先の参院選で勢いを増した参政党は、数多くの批判やスキャンダル報道に晒されながらも、強固な支持と組織基盤を保っている。なぜなのか。
経営学者の舟津昌平氏は「経営組織論から分析すると、参政党は『メンバーシップ』を重視している点が興味深い。公式サイトを見比べると他党にはない要素が見えてくる」という――。(取材・構成=ライター・島袋龍太)
■参政党だけが「党員は何をすべきか」を明確にしている
参政党の参院選での躍進の要因として、党組織の力がしばしば指摘されます。全国47都道府県に280以上の支部を設置し、150名以上の地方議員を擁する組織力は、新興政党としては際立っています。
神谷宗幣代表の演説中の差別的発言をはじめ、複数のスキャンダルが物議を醸していますが、組織の勢いが衰えたようには見えません。党員やサポーターを結束させる何らかの仕組みがあると見てよいでしょう。
私の専門である経営組織論から分析すると、参政党は「メンバーシップ」を重視している点が興味深いです。
各政党の公式サイトを見比べると、参政党が党員やサポーターの「役割」を非常に強調していることが分かります。入党を募るページには、先頭に「一緒に学び合う党」を掲げ、独自の配信コンテンツでの学習や社会活動への参加を呼びかけています。「党員は何をすべきか」が具体的に列挙されているわけです。
他の政党の公式サイトにも党員募集のページは設けられていますが、真っ先に役割を明記して具体的な行動を促すといったことはなされていません。参政党は党員やサポーターを、集票達成のための利害関係者というよりも、協働して組織を支えるコミュニティの一員として捉えているのだと思います。

■メンバーシップがもたらす「組織化」
なぜメンバーシップが重要なのかといえば、集団を「組織化」するからです。組織論において「集団」と「組織」は区別されます。経営学者のバーナードは、組織の成立要件として「共通目的、協働意欲、コミュニケーション」の3つを挙げていますが、参政党は党員やサポーターに役割を与えることでこの要件を揃えています。
業界団体などの支援を受けずに、ボランティアを中心に全国で選挙運動を展開できるのは、党員の組織化に成功しているからでしょう。
■参政党の結束力の源は「帰属意識」
加えて、参政党は「帰属意識」の醸成にも成功しているように見えます。
帰属意識は、今では一般的な言葉として定着していますが、もともとは産業社会学者の尾高邦雄による造語だったようです。尾高は帰属意識を「ある集団の成員がたんに形の上でそれに所属しているだけでなく、心から、つまり生活感情の上でも(中略)自分の生活根拠として感じている度合」と定義しています。
「生活感情」というフレーズが示唆的です。参院選での「日本人ファースト」のフレーズや政策は、人々の生活感情に強く訴えかけるものでした。しばしば「排外主義」と批判を浴びる、参政党の外国人政策に注目が集まった背景には、インバウンドの急増などによる人々の生活上の不満があったことは想像に難くありません。
既存政党がすくい上げられなかった生活感情を「日本人ファースト」の主張で包摂したことで、党員やサポーターの帰属意識が高まり、組織の結束力をさらに高めたのではないでしょうか。
ある党員が参政党の活動を「大人の部活」と評している記事を目にしたことがあります。
主張の是非はともかく、政治活動が趣味のサークルやカルチャースクールに感じられるほど生活感情に寄り添った組織を構築しているのが、参政党の特異な点だと思います。
■「古い日本」に回帰した政党
メンバーシップ、組織化、帰属意識と聞いて、「古臭い」と感じるかもしれません。
私の専門である経営学でも、日本的な雇用慣行である「メンバーシップ型雇用」は、昨今では旧弊と批判される場面が目立ちます。企業と従業員が明示的な契約関係にある前提で職務内容が明確に定義される「ジョブ型雇用」に移行すべきだという論調も根強いです。
企業と政党は必ずしも一致しませんが、現代の企業組織では機能しないとされる仕組み、例えばメンバーシップ制度が、同時代の政党組織では強力な武器になるのは何とも不思議です。なぜ、こうした現象が起こるのか。
あくまで仮説ですが、現代の企業組織では機能しない“からこそ”、政治の領域で力を持ってしまったのではないでしょうか。
■かつての日本企業にあったもの
例えば、1920年代以降の日本の賃金体系には「生活給」という発想がありました。「企業は労働者が家族を養うための生活費を基準にして賃金を設定すべき」という思想に基づく賃金です。その後、戦後復興を経て、高度経済成長とともに生活給は職能給に入れ替わっていきますが、現在もある家族手当や住宅手当はその名残とされます。
ここから分かるのは「かつての日本企業には社員の生活を保障する意思と機能があった」ということです。一般に「日本的経営」と呼ばれるシステムも、終身雇用や家族主義的な経営で、社員の生活を公私にわたり支えていました。

しかし、それが今では否定され、ジョブ型雇用のような構成員の生活面には触れない仕組みに塗り替わりつつあります。かつて、メンバーシップや帰属意識を重視していた企業文化はやせ細り、人々を包摂できなくなりました。
生活ごと包摂する組織が減少するなかで、参政党が生活感情の拠り所として求心力を持つのは理解できなくはありません。つまり、参政党とは「古い日本に回帰した政党」というのが私の見立てです。強い批判を浴びた神谷代表の「高齢女性は子どもを産めない」発言にしても、事の是非はさておき、かつての日本社会ではまかり通っていた主張ではあります。
■それは「古い価値観」だと、誰が定義したのか
「そんな価値観は現代に通用しない」という批判は真っ当だと思います。私も参政党の政策や主張に首を捻るところが少なくありません。
一方で、あらゆる人が古い価値観を一新することは、果たして可能かという疑問もあります。社会学者の太郎丸博氏は、日本人の価値意識を調査した文献で「社会全体の大きな価値観の変化は時代によってすべての世代の人が態度を変えない限り、なかなか起きえない、と考えたほうがよさそうである」と述べています。
国語の教科書にかつて採用されていた『最後の授業』という短編小説をご存知でしょうか。19世紀後半、普仏戦争での敗戦によりフランス語での授業を禁止されたフランス領アルザス地方の教師が、母語による最後の授業を行うという物語です。ある日を境に突然母語が変わってしまうという社会的にショッキングな描写を含んでいます。

この小説は「実際のアルザス地方ではドイツ語系アルザス語が話されていたのに、あたかもフランス語が母国語かのように書かれている」との批判があり、現在では国語の教科書にも掲載されていませんが、その経緯を含めて重要な視点を提供してくれるように思います。
つまり古い価値観が入れ替わるときには大きな社会的アクシデントが起きるもので、その変容はときに暴力的なのです。アルザス地方は政治的状況や戦争により、何度も過去の価値観が更新されてきたといえます。その新しい価値観が常に正しかったといえるのでしょうか。裏を返せば、暴力的といえる大きなショックでもなければ、根付いた文化や習慣を人々は容易に変えられないのでしょう。
■価値観のアップデートは決して簡単ではない
もちろん暴力は否定されるべきです。価値観の変容のためには、丁寧な説明を通じてアップデートを促すしかありません。しかし、説明や説得が万能でない以上、反発したり、関心を示さなかったりする層が現れるのは避けられません。無下に否定すれば、反発の色はより濃くなるでしょう。SNSでも無下な否定が目立ちましたし、それは逆効果だという指摘も多数みられました。
おそらく参政党が支持者として想定しているのも「かつての価値観を否定されて反感や違和感を覚えている人」なのではないでしょうか。
■この勢いはどこまで継続するのか
一方で、参政党の勢いがこのまま継続するかには疑問を持っています。
まず、成長期は組織にとって危機でもあるからです。拡大期の組織が、人手不足や資金繰りの失敗により内部から崩壊するのは企業経営の“あるある”です。
組織が拡大するほどに、強みであるメンバーシップや帰属意識の維持は難しくなっていくでしょう。政治活動は就業とは異なり、生活のために必ずしも継続する必要がないため、党員やサポーターが活動に飽きてしまうことも十分にありえます。とはいえ、生活の一部になるほどメンバーが活動に入れ込むことが参政党の強みでもありますが。
それよりも心配なのは、世論が直近の参政党の勢いを過大に評価して取り乱すことです。
参院選で大幅に躍進したとはいえ、参政党の国会議員数は衆参合わせて18名。国会では未だ少数派であり、支持者の数も日本国民全体から見れば「予想よりも多かった」という規模に留まります。その勢力を過大に見積もって、過剰反応することで呼び寄せてしまう脅威もあるのではないでしょうか。
参院選の期間中に自民党は「違法外国人ゼロ」を訴える動画を公開しました。公開のタイミングや訴えの内容から、参政党の勢いに迎合して、支持を取り込もうとする意図が伺えます。少数派にすぎない勢力が過大に評価されることで、実態としては全体の一部でしかなかったはずの主張に多数派が歩み寄った、ということが起きたと理解できます。

「化物の正体見たり枯れ尾花」という古句があります。恐れおののいていた脅威の正体が実際には取るに足らないものだったという意味です。
参政党の組織や勢力の実態を知ることなく過剰に攻撃的な態度を取るのは、在日外国人の増加によるリスクを過剰に煽って排外主義を打ち出すプロパガンダと構図は同じなのではないでしょうか。いずれにせよ、「適切な理解がなければ、適切な批判はできない」という姿勢を堅持し、冷静にみつめる必要があるように思います。

----------

舟津 昌平(ふなつ・しょうへい)

経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師

1989年、奈良県生まれ。京都大学法学部卒業、京都大学大学院経営管理教育部修了、専門職修士(経営学)。2019年、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都産業大学経営学部准教授などを経て、2023年10月より現職。著書に『経営学の技法』(日経BP社)、『Z世代化する社会』(東洋経済新報社)、『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房/2023年度日本ベンチャー学会清成忠男賞書籍部門、2024年度企業家研究フォーラム賞著書の部受賞)、『組織変革論』(中央経済社)、『若者恐怖症 職場のあらたな病理』(祥伝社)など。

----------

(経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師 舟津 昌平)
編集部おすすめ