韓国の賃金水準は日本より高いとされる。実際、韓国の経済はどんな状況なのか。
韓国生まれの作家シンシアリーさんは「経済成長率0%台の予想が出るくらい景気は悪い。大企業と中小企業の所得格差は大きく、借金のせいで使える金がないという人も多い」という――。
※本稿は、シンシアリー『韓国リベラルの暴走』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■景気が悪いのに「日本より賃金が高い」?
最近、韓国では賃金が日本より高くなったという趣旨のデータが話題になっています。1人あたりGDPで日本より高くなったとか、大企業平均賃金で日本より高くなったとか、そんな話です。
しかし、韓国経済そのものはとてつもない不況で、個人回生(個人破産の一つで、日本の「個人再生」と似ている制度)が急増したとか、自営業者の廃業が年100万人を超えているとか、そんなニュースで溢れています。
なぜでしょうか。実際に韓国を訪れた方なら観光地以外、いや「観光地でも」、あまり活気がないと感じる方が多いでしょう。
2025年5月、毎年の親の墓参りのために韓国を訪れたときのことです。日本への「帰国」(この単語を書くたびに神様に感謝しています)の日、去年までは予約なしでも乗ることが出来た空港バスが、完全予約制になったとのことで、仕方なくタクシーに乗って空港へ向かいました。
タクシーの運転手の方とずいぶんいろいろ話しましたが、「こんなに景気が悪いのは本当に初めてです」とのことでした。そして、「早く大選(大統領選挙)が終わらないと……」とも。

■どちらが大統領になっても未来はない
興味深いのは、いつもは「今回の大統領選挙で○○さんが勝てばいいのに」と言うはずなのに、「大統領選挙が終わればいいのに」というふうに話していたことです。韓国人は政治の話が好きで、政治とは無関係の会話でも、いつのまにか政治の話になっていたりします。その際、「○○が勝たなければならない」というふうによく話します。
すごく喧嘩になりやすいテーマですが、支持者としてのなにかの責任感のようなものでしょうか。よくこんな話になります。それが今回は、「終わればいい」という話になっているのが、面白いと思いました。ひょっとすると、これといって支持する候補がいないのでしょうか。とりあえず選挙が終わって、誰が勝ってもいいから経済関連政策を打ち出してほしい、という心理なのでしょうか。
そういえば前回の大統領選挙で尹錫悦候補と李在明候補が競ったときも、「エイリアン対プレデター(映画『AVP』の韓国タイトル)」という皮肉がネットでヒットしたりしました。その映画の宣伝フレーズが、「どちらが勝っても、人類に未来はない」でした(日本では「勝手に戦え」)。どちらが大統領になっても、いいことはないという皮肉として、そのフレーズがぴったりだったわけです。
■「韓国が日本に勝った」のカラクリ
実際、まわりを見てみてもあまり元気がない、そんな韓国経済でした。
成長率予想も良くて1%台、機関によっては0%台の予想が出るようになりました。「4%成長が最低限」と呼ばれていた時期もありますが、もう時代が変わったのでしょう。
「日本に勝った、日本に勝った」としていながら、なぜそんな状況にあるのでしょう。いろいろ理由はあります。たとえば、1人あたりのGDPや賃金は、まず為替レートによる影響が大きい。円キャリートレードだのなんだのと、為替レート関連で難しい用語をニュースで見るようになって、もう久しいです。
GDP順位でもドイツに抜かれたなど、そんなニュースがありましたが、当時のドイツの経済はむちゃくちゃで(2025年の今、再建計画を本格化していると聞きます)、マイナス成長の真っ最中でしたから、数値とはそんなものでしょう。
■大企業と中小企業の所得格差が大きい
そして、韓国社会の格差問題(大企業による雇用が少なく、大企業と中小企業の賃金格差が大きい)も考える必要があります。日本でも大企業と中小企業の賃金格差が問題になっていますが、その差は、「大企業を100とした場合の賃金格差は、中企業が約85~90、小企業が約80」となっています。
一方、韓国の場合は、『ハンギョレ新聞(日本語版)』の2024年11月11日の「若者が就きたがる仕事がなければ韓国の未来もない(2)」という記事によると、「大企業の労働者の平均所得は、中小企業労働者の2.1倍、20代は1.6倍、40代は2.2倍、50代になると2.4倍に広がる」とのことです。
また、韓国は大企業による雇用創出が他国に比べて低いことで有名です。韓国では雇用300人以上を大企業、OECD(経済協力開発機構)は250人以上を大企業としますが、OECD基準で、その国の雇用において大企業雇用の比率は、OECD平均32.2%、日本40.9%、ドイツ41.1%、フランス47.2%、米国57.6%などです。

国の経済構造の特性によっても異なるでしょうけど、構造が日本と似ているとされる韓国の場合は、13.9%でした(『中央日報』2024年2月27日「韓国大企業働き口、OECD最低~」より)。
■「借金が所得の1.7倍」という衝撃ニュース
2025年6月16 日、韓国の地上波放送『SBS』が「借金のせいで使える金がない、借金が所得の1.7倍」と、「所得対比家計負債比率」というものを取り上げました。
各世帯の所得から義務的に払わないといけないもの(たとえば税金など)を除外して、「実際に使える所得」を集計し、それと「家計債務(その人が背負っているローンなど)」の比率がどうなっているのかを調べたデータです。たとえば、実際に使える所得が100円で、背負っている家計負債が120円なら、120%になります。
一般的にこの数値(%)が大きいと、表面的には所得が多くても、実際に使える金額は少ないという意味になります。もちろん、平均値なので、家計債務というものがない世帯も全部含まれています。
韓国の人口は約5100万人、経済活動参加人口は約2800万~2900万人で、「家計債務がある」と分類される人は約1900万人~2000万人(時期によります)とされます。
家計負債がない人たちからすると、別世界の話でしかなく「人それぞれ」といったところでしょうけれど、一般的な意味としては、数値が高いほど「所得が高いけど使える分が少ない」とされます。
■福祉国家の間に入る「ワースト6位」
SBSの報道によると、この「実際の所得に対する家計負債の割合」は、韓国銀行が相次いで金利を引き下げているにもかかわらず、2024年末で174.7%でした。また、基準が違うので数値は変わりますが、OECDも似たような集計をしているので、そちらで他国と比べてみることもできます。
OECD統計上、2023年末の韓国の所得に対する家計負債比率は186.5%(暫定値)でした。これより比率の高い国は全32カ国のうちスイス(224.4%)、オランダ(220.3%)、オーストラリア(216.7%)、デンマーク(212.5%)ルクセンブルク(204.4%)など5カ国に過ぎません。
つまり、ワースト6位です。
しかも、それらの国は福祉など社会システムが安全なことで有名な国ばかりで、その点を加味すれば韓国とはかなり差があります。
■借金による経済成長はいつまで続くのか
日本は124.7%で、スーパーリッチが多いためか意外と少ないのが米国(103.4%)、ドイツ(89.0%)、イギリス(137.1%)、フランス(121.4%)、イタリア(82.0%)などです。こうした数字をもとに、SBSはいわゆる「主要国」よりも韓国の人たちは「所得の多くの分」を借金返済に使っていると指摘しています。
このようないくつかの問題を考えると、1人あたりGDPで日本に勝ったなどというのは、統計のマジックというか、どの側面をどう見るかで判断が変わる……そういったところでしょう。
もちろん、韓国の経済成長を全否定するつもりはありませんが、借金で成長した経済なのは間違いありません。その借金のほとんどが不動産投資に向かい、それがGDPを引き上げる原動力となりました。今回、大規模の徳政令が行われたとしても、このシステムをいつまでも続けられるのでしょうか。
李政権はどこを目指していくのか、これまで述べてきた彼のバックグラウンドを踏まえて皆さんはどう思われますか?
「結果、よくなるならば問題ない」と繰り返してきましたが、不安は募るばかりです。

----------

シンシアリー(しんしありー)

著作家

1970年代、韓国生まれ、韓国育ち。歯科医院を休業し、2017年春より日本へ移住。アメリカの行政学者アレイン・アイルランドが1926年に発表した「The New Korea」に書かれた、韓国が声高に叫ぶ「人類史上最悪の植民地支配」とはおよそかけ離れた日韓併合の真実を世に知らしめるために始めた、韓国の反日思想への皮肉を綴った日記「シンシアリーのブログ」は1日10万PVを超え、日本人に愛読されている。
著書に『韓国人による恥韓論』、『なぜ日本の「ご飯」は美味しいのか』、『人を楽にしてくれる国・日本』(以上、扶桑社新書)、『朴槿恵と亡国の民』、『今、韓国で起こっていること』(以上、扶桑社)など。

----------

(著作家 シンシアリー)
編集部おすすめ