はマクドナルドの本部を除く、多くの人々が予想できたことであり、それを客任せの性善説で押し切ろうとしたところに企業体質がうかがえる。ハッピーセットそのものは素晴らしいサービスだけに、対応を改めることで、まずは子供たちを再びハッピーにさせてほしいところだ。
----------
木村 隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。
----------
(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)