仕事が早く定時で帰れる人は、何が違うのか。『パッと見てわかる! 仕事がうまく回り出す時間術のきほん』(ナツメ社)を監修した平野友朗さんは、「仕事に優先順位をつけるのはおすすめできない。
順番に迷っている時間が無駄になってしまう。効率的に進めるためにはタスクをどう整理するかに鍵がある」という――。
■優先順位よりも「期限」を決める
「仕事は優先順位の高いものからやりなさい」と言われ、こう思ったことはありませんか。「この仕事より、別の仕事のほうを先にすべきではないのか」。
優先順位をつけるためには基準が必要です。しかし、何をもって優先するのか、誰にとっての優先なのか、考慮すべきことが多くて1つの答えに絞り切れません。じつは、仕事の優先順位をつけることは難しいことなのです。
仮にがんばって優先順位をつけたとしても、仕事はすべて完了させなければなりません。優先順位の高いものだけやって、あとは「できませんでした」というのはビジネスの現場では通用しないでしょう。
仕事を進めるうえで重要なのは「期限」です。同時に、求められる「質」も維持できるよう行動します。期限が守られ、求められている質が足りていれば、どの順番で仕事をしてもかまいません。
優先順位を悩む時間があるなら、今すぐ処理できるタスクに取りかかったほうが生産的です。
■タスクは4種類に分けて考える
仕事は優先順位よりも期限と質を基準にして進めるべきです。しかし、そうは言っても、期限が迫っていれば、その仕事からやらざるを得ないでしょう。
そこで、図表1のように仕事を「緊急」か「緊急ではない」か、「重要」か「重要ではない」かのマトリックスで考えてみましょう。この分類のうち、もっとも急いでする必要があるのは「緊急で重要」なタスクです。いつも仕事に追われている人のほとんどは、この「緊急で重要」なタスクをたくさん抱えています。
この状況を改善するには、なぜ「緊急で重要」なタスクが増えてしまったのかを考える必要があります。重要なものをつい後回しにしていませんか。「緊急ではないが重要」なタスクは、放っておくと「緊急で重要」へと変わり、どんどんたまっていくのです。
理想は、「緊急で重要」のタスクが発生しないように先回りして、9割程度を「緊急ではないが重要」の段階で処理すること。そうすると心身ともに余裕が生まれ、緊急事態が発生しても対応しやすくなります。
■「何のためにやっているのか」自問する
効率よく働くために、避けて通れないのが「ムダをなくす」ことです。
ムダとは、意味がないのに形だけ続けていることや、本来の目的に合わないこと、必要がないこと、AからBへの最短距離を阻んでいること……など。
当たり前だと思っている日常を検証すると、思っている以上にムダが見つかります。ムダに気づく目を養うには、日ごろから「何のために?」と自問することが大切です。何となく続けていることに、一度目を向けてみましょう。たとえば「この仕様を採用する」と決められていることでも、何のために採用されたのかを考えてみてください。
そして、「もっとよくするにはどうしたらいいか」を考えます。つねに改善の余地を探っていくことが、ムダを見つける目を養うことにつながります。
ミスをしてお詫びすることも、ムダの1つです。お詫びには時間も労力も要しますが、本来はミスがなければ必要のなかったことです。お詫びするような事態を招かないようにすることも、ムダを省くことになります。
■“合理化”は双方にメリット
「ムダを省き、合理化する」という言葉に、冷たい印象を受ける人もいるようですが、じつは巡り巡ってみんなの幸せにつながります。ムダを省いていくと、時間に余裕が生まれます。
すると「緊急ではないが重要」なタスクに取りかかれる時間ができます。つまり、「緊急で重要」なタスクになる前に消化できます。
自分は早く帰れるし、相手も時間に追われなくて済みます。また、自分がムダを省くことで、誰かの手間が減ることにつながります。たとえば、書類を承認するまでのチェック回数を減らすことで、案件にすぐに取りかかれたら、携わる人の時間は増えるでしょう。ムダを省くことをポジティブな気持ちで実践してみてください。
【最適解を求めない】

状況によって、いちばんよい方法も変わるものです。「最適解はこれ!」と決めつけず、ほかにも選択肢がないか考えましょう。
【「よさそう」と思ったらまず行動してみる】

「よさそう」と思ったことは、ためらわず実行しましょう。失敗しても、それは学びとなり、次に生かすことができます。
【その行動がムダかどうかはその人の価値観でも変わる】

「楽しみ」「喜び」といったポジティブな感情がともなう行動はムダとは言えません。「ムダ=合理的でないこと」とは限らないのです。


■仕事が進まないのは“デスクまわり”が原因
「さあ、仕事をはじめるぞ!」
気合いを入れてデスクに座ったとたん、パソコン画面にメールがポップアップ表示される。このメールはあとで読もうと思っているうちに、デスクに積み上げていた書類が落ちて、またもや集中力を削がれる。
さあ、気を取り直して仕事、仕事! しかし、今度は卓上カレンダーが気になり、1週間後の出張が気になって仕方ない。「ここは△△牛が有名だったな!」「宿泊先のホテル、どこだったかな」「お土産は何がいいかな」……とりとめもなくいろいろな考えが浮かんできて、もう仕事どころではありません。気づけば、目の前のタスクからモノに思考を奪われています。
このように無意識に反応してしまうのは、誰にでもあることです。しかし、この無意識の「ちょっと気になる」が積み重なると、作業効率は大幅に低下します。自分が頻繁に「気になる」で作業を中断させていないか、振り返ってみましょう。
■ふせんは集中力を奪う
人は同時に2つのことを考えることはできません。反応してしまう刺激があると、ついそちらに思考を引っ張られてしまうのは自然なことです。目の前の仕事に集中するには、反応してしまうモノを減らすこと。今取り組んでいる仕事以外のモノはできるだけ目につくところに置かないようにします。

デスクの上に山のような書類を置いていても、その仕事で役立つモノでなければ邪魔なだけです。片づけてデスクの上をスッキリさせたほうが、気持ちもよく集中力も高まります。
パソコンまわりに貼ったふせんも、その情報が今必要でなければ、かえって集中力を奪います。それに、ふせんはいつの間にかはがれてなくなりやすいものです。気が散るモノはしまいましょう。デスクの上はモニターとキーボード、マウス、引き出しのなかには名刺入れと文房具といった最小限のモノにとどめます。
このほかに置いても雑念が浮かばず、やる気だけが出るモノなら、デスクまわりに置いても問題ありません。
■書類の「必要」「不要」はその日に決める
自分が管理するモノは少なくしましょう。モノが多いと、必要なときに必要なモノが見つからない、探すのにムダな時間がかかる、雑然としていることがストレスになる、管理できていないさまを見て自己嫌悪に陥る……といったデメリットが生じるからです。日ごろから、意識してモノを減らすことを心がけます。
仕事現場でたまりがちなのは、紙の書類です。会議や打ち合わせの資料、その際にとったメモ、新企画などのために集めた参考資料などさまざまなモノがあるでしょう。
こまめに処分しないと、あっという間に増えます。
特にメモ類は、その日のうちに要るか、要らないかを判断しましょう。その日のうちにおこなうのは、時間が経つと内容や重要な点がわからなくなるからです。不要なメモは、潔く捨てます。情報漏洩が心配なモノは、シュレッダーにかけます。残しておいた必要なメモは、定期的に見直し、不要になったら処分するようにしてください。
■「いつか使うストック」は捨てる
モノが増えると保管する場所(ストックスペース)が増えます。モノの量に合わせて、ストックスペースを大きくすると、さらにモノが増えるという悪循環に陥ります。大きな家に引っ越したら、モノが増えるのと同じ原理です。
反対に、ストックスペースを制限することで、管理するモノを自然と減らすことができます。「ストックスペースが足りない」と感じたら、それはモノがあふれているサインです。次のような問いかけで、ストックしているモノを見直しましょう。
「何に使うの?」

「いつからあるの?」
用途がわからないモノは、結局、使われることがありません。また、使われずに放置されていたモノは、使う必要がなかったという証拠です。「いつか使うかもしれない」モノが、実際に使われる可能性は、ほぼありません。ストックは使うモノだけと考えて、それ以外は捨てるようにしましょう。

----------

平野 友朗(ひらの・ともあき)

アイ・コミュニケーション代表取締役、日本ビジネスメール協会代表理事

1974年北海道生まれ。筑波大学卒業後、広告代理店に勤務。2003年日本で唯一のメルマガ専門コンサルタントとして独立し、翌年、株式会社アイ・コミュニケーション設立。メールの効率化や時間管理など、業務改善・生産性を向上させる講演会やセミナー、コンサルティングをおこなう。著書に『ビジネスパーソン10,000人の「失敗例」を分析したら、「感じよく正確に伝わるメール」の書き方がわかった!』(Gakken)、『仕事ができる人は実践している!ビジネスメール最速時短術』(日経BP)、『仕事を高速化する「時間割」の作り方』(プレジデント社)など。

----------

(アイ・コミュニケーション代表取締役、日本ビジネスメール協会代表理事 平野 友朗)
編集部おすすめ