資産を増やすにはどうすればいいのか。個人投資家の天海源一郎さんは「有事やインフレのリスクに強い投資先を組み込むことが大切だ。
金の現物を積み立てるのも悪くはないが、もっと合理的な方法がある」という――。
※本稿は、天海源一郎『株と金の大投資術』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■「金投資=金の延べ棒」ではない
金に限らず先物投資とは、目の前の価格で売買するのではなく、先々の価格を予想し、その価格で買う(売る)「権利」を売買すること。ほとんどの場合、個人投資家は期限(=限月(げんげつ))が来るまでに権利を手放し、差額による利益を得ることになります。
金の先物投資に関しては、国内の業者だと元金に対してレバレッジ(元金を担保に大きな金額で売買する時の倍率)30~40倍の取引が可能ですが、最大で半年間のうちに取引を終了する必要があるので、「投資」ではなく「投機」的な取引と言えます。
金価格は本来ゆっくりとした値動きですから、あまり投資の経験や知識がないうちに、あえて金先物に投資をすることには慎重になりたいです。
さて、「金の現物投資」についてお話しします。金の現物投資とは、金地金などを直接買うことです。どちらかと言うと、「金に投資する」ことを考えた時、最もイメージと合致するのが、この「現物投資」ではないでしょうか。
金を取り扱う業者の中には、実際に金地金(金の延べ棒/インゴット)に触れることができる店舗もあります。もちろん私も、金地金を手に持ったことがあります。大きさに比べ驚くほど重く、さらに妖しく輝くその魅力を肌で感じました。
1キログラムのインゴットは、現在の価格に換算して1700万円ほど(8月20日時点)です。金はこれまで、多くの人を魅了したものですが、実際に持ってみると、取りつかれそうになる気持ちも理解できます。
■「現物」につきまとう保管リスク
金の現物は1グラムから購入することができます。少量の購入には、地金のほかに金貨(コイン)もあります。ただ、金の現物を自宅で保管していると盗難や紛失の恐れもあるため、セキュリティにやや手間がかかります。銀行の貸金庫を利用する手もありますが、やはり手間がかかることには変わりありません。
いまは、金地金を、インターネットで購入し、販売業者の保管サービスを利用することが可能なので、自宅に適切な保管場所がなくても、安心して金を保有できるでしょう。業者によっては保管料がかかりますが、盗難や紛失のリスクはなくなります。
金の現物を購入する時に注意したいのは、まず地金や宝飾品の形で購入する際には消費税がかかること。また、売却して利益が出た場合は、所得税などの税金もかかります(保有の形態によってかかる税金の種類は変わります)。
■純金積立には“手数料”がかかる
ここまで説明すると、「で、どこで購入すればいいの?」という質問が飛んでくるかもしれません。株の場合は、「ネット証券大手なら、どこでもOK」と答えましたが、金についても答えは同じです。
「田中貴金属や三菱マテリアルなどの金を取り扱う大手企業ならOK」でしょう。
また、金の購入については、少しずつ金を積み立てる「純金積立サービス」を利用するのも一手。いま流行(はや)りの「つみたてNISA」と似たようなもので、毎月一定金額を金に投資するサービスです。こちらも保管場所は必要なく、前述の田中貴金属や三菱マテリアルでは、毎月3000円から積み立てることができます。
ただし、純金積立には「積立手数料」がかかるほか、積み立てた金(5グラム単位)を引き出す際にも別途手数料が必要です。株の世界では1999年の金融ビッグバン(金融・証券市場の改革)以降、証券会社の手数料引き下げ競争やサービスの拡充が行われてきました。
一方、金の投資にはいまだにさまざまな手数料がかかります。これも、金への投資を短期ではなく、長期的な視点で行う理由の一つです。
■“金庫で保管”は時代遅れ
金は、世界中で共通の価値を持つ資産として、多くの人々を魅了し続けています。仮に、“経験したことがない大きな危機”が発生し、国を捨て海外に逃げなければならない事態に陥ったとします。そのような時に、通貨が価値を維持できるかどうかは不明です。ただの紙切れになる可能性がないとは言えないのです。

しかし、金は世界中どこでも等しい価値で換金することができるでしょう(もっとも、この仮説は極端であるものの)。金地金やコイン、あるいはネックレスや指輪のような宝飾品でも同様に換金できるでしょう。
世界共通の価値を持つもの。それが金の現物です。金現物への投資は確かに魅力的です。とはいえ、保管や売買にかかる手間、手数料などを考えると、金現物への投資には積極的になれないと考える人もいるでしょう。むしろ、そう考える人のほうが多いかもしれません。
しかし、家の金庫で金地金を保管するのは昭和の時代まで。令和(正確には、金ETFが初めて東証に上場した平成20年)の世の中では時代遅れと言えるかもしれません。というのも、いまはインターネット取引で「金ETF」を買うことができるからです。
■管理コストが不要で、盗難紛失リスクもない
ETFは「上場している投資信託」のことで、金価格に連動して価格が上下し、株の個別銘柄と同様、証券会社のサイトやトレードツールを使って売買することができます。つまり、「金ETF」も株の個別銘柄と同じように売ったり買ったりすることができるということ。
保管料はかからず、売買手数料も証券会社の委託手数料に準じていますので、証券会社によっては手数料ゼロで売買することも可能です。
さらに、実際に金の現物を保有するわけではないため、管理コストも不要なうえ、もちろん盗難や紛失のリスクもありません。金ETFの値動きをリアルタイムで見ながら取引できるのもメリットと言えるでしょう。デメリットと言えば、株式のETFと違い配当が付かない(そもそも金投資に配当はありません)ことや、現物を引き出すことができないため、直接金に触れることができないことくらいでしょう。
先ほど紹介した金の先物取引に比べると、元金に対して大きなレバレッジをかけることはできませんが、個別銘柄と同じなので、信用取引(現金や口座に預けている株券を担保に証券会社からお金を借りて投資する手法。最大で元金の3倍超の取引が可能)を活用することもできます。
■東証に上場している4種類の「金ETF」
金投資のメリットは、「有事の金」と呼ばれるように、戦争やインフレなどのリスクに強いことです。金ETFへの投資は、実際の金の輝きを目にできないことを除けば、金投資のメリットを十分に受けることができます。
現在、東証に上場している金ETFは以下の4銘柄です。
▽SPDRゴールド・シェア(1326・東証ETF)

▽NEXT FUNDS 金価格連動型上場投信(1328・東証ETF)

▽純金上場信託(現物国内保管型、1540・東証ETF)

▽Wisdom Tree 金上場投資信託(1672・東証ETF)
ほかにも、関連銘柄として金鉱株や海外の金ETFなども挙げられますが、ここでは東証に上場している銘柄のみを取り上げます。
前記4銘柄のどれを買っても大きな問題はありませんが、流動性(日々の出来高)が高く、ドル建てで、ロンドンの金現物の価格に連動する「SPDRゴールド・シェア」がベターでしょう。このETFは世界の主要市場に上場していて、世界中の投資家が売買する「世界最大の金ETF」。
ETFの発行額に応じた金の現物を保有しているので、信用力も十分です。
もちろん、野村證券の「NEXT FUNDS」シリーズや、三菱UFJ信託銀行が管理する「純金上場信託」に不安があると言っているわけではありませんが、流動性その他を総合的に考えると、「SPDRゴールド・シェア」に目がいきます。
■「金ETF」が主流になっていく
ちなみに、前記4銘柄の中で「純金上場信託」のみ、金の現物との交換が可能です(SPDRゴールド・シェアは、米国内では金現物との交換が可能ですが、日本では不可)。
もし、金に長期的に投資を続け、ある程度まとまった規模になった時、金の延べ棒に頬ずりしたいという願望があるなら、純金上場信託を買うのもいいでしょう。
もっとも、金への投資を考える人の大半は、普遍的で世界共通の価値を持つことに魅力を感じると同時に、「金価格は今後も上がりそうだから」との理由があるのではありませんか?
持っている金の延べ棒をアタッシェケースに詰め込み、慌てて海外に逃亡することをイメージして買う人は、おそらく日本人にはいないはずです(もしかしたら、海外の資産家にはそのような想定をする人がいるかもしれませんが)。そうであるなら、金の現物を保有する必要はないでしょう。ネット環境さえあれば、毎日、どこにいても売買できる金ETFが、お手軽と言えるのです。金投資は、ますます「金ETF」が主流になっていくでしょう。

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天海 源一郎(てんかい・げんいちろう)

株式評論家、個人投資家

1968年大阪市生まれ。関西大学卒業後、ラジオたんぱ(現・ラジオNIKKEI)入社。東京証券取引所記者クラブ記者、番組ディレクターなどを経て2004年独立。個人投資家に向けた執筆活動・動画出演・セミナー活動を各種メディアで行う。


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(株式評論家、個人投資家 天海 源一郎)
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