※本稿は、近藤悦康『増補改訂版 日本一学生が集まる中小企業の秘密』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
■採用活動における5つの役割
ところで採用活動は1人ではできません。それは五つの役割があるためです。その役割とは、「採用担当者」「リクルーター」「オペレーター」「アセッサー」「クローザー」です。これらは兼任することもありますから、必ずしも5人必要ということではありませんが、それぞれに重要な役割があります。
「採用担当者」は、採用プロジェクトにおける責任者であり、採用活動の窓口となります。学生とあらゆる場面でコミュニケーションをとる役割です。この重要な役割には経営陣が最も信頼を寄せている人材を抜擢してください。会社が好きで経営者を尊敬している人材です。そして、他人に肯定的な影響力を与えられる人を置いてください。
「リクルーター」は選考活動において、応募者とコミュニケーションをとり、会社の魅力を伝えたり応募者の疑問や不安を解消したりする役割を持ちます。
■人としての魅力に磨きをかける
「オペレーター」は、履歴書管理やメール対応、備品の発送手配や学生情報の登録など、採用に関する事務的な業務の全般を担当します。採用担当者のアシスタント的な存在ですので、着実に仕事をこなしていくタイプが向いています。
「アセッサー」は、応募者を採用するかどうかの意思決定を行う面接官や選考の試験官の役割です。現場の責任者クラスで、採用後に責任を持って人材を育成する立場にある人を割り当てます。年齢というよりは役職で選んでください。
そして最後の「クローザー」は、複数の就職先を候補にしている応募者に、自社が選ばれるように魅力づけを行う役割です。経営者自身や役員クラスがこの役割を担います。
企業の規模によっては、これらの役割を少人数で兼務し合うこともあります。
このように採用活動はチームプレーで行われますが、応募者にとってはいずれの担当者も魅力的な先輩でなければ入社動機が高まりません。そのため、いずれの担当者も、人としての魅力に磨きをかけておくことを怠ってはなりません。
■採用チームに必要な「四つの確信」
ところで採用チームに入れるスタッフには、次に述べる「四つの確信」を持っていただかなければなりません。
1.絶対に自社に入社したほうが良いという【会社への確信】
採用活動を行う人は新卒者に対して、他のどの会社よりも自社に入社するほうが良いと確信を持つことが重要です。会社の規模やブランドは関係ありません。どんな有名企業や大企業よりも、自社に入社することが良いのだという確信です。
それは難しい、と思われましたか?
確かに、難しいです。現実には、目の前に学力だけでなく人間性や専門知識においても優れている学生が現れたら、つい次のように思ってしまうでしょう。
「ああ、この学生はウチにはもったいないなあ」
もしかしたら、思うだけでなく、口にしてしまうかもしれません。でも、これではだめです。
■現状ではなく未来への確信を持てるか
とはいえ、実際に規模もブランドも経営状態も、自社よりも優れた会社はたくさんあります。それにもかかわらず「絶対に自社に入社したほうが良い」という確信を持つことは偽りではないか、と思われるかもしれません。
しかし、そうではないのです。
私がお伝えしたい確信というのは、「現状」ではなく「未来」への確信です。
この確信を持っているかいないかは、学生たちに簡単に伝わってしまいます。
ですから、採用活動に関わる人は、「絶対に自社に入社したほうが良い」という確信を持つことが大切なのです。
■自分の仕事を「きつい」と思う人は表面的な見方しかできていない
2.この職業・仕事に就いたほうが良いという【職業への確信】
「ウチの仕事はきついし、大変だからなぁ」
採用活動の担当者がこのようなことを思っていては、絶対に良い採用活動はできません。採用活動担当者は、学生たちに向かって、「こんなに素晴らしい職業や仕事はない」という思いを伝えられなければならないからです。
しかし、「そうはいっても、実際にきついし大変だ」と思っている人は、職業や仕事の表面しか見ていないのではないでしょうか。
たとえば営業職を募集する場合、その仕事が単に物を売る仕事だと表面的な見方をしているのであれば、その見方は改めるべきです。
営業職は単に物を売るのではなく、その商品を売ることで購入者に対し、どのような価値を提供し、どのような満足感や幸福感を提供しているのかという社会的な価値や意義まで感じられなければなりません。
つまり、学生たちに伝えるべきことは、職業や仕事の表面的なことではなく、その職業や仕事がもたらす社会的な価値や意義なのです。このことは当然、採用活動という仕事自体にも社会的な意義や価値を見出すことになります。
それは、採用という仕事は、学生たちの人生を変え、会社の未来を変え、やがては社会や世界を変えていくことにもなる仕事であり、自分はそのような偉大な活動に従事しているのだという確信です。
いついつまでにとりあえず何人を採用しなくては、という発想で採用活動をしても、優秀な人材を確保することはできません。
■自社商品を「絶対に良い」と言える社員
3.自社の商品・サービスを買ったほうが良いという【商品への確信】
採用担当者は、学生に対しても自社の製品やサービスが競合他社よりも絶対に良いと言えなければなりません。
これはもちろん、競合他社よりも性能が優れているとか品質が良いということであればそのことを誇りに思えばいいですが、それ以上に、その製品やサービスに対するコンセプトやポリシーの違いが重要です。
たとえばミネラルウォーターなどは、どの製品も格段に優れているとか美味しいといったことは消費者にはわからないでしょう。そのうえ、硬水が好きだとか軟水に限るなどの好みがあります。
しかし、多くの消費者は、その水のコンセプトに魅力を感じるのです。なぜその産地の水なのか、どれくらい深い地下から汲み上げたのか、そして容器の材質や形状へのこだわりはどこにあるのかなどです。
その意味で、スターバックスはコンセプトで成功しています。
■カフェ利用客が賛同するスタバの「ポリシー」
たくさんのカフェがある中で、スターバックスのコーヒーを選んでいる消費者は、もちろん味に対する好みもあるでしょうけれども、サービスに対するポリシーに共感している人も多いのではないでしょうか。
たとえばスターバックスでは、強い香りが漂うような食べ物を出さないといいます。カフェであれば、チーズをこんがり焼いたような食べ物を出せば売上があがると思われますが、スターバックスはそれ以上にポリシーにこだわっているのです。
そのポリシーとは「強い匂いが店内に充満すると、コーヒー本来の香りを楽しんでいただけないから出さない」「私たちは顧客に居心地の良い空間を提供している」ということなのです。
ですから私は、スターバックスが強い香りが漂うような食べ物を出すようになったら店に行かなくなるでしょう。それはポリシーをなくしたということだからです。
会社のポリシーを貫くことは、顧客の信頼を獲得するためにも重要ですが、人材採用においても、企業の魅力として重要になってきます。
■「最後の一押し」ができる影響力のある社員
4.他の誰よりも、自分たちと一緒に働いたほうが良いという【仲間への確信】
最後は、自分と仲間に誇りを持つことが大切です。
優秀な人材に対する説得力を持つためには、採用担当者自身の魅力や伝達力、仕事に対する情熱など、つまりは人間力、ひいては影響力といったものを高めておく必要があります。
複数の会社から内定をもらい、入社する会社を選ぼうとしている学生に対して、どの会社の採用担当者も「ウチで働いたほうが良いよ」と言うはずです。そのときに影響力が強い人でなければ、迷っている学生の気持ちを動かすことはできないからです。
たとえば何人かで昼食を食べにいくとき、中華にするのか和食にするのか、イタリアンかなどと、ばらばらの意見が出れば、最も影響力のある人の意見が通ることが多いでしょう。
しかし、経験が少ない人が担当になる場合は、自分以外の影響力を持った先輩社員や社長の力をうまく活用することも大切です。
■幹部候補は人材採用の担当をさせたほうがいい
私も営業をする際、自分の人間力や影響力では説得することが難しいと感じたお客様を説得しなければならないときがあります。そんなときは、素直により影響力の強い方の力を借りることにしています。
たとえば、同じ業界でレガシードのサービスを活用していただいている企業の社長や担当の方から、レガシードのサービスを使って実際にどのような変化が起きたのかを語っていただく、などです。
ですから、自分と一緒に働く仲間や先輩社員の魅力を把握しておき、必要に応じて力を借りることも若手担当者の役割の一つです。
このことから私は、クライアントの経営者の方々には、会社で幹部にしたい人がいたら1年でも人材採用の担当者として経験をさせるといいですよと、アドバイスします。人材採用の担当を経験させると、会社への理解度も深まりますし帰属意識も強まりますが、何より人間力を高めなければならないと気づくためです。
以上、四つの確信について説明してきましたが、採用担当者には、テクニカルなスキル以上に、これらの確信を持つことのほうが大切だといえます。
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近藤 悦康(こんどう・よしやす)
レガシード社長
大学院に進学と同時に、人材教育会社に入社。営業部に配属される中、新しい新卒採用人事の仕組みを作り出し、1年間で2万人以上が応募する人気企業へと発展させた。その後独立し、人材採用と人材育成のコンサルタントを経て、2013年11月レガシードを設立。人材採用コンサルティング、社員教育・組織活性コンサルティング、学生向けキャリア教育事業などを手掛け、創業6年で応募者1万7000人企業にする。同社のユニークかつ画期的な人材採用コンサルティングの手法と採用活動が話題となり、テレビや雑誌をはじめ多数のメディアに採用の様子が取り上げられる。著書に、『伸びてる会社がやっている「新卒」を「即戦力化」する方法』(クロスメディア・パブリッシング)、『内定辞退ゼロ』(実業之日本社)などがある。
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(レガシード社長 近藤 悦康)