好印象を与える人とはどんな人か。起業家の橋本真里子さんは「いつも感情が安定している人は印象が良くなる。
イラッとすることがあっても、表情や姿勢、話し方で周囲に気づかれないようにすることが大事だ」という――。
※本稿は、橋本真里子『感情の作法』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■低い声は「怒ってる?」と思わせる
①笑声
受付時代、研修で習ったことのひとつに「笑声(えごえ)」があります。笑顔を感じさせるような、心地よい印象を与える声のことです。
いつもより低い声で話しただけなのに、「もしかして怒ってる?」と聞かれたこと、ありませんか?
私たちはイラッとした時、どうしても声のトーンが低くなってしまいます。
逆にいうと、笑声を心がけるだけで、内心イラッとしていてもバレにくくなります。
笑声を出すには、地声よりもワントーン高めの発声を意識してみてください。電話で話す声より、もう一段階高い声です。
この時、口角を引き上げると、明るい声が出やすくなります。
話す時は、口の周りの筋肉を動かし、なるべく一言一句はっきりと発音するようにすると、より効果があります。
男性の場合は、声の高さは変えずに「くり返す」を意識してみてください。たとえば相槌を打つ時に「うんうん」「たしかに、たしかに」など、2度くり返すことで柔らかく、理解してくれている印象を与えることができます。

■イラッとした時ほどゆっくり話そう
②ペース
感情が制御できない時、人はどうしても早口になってしまいます。
早口でまくし立てられると、それだけで「怒られているのかな?」と感じてしまいます。話の内容も伝わりづらくなってしまいます。
イラッとした時ほど、ゆっくりペースで話すことを心がけましょう。
目安としては、1秒間に1単語か2単語くらいです。
これが3~4単語以上になると高圧的な印象になります。自分で話しながら「ちょっとゆっくりすぎるかな?」と思うくらいがちょうどいいです。
この時のコツは、ゆっくり話し始めることです。それだけで後に続く言葉も自然とゆっくりになり、柔らかい印象を与えます。
私は普段からなるべくゆっくり話すように心がけています。
これは受付時代にある先輩に出会ったことがきっかけでした。
■話が聞き取りやすく、敵を作りにくい
仕事が忙しくみんながカリカリしている時も、その先輩は決して早口になることはなく、いつもゆっくり話をされていました。

有能な人は早口で、短時間のうちにたくさんの情報を伝える。
ゆっくり話していると「早く話して」と思われてしまうのではないか。
そんな先入観は、先輩と出会って吹き飛びました。
むしろゆっくり話す方が、話が聞き取りやすく、おっとりした印象になるので、敵を作りにくい。実際、その先輩は誰からも信頼されていました。
ゆっくり話すためには、なるべくお腹から声を出すようにすると効果的です。
お腹から声を出していると、自然に呼吸が深くなって、ゆっくり話せるようになりますし、身体全体がリラックスしていくので、怒りも逃がしやすくなります。
イラッとすると、交感神経が優位になるので、身体が緊張して呼吸が浅くなります。余計早口になりやすいので、イライラしてしまったら、まず呼吸に注意を向けるのもおすすめです。
■目が笑っていない人はやっぱり怖い
③表情
イラッとした時、能面のような表情になってしまいますよね。無表情になると、それだけで不機嫌そうな印象になります。
小さな子どもは、顔全体を使って話します。
一生懸命話している感じがして憎めない。無表情とは対極です。
無表情でいると、こちらに他意がなくても「怒っているのかな?」「機嫌が悪いのかな?」と思われてしまいます。
イラッとした時ほど、なるべく顔全体を使うことを意識してみてください。
まずは口角を上げることを意識してみてください。話す時、前歯が見えるようにすると、自然に口角も上がります。
この時口だけでなく、目も使うようにします。
たまに口角が上がっていても、目が笑っていない人がいますが、これはこわい印象を与えます。
口元と目で笑いを表現できれば完璧ですが、無理に笑わなくても、「びっくりしたな」「困ったな」などの感情を、目を見開いて表現するだけで、印象は大きく変わります。
「ごめんね」「ありがとう」と言う時も、感謝や申し訳ない気持ちを顔全体で表現する。失礼なことを言われた時は、びっくりした気持ちを顔全体で表現する。
表情筋を大きく使うことで、コミュニケーションの幅が広がっていきます。

■相手の目と手元を交互に見るのがおすすめ
でも、イラッとした時にどうしても表情筋が固まってしまう場合があります。
そんな時は、手だけでも動かしてみてください。困ったなという感じで口元に手を当てたり、頼まれごとを断る時、拝むジェスチャーをしてみたりする。
たとえ顔がうまくあやつれなくても、手を動かすだけで、ずいぶん印象が変わります。使えるものは総動員しましょう。
相手への印象を決めるのは、視覚情報が55パーセント、聴覚情報が38パーセントで、話す内容は、わずか7パーセントというデータがあります。
たとえ内心イラッとしていても、表情や話し方を変えるだけでバレずにすむものです。
④目線
話す時、目線は相手の目と手元を行き来させるのがおすすめです。
ずっと相手の目を見ながら話すと、高圧的な印象を与えてしまうことがあります。
最初のあいさつや、大切なことを伝える時は目を見るようにしますが、それ以外の時は、目を合わせてから相手の手元に目線をそっと下げます。
「相手のネクタイを見るといい」といいますが、女性の場合は胸元を見ることになってしまうので、避けた方がいいと思っています。
手元なら、見られて不快に感じる人はあまりいませんし、「こういう字を書くんだな」「爪をきれいに整えているな」というように、人となりを知ることもできます。

同性同士であれば「その指輪、かわいいですね」「ネイル変えました?」など、会話の緊張をほぐして、話すきっかけにつながることもあります。
■たとえ上司でも腕組みはやめた方がいい
⑤姿勢
姿勢は少し崩しても大丈夫です。あまりピシッとしすぎても、相手を緊張させてしまうからです。
特に職場で上下関係がある時などは、注意が必要です。上司に呼ばれて、相手の姿勢があまりにもちゃんとしていると、「何か改まった話があるのかな」とドキドキしてしまいますよね。
1on1ミーティングなども同じで、相手にどう緊張を解いてもらうかが大切です。あえてほおづえをついてリラックスした空気を作ることもあります(上司の前で肘をつくのはNGです)。
ただし上司・部下を問わず、腕組みはやめた方がいいと思います。そのつもりがなくても「えらそうな人だな」「怒っているのかな」と思われてしまうので、もったいないからです。
■話しやすい角度は「ナナメ45度」
⑥距離、位置
意外に大切なのは、相手と話す時の角度です。
自分が話しかけた時、相手が向き合ってくれると「ちゃんと聞いてくれようとしているな」と感じますよね。
小さな子どもと話す時、かがんで視線を合わせることがありますが、同じ目線で向き合うことは、心理的安全性を与えるものです。

逆に、こちらが話しかけているのに、振り向きもせず作業を続けているような人には、不信感を持ってしまいます。
きちんと振り返って、相手と向き合うことは、それだけで信頼関係につながります。
私が心がけているのはナナメ45度です。ナナメ45度が「話しやすい人」の印象を作ります。
オフィスで話しかける時は、相手の真後ろではなく、ナナメ45度くらいから声をかけます。
特にデスクワークの場合、真後ろから声をかけられると「PC画面を見られていた?」とドキッとするものです。機密性の高いやりとりをしているかもしれないし、同僚とチャットしているかもしれません。
ナナメ45度はPC画面の内容は見えず、ちょっと振り返れば目が合うくらいの角度です。
話しかけられた時も、デスクから45度くらい振り返って相手と向き合います。
これが30度くらいだと「忙しくて手が離せないのに」と思われているように感じますし、かといって真正面から向き合うと、ちょっと圧が強く感じられます。
相手との距離は、ナナメ45度で向き合って、手を伸ばして当たらないくらいが目安です。これ以上遠ざかると、ちょっと距離感がありますし、あまり近づくと圧迫感を与えてしまいます。
■相槌は多すぎるくらいがちょうどいい
⑦相槌
相手と話す時は、なるべく相槌を入れるように意識しています。ちょっと多すぎるかな? というくらいが実はちょうどいいものです。
上司なら「はい」「ええ」、同僚なら「うん、うん」「そうそう」などと相槌を打ちます。「はい」は1度まで、といいますが、相槌の場合は、少し多くなってもいいのではないかと思います。
相槌だけでなく、合いの手もよく使います。
「そうなんだ」

「大変でしたね」

「さすがですね」

「それでどうなったの?」

「良かった」
大きくうなずくのもいいと思います。
大切なのは、「この人は、ちゃんと聞いてくれているな」と相手が思ってくれるかどうかです。きちんと聞いている様子を示すだけでも、安定した態度を取っていると思ってもらいやすくなります。
話し方だけでなく、聞き方に気をつけることも、相手からの印象を良くすることにつながります。

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橋本 真里子(はしもと・まりこ)

起業家

1981年三重県生まれ。トランスコスモス、USEN、ミクシィ、GMOインターネットなど、複数の上場企業にて受付として勤務。11年間で、のべ120万人以上の来訪者対応を経験する中で、現場の非効率に課題を感じ、2016年にディライテッド株式会社(現・株式会社RECEPTIONIST)を設立。来客対応のデジタル化を推進するクラウド受付システム「RECEPTIONIST」は、現在では年間400万人が利用。業界売上シェアNo.1を獲得し、導入企業を拡大している。

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(起業家 橋本 真里子)
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