「住みたい街」として評価される街は、何が魅力なのか。不動産事業プロデューサーの牧野知弘さんは「横浜はすでに人が集まる人気の街だが、駅周辺の再開発計画が次々と立ち上がっており、時代の変化に合わせて常に進化しようとしている」という――。
■渋谷まで直通の「みなとみらい地区」
横浜が住みたい街として大人気だ。SUUMOが発表する「住みたい街ランキング」首都圏版では8年連続で首位を獲得。今や住宅地としての人気は不動のものとなっている。
横浜と聞いて人々はどんなイメージを抱いているのだろうか。SUUMOの調査では住みたい街を鉄道の駅名で答えさせている。現実の横浜駅周辺では住宅は少なく、「横浜」を選択する人の多くは、横浜駅を中心に広がるさまざまな街を思い浮かべているものと想像される。
まず最近脚光を浴びているのが、横浜駅の南東部にあるみなとみらい地区だ。横浜に都心機能をもたせる目的で1983年から埋め立てを行ってきたこの地区は、当初は業務機能を中心とした開発を目指したが、その後住宅の開発も認められるようになり、東京都心に通勤する人たちの住宅として認知されるようになる。
容積率が高いために超高層のタワマンが多数建設され、特に2004年には東急東横線横浜駅から横浜高速鉄道で元町・中華街駅までの乗り入れが実現し、みなとみらい線の新駅ができたことで、人気に火が付いた。
■中華街だけでなく居酒屋街、歓楽街も
みなとみらい地区は元町、中華街へのアクセスがよく、さらに横浜では古くからの官庁街、ビジネス街でクラシカルな洋館が残る関内、プロ野球の横浜DeNAベイスターズの本拠地・横浜スタジアム、山下公園に近く、横浜の海のイメージを実感できる点も魅力だ。
地区内はオフィスやタワマンだけでなく、博物館やミュージアム、ホテル、アリーナなどが整い、生活環境の良さも売りのひとつだろう。
古くからの横浜推しなら、桜木町と関内の中間にある野毛は大手チェーンが少ない居酒屋街として有名で、最近は若い人たちで賑わう。
ほかに関内近辺では馬車道、伊勢佐木町などの古くからの商店街、野毛山から久保山墓地にかけては閑静な街並みの住宅街が広がる。
■コンパクトな街の中に多様な「顔」がある
横浜駅北側に目を向けると、北東部にはヨコハマポートサイド地区がある。ここは港湾関係の施設が多かったが、タワマン街に変貌していて、東海道線、京浜急行線の2路線を利用できる利便性が評価されている。鶴屋町近辺はオフィスと歓楽街があり、東急東横線に沿って、反町、白楽、妙蓮寺と言った古くからの瀟洒な住宅街が続く。
駅西側の北幸地区は古くからのビジネス街があり、北西には三ツ沢上町、下町などの高級住宅街があって三ツ沢公園につながる。公園内には陸上競技場、球技場などのスポーツ施設が充実している。南幸地区は相鉄ムービルをはじめ、物販店や飲食店が軒を連ねる商業、文化、エンターテインメント街が広がる。
駅南側は、明治以降に日本で多くのスポーツを広め、実業家としても名高い平沼亮三の屋敷があった平沼地区があり、相模鉄道の沿線を中心にマンション開発が活発だ。
このように横浜には地区によってさまざまな顔があることがわかる。住みたい街に横浜を選ぶ人はこうした横浜が持つ多くのコンテンツを思い浮かべ、憧れを持っているのではないかと思われる。また東京に比べて、コンパクトな街であり、これら特徴のある街間の移動も充実した交通網に支えられて、円滑に移動できる点も特筆される。
■駅前開発は2040年代まで絶え間なく続く
同じような港町でエキゾチックな雰囲気で人気を博した神戸市が、阪神・淡路大震災以降、街としての賑わいを完全には取り戻すことができず、人口の転出に悩まされているのとは対照的だともいえる。
これだけの人気を誇る横浜だが、街は進化の歩みを止めてはいない。横浜市では駅周辺の再開発構想として「エキサイトよこはま22」を策定し、更なる「国際化対応」「環境への配慮」「駅周辺の魅力の向上」「災害からの安全の確保」などを掲げ、駅周辺を魅力ある街に再構築していく姿勢を示している。
この構想には、横浜駅に乗り入れるJR東日本や東急といった鉄道各社がそろい踏み、駅周辺で計画されている4カ所の市街地再開発組合、準備組合、協議会などが参加している。
この構想では駅周辺を7つの地区に分け、横浜ポートサイド地区、みなとみらい21中央地区を除いた5つの地区の開発を進めている。すでに横浜駅は西口を中心に長期にわたって駅舎、商業施設などの大規模改修を行ってきた。今年の春におおむね完成をみたが、開発の手を休めずに2040年代までに続々と新しい顔がお目見えすることになる。
■時代の変化に合わせて進化する「若い街」
近年、西谷駅からJR東日本と東急線に相互乗り入れを開始し、東京へのアクセスを飛躍的に改善させた相模鉄道も、独自に「西口大改造構想」を発表し、2020年代後半の相鉄ムービルの建替えをスタートに2040年代にかけて駅施設の改修や周辺開発を随時行っていくことを発表している。
横浜の魅力は、こうした飽くなき街の新陳代謝にある。常に時代の変化に合わせた新しい顔、コンテンツを用意し、人々の好奇心を駆り立て、人の集まる街を創造していく努力を惜しまない姿勢が、横浜の若さを保ち続けているのである。
■横浜市内で広がる「格差」がどう影響するか
その結果として、みなとみらい地区のマンションは大人気で、昨今のタワマンの中古価格相場は坪当たり600万円から700万円台。20年程度前の分譲時には坪当たり300万円程度だったので、およそ2倍の価格に跳ね上がっている。
いっぽう横浜市全体でみると、横浜駅を中心とした西区、神奈川区などの中心部、東京へのアクセスのよい鶴見区、港北区、都筑区などでは活発に人が出入りし、地価も上昇スピードを速めている反面、旭区、瀬谷区などの西部、南区、港南区、栄区、金沢区などの南部では、激しい高齢化に見舞われ、住宅価格も低迷している。
住みたい街ナンバーワンの座をいつまで維持できるかは、今後の更なる再開発と人々のライフスタイルの変化を的確にとりこんだウェルビーイングなまちづくりにかかっている。横浜の今後の発展に注目したい。
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牧野 知弘(まきの・ともひろ)
不動産事業プロデューサー
東京大学経済学部卒業。ボストンコンサルティンググループなどを経て、三井不動産に勤務。その後、J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て独立。現在は、オラガ総研代表取締役としてホテルなどの不動産事業プロデュースを展開している。著書に『不動産の未来』(朝日新書)、『負動産地獄』(文春新書)、『家が買えない』(ハヤカワ新書)、『2030年の東京』(河合雅司氏との共著)『空き家問題』『なぜマンションは高騰しているのか』(いずれも祥伝社新書)など。
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(不動産事業プロデューサー 牧野 知弘)
■渋谷まで直通の「みなとみらい地区」
横浜が住みたい街として大人気だ。SUUMOが発表する「住みたい街ランキング」首都圏版では8年連続で首位を獲得。今や住宅地としての人気は不動のものとなっている。
横浜と聞いて人々はどんなイメージを抱いているのだろうか。SUUMOの調査では住みたい街を鉄道の駅名で答えさせている。現実の横浜駅周辺では住宅は少なく、「横浜」を選択する人の多くは、横浜駅を中心に広がるさまざまな街を思い浮かべているものと想像される。
まず最近脚光を浴びているのが、横浜駅の南東部にあるみなとみらい地区だ。横浜に都心機能をもたせる目的で1983年から埋め立てを行ってきたこの地区は、当初は業務機能を中心とした開発を目指したが、その後住宅の開発も認められるようになり、東京都心に通勤する人たちの住宅として認知されるようになる。
容積率が高いために超高層のタワマンが多数建設され、特に2004年には東急東横線横浜駅から横浜高速鉄道で元町・中華街駅までの乗り入れが実現し、みなとみらい線の新駅ができたことで、人気に火が付いた。
■中華街だけでなく居酒屋街、歓楽街も
みなとみらい地区は元町、中華街へのアクセスがよく、さらに横浜では古くからの官庁街、ビジネス街でクラシカルな洋館が残る関内、プロ野球の横浜DeNAベイスターズの本拠地・横浜スタジアム、山下公園に近く、横浜の海のイメージを実感できる点も魅力だ。
地区内はオフィスやタワマンだけでなく、博物館やミュージアム、ホテル、アリーナなどが整い、生活環境の良さも売りのひとつだろう。
古くからの横浜推しなら、桜木町と関内の中間にある野毛は大手チェーンが少ない居酒屋街として有名で、最近は若い人たちで賑わう。
さらに足を延ばせば、日ノ出町や黄金町といった昭和時代を彷彿とさせる歓楽街がある。
ほかに関内近辺では馬車道、伊勢佐木町などの古くからの商店街、野毛山から久保山墓地にかけては閑静な街並みの住宅街が広がる。
■コンパクトな街の中に多様な「顔」がある
横浜駅北側に目を向けると、北東部にはヨコハマポートサイド地区がある。ここは港湾関係の施設が多かったが、タワマン街に変貌していて、東海道線、京浜急行線の2路線を利用できる利便性が評価されている。鶴屋町近辺はオフィスと歓楽街があり、東急東横線に沿って、反町、白楽、妙蓮寺と言った古くからの瀟洒な住宅街が続く。
駅西側の北幸地区は古くからのビジネス街があり、北西には三ツ沢上町、下町などの高級住宅街があって三ツ沢公園につながる。公園内には陸上競技場、球技場などのスポーツ施設が充実している。南幸地区は相鉄ムービルをはじめ、物販店や飲食店が軒を連ねる商業、文化、エンターテインメント街が広がる。
駅南側は、明治以降に日本で多くのスポーツを広め、実業家としても名高い平沼亮三の屋敷があった平沼地区があり、相模鉄道の沿線を中心にマンション開発が活発だ。
このように横浜には地区によってさまざまな顔があることがわかる。住みたい街に横浜を選ぶ人はこうした横浜が持つ多くのコンテンツを思い浮かべ、憧れを持っているのではないかと思われる。また東京に比べて、コンパクトな街であり、これら特徴のある街間の移動も充実した交通網に支えられて、円滑に移動できる点も特筆される。
■駅前開発は2040年代まで絶え間なく続く
同じような港町でエキゾチックな雰囲気で人気を博した神戸市が、阪神・淡路大震災以降、街としての賑わいを完全には取り戻すことができず、人口の転出に悩まされているのとは対照的だともいえる。
これだけの人気を誇る横浜だが、街は進化の歩みを止めてはいない。横浜市では駅周辺の再開発構想として「エキサイトよこはま22」を策定し、更なる「国際化対応」「環境への配慮」「駅周辺の魅力の向上」「災害からの安全の確保」などを掲げ、駅周辺を魅力ある街に再構築していく姿勢を示している。
この構想には、横浜駅に乗り入れるJR東日本や東急といった鉄道各社がそろい踏み、駅周辺で計画されている4カ所の市街地再開発組合、準備組合、協議会などが参加している。
この構想では駅周辺を7つの地区に分け、横浜ポートサイド地区、みなとみらい21中央地区を除いた5つの地区の開発を進めている。すでに横浜駅は西口を中心に長期にわたって駅舎、商業施設などの大規模改修を行ってきた。今年の春におおむね完成をみたが、開発の手を休めずに2040年代までに続々と新しい顔がお目見えすることになる。
■時代の変化に合わせて進化する「若い街」
近年、西谷駅からJR東日本と東急線に相互乗り入れを開始し、東京へのアクセスを飛躍的に改善させた相模鉄道も、独自に「西口大改造構想」を発表し、2020年代後半の相鉄ムービルの建替えをスタートに2040年代にかけて駅施設の改修や周辺開発を随時行っていくことを発表している。
横浜の魅力は、こうした飽くなき街の新陳代謝にある。常に時代の変化に合わせた新しい顔、コンテンツを用意し、人々の好奇心を駆り立て、人の集まる街を創造していく努力を惜しまない姿勢が、横浜の若さを保ち続けているのである。
■横浜市内で広がる「格差」がどう影響するか
その結果として、みなとみらい地区のマンションは大人気で、昨今のタワマンの中古価格相場は坪当たり600万円から700万円台。20年程度前の分譲時には坪当たり300万円程度だったので、およそ2倍の価格に跳ね上がっている。
また新築分譲マンション価格は坪900万円台から1000万円台と東京都心並みの価格水準となっている。
いっぽう横浜市全体でみると、横浜駅を中心とした西区、神奈川区などの中心部、東京へのアクセスのよい鶴見区、港北区、都筑区などでは活発に人が出入りし、地価も上昇スピードを速めている反面、旭区、瀬谷区などの西部、南区、港南区、栄区、金沢区などの南部では、激しい高齢化に見舞われ、住宅価格も低迷している。
住みたい街ナンバーワンの座をいつまで維持できるかは、今後の更なる再開発と人々のライフスタイルの変化を的確にとりこんだウェルビーイングなまちづくりにかかっている。横浜の今後の発展に注目したい。
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牧野 知弘(まきの・ともひろ)
不動産事業プロデューサー
東京大学経済学部卒業。ボストンコンサルティンググループなどを経て、三井不動産に勤務。その後、J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て独立。現在は、オラガ総研代表取締役としてホテルなどの不動産事業プロデュースを展開している。著書に『不動産の未来』(朝日新書)、『負動産地獄』(文春新書)、『家が買えない』(ハヤカワ新書)、『2030年の東京』(河合雅司氏との共著)『空き家問題』『なぜマンションは高騰しているのか』(いずれも祥伝社新書)など。
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(不動産事業プロデューサー 牧野 知弘)
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