※本稿は、高橋まき『中学英語でけっこう話せます。』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■英語が片言でも、相手と通じ合える
最近、YouTubeなどで、アフリカやアメリカを人力車や自転車一台で横断している日本人の若者の映像を見ました。片言の英語ながらも、必要なコミュニケーションはちゃんと取られていました。
笑顔と「アメリカ大陸横断中・アフリカ大陸横断中」というサイン(ノンバーバル)だけで、地元の方達と温かく交流されています。食料や飲み物、お金をもらったり、家の庭でキャンプさせてもらったり、シャワーを借りたりされていました。
「目は口ほどにものを言う」ということわざもあるように、目を大きく見開くだけで驚きを表現できたり、まなじりを下げてにっこり笑顔で嬉しい気持ちを表現できたり、あるいは眉間にしわを寄せてちょっとだけ難色を示してみたり。ノンバーバルコミュニケーションというのは、言葉よりも強烈にメッセージを伝えられる場合すらあるのです。
■リアル英会話の「最強のきっかけ」
私も日本の漫画『北斗の拳』の登場人物の名前をただ言い合うだけで、イタリア人旅行者と話が弾んだ思い出があります(漫画を知らない方、すみません!)。作中に出てくる主人公のお兄さん「トキ」の名前を私が忘れてしまったら、イタリア人旅行者さんが“Toki!”と教えてくれて、電車内で大笑いでした。そもそも『北斗の拳』自体がHokuto no Kenで通じました。日本の漫画、アニメ恐るべし。
会話の始まりは、何だっていいのです。外国人がおそらくその人が好きであろう日本のアニメのTシャツなどを着ていたら、Hello. Do you like“Demon Slayer”?(こんにちは。『鬼滅の刃』がお好きなんですか?)と聞いてあげると、うれしがってYeeees!(そうなんです~!)などと反応してくれるでしょう。『鬼滅の刃』は海外ではDemon Slayerというタイトルで流通しています。
また、英語話者ではありませんが、サッカー好きの日本人男性に聞いた話です。日本の銭湯で「ブラジルのサッカーチームの一団」と一緒になったそうで、サッカーボールを蹴る真似をしたり、好きなサッカー選手の名前を言い合うだけで、大盛り上がり。楽しく交流できたというお話もうかがっています。母国語以外に英語を話す人は世界中にいるので、少しでも英語を使えるとコミュニケーションが進むのです。
■ジェスチャーを使うのは子どもっぽい?
もうひとつ、日本人が持ちがちなのは、「正解はひとつで、それ以外は誤り」という考えです。
本当は英語での言い方は複数あっていいのです。「英語が話せる」というとなぜか「スラスラと完璧な英語で答える」というイメージを持ってしまいがちです。
そしてそれ以外は、例えば、ジェスチャーを使うことなどは、「赤ちゃんぽい」「子供っぽい」「大人にふさわしくない」「だから恥ずかしい」「使いたくない」と思われている節もあります。
果たしてそうなのでしょうか。私がアメリカのコミュニケーション大学院で学んだコミュニケーションの定義は、「ふたり・団体の間でのメッセージのやり取り」でした。
ここに「必ずしも言葉だけを使ってしなければならない」とは書いていないのです。言葉で行えばVerbal Communication(言葉によるコミュニケーション)、言葉以外で行えばNon-verbal Communication(言葉以外によるコミュニケーション)となるだけです。
■「相手にとってわかりやすい」が最重要
コミュニケーション学というのは、じつはアメリカ発祥です。なので、日本よりもアメリカで知られています。メディアに就職するのも、アメリカではコミュニケーション学科出身者が多いです。
私がコミュニケーション大学院にいた時も、ジャーナリズムやマスコミニュケーション関連のクラスがありました。地元のテレビ局のレポーターさんも学生として在籍されていたことがあり、大きな声で意見をまとめて言う様子を感心しながら見ていました。
彼らを見ていて感じたのは、コミュニケーションの本質です。つまり、最優先にすべきは「相手がわかりやすいように伝える」その1点のみだということ。そこでは誰もが、専門的な単語を使って流暢にスラスラ話すことよりも、身振り手振りを使ってでも相手にわかりやすく伝えようとしていました。
このように、ジェスチャーを取り入れるとコミュニケーションがしやすくなります。しかし、相手に誤解されたり、相手を不快な気持ちにさせたりすることもまれにあるのです。
例を挙げましょう。日本では「大丈夫!」「それでいい」などを表す意味で、手でOKサインをしますね。人さし指と親指で円を作って、他の指は立てる、というあれです。フランスやブラジルをはじめいくつかの国では、このサインは相手を侮辱する失礼な意味になるそうです。ですので、このサインではなく、親指を一本立てるサインのほうが海外では無難です。
■「こっち来て」が「あっち行け」に
また、アメリカと日本でのカルチャーギャップでよく誤解が生まれるハンドサインがあります。
「こっち、こっち」「こっちに来てください」と伝える時に、親指以外の4本指のクイクイッと動かす「手招きサイン」が日本にはあります。
しかしあれは、アメリカに行くと真逆の意味になります。つまり、「あっちに行け」という侮辱的な意味になるのです。
アメリカの手招きサインは、手のひらを空に向けた状態で4本の指をクイクイッと動かします。
■「Yes」で首を左右に振る国もある
同じジェスチャーの意味が正反対になる例は、まだまだ世界中に存在しています。
日本では同意する時、首を「縦に」振り、反対なら「横に」振ります。しかし、ブルガリアではこれらが逆になります。同意は首を「横に」振り、反対なら「縦に」振ります。かの地のレストランの動画で、ウェイトレスさんがそうされているのを見ました。
またインド人は、Yesの意味で、独特のやり方で頭を左右に複数回、振ることがあります。これも首を横に振っているようで、日本人はNoの意味だと勘違いしやすいです。
ほかにも日本人がよくやる「手のひらを見せて手を振る」バイバイのジェスチャーが、ギリシャの人にとっては、侮辱的な意味になるのだとか。あるいは若い子がやっている手の甲を相手に見せる「裏ピース」は、イギリスやオーストラリアなどでは、かなり失礼な侮辱のポーズになるのだとか。
ジャスチャーでのコミュニケーションの行き違いを避けるために、どうしたらいいでしょう。
あらかじめ、どの国の人と話すかわかっていれば、ネット検索などして、どんなジェスチャーが失礼なのか調べておくのもいい方法です。大使館に電話して聞くのもいいかもしれません。
■日本人とアメリカ先住民に共通するマナー
また相手のしたジェスチャーの意味がわからない時には、聞いてしまってもいいと思います。「すみませんが、それはどんな意味ですか。」“Sorry? What do you mean by XX?(XXのジェスチャーをする)”で聞けます。
初めて聞いた時は驚いたのですが、日本の習慣と似たような所もあります。アメリカの先住民のナバホ族の方達は、人に向かって指差すのは失礼だということで、しないそうです。似ていますね。
それを教えてくれたナバホ語ができるアメリカ人の友人曰く、人を指したい時は、顔であごをしゃくるようにして、指したい人のほうに視線を誘導するそうです。「ほら、あの人。」と知らせたいならば、その人のほうに向かってあごを上げるそうです。面白いですね。
■「大統領みたいなジェスチャー」の落とし穴
皆さんは外国人の前で、英語で長めに話されることは、あるでしょうか。そういった機会はまったくない、という方もいらっしゃると思いますので、ここでは短めに注意点をお伝えします。
オバマさんやトランプさんといった大統領のスピーチでも有名になりましたが、欧米ではプレゼンの際に小さな身振り手振りのジェスチャーを加えることがあります。
だからと言って、英語で話す時はアメリカ式を目指して必ずジェスチャーをつけなくてはいけない、と思われているとしたら、それは誤りです。話す内容をよりよく伝えるために必要だと思われるならジェスチャーを加えてもいいのですが、絶対ではありません。
ビジネスパーソンの生徒さんに時々見かけるケースで、英語になると、途端に大げさなジェスチャーをたくさん始める方がいらっしゃいます。もしかしたら、「英語の時にはジェスチャーは必須」と習われたのかなと思います。
じつは一般にアメリカのビジネスシーンでは、あまり大げさなジェスチャーをし続けると、「子どもっぽい」と見られる傾向があります。手を広げるなら、肩幅まで、と言う方もいます。手を動かし過ぎると、そちらに目が奪われ、話の内容に聴衆が耳を傾けなくなりがちだからです。そのような過剰なジェスチャーは逆効果なのです。
ですから、ジェスチャー+英単語のコミュニケーション方法は有効ですが、ジェスチャーを大げさにされなくてもいいので、その点はお気をつけください。的確なジェスチャーを心がければよいのです。
----------
高橋 まき(たかはし・まき)
英語講師
同時・逐次通訳者、英検1級、通訳案内士、TOEIC980、TOEFL iBT114/120、IELTS 8/9。アメリカの大学で日本語を教える教師として5年間活動。ケンタッキー大学で博士号を取得した後、スピーチとコミュニケーション論の講師としてもネイティブにプレゼンなどの「話し方」を2年間教える。ケンタッキー州のリベラルアーツ大学であるセンターカレッジで日本語学科の学科長も務めたあと、9・11テロの影響で帰国。英語でつまずいた自身の経験をもとに大手英会話学校や研修所の講師として14年間、4000人以上の日本人に英語を教える。
----------
(英語講師 高橋 まき)