寝ている間に夫や彼氏の顔を撮影し、過去の交際相手からの評価を検索できる――全米でダウンロード数1位となった女性専用アプリ「Tea」が物議を醸している。まるでレストランを格付けするレビューサイトのように、男性への評価を実名や顔写真付きで公開。
怪しい男性とのデートを避け女性の安全を向上するが、男性にとっては深刻なプライバシーの侵害だとして猛烈な反発が起きている――。
■全米1位になった「男性レビューアプリ」
2025年7月、アメリカのApp Storeで突如1位に躍り出たアプリがある。「Tea(ティー)」と名付けられたこのアプリは、交際相手やデート相手の男性に対する「レビュー」を閲覧できるサービスとして爆発的な人気を呼んでいる。ユーザーは女性限定だ。
オンラインの出会いに危険が付きまとう状況を打開しようと、Teaは開発された。出会った男性を「レッドフラグ(危険信号)」か「グリーンフラグ(安全な兆候)」かで評価し、他のユーザーたちと情報交換する。犯罪歴の検索はもとより、フルネームの本名、年齢、交際情報(既婚男性なのに未婚と偽っていないか)、そして過去のデート相手たちがどのような印象を受けたか、疑わしい振る舞いはなかったか、見た目の印象はどうだったかなどが、一挙に表示される。
検索手段は多岐にわたる。デートアプリ上では顔写真とファーストネームしか表示されていない状態でも、調べることが可能だ。相手のプロフィールのスクリーンショットを撮ってTeaにアップロードすると、写真を解析し、候補と思われる男性が一覧表示される。特定の男性に関するアラートの設定もできるため、現在はクチコミが寄せられていない相手男性についても、将来的に通知を受けられる仕組みだ。
■登録に数日を要するほどの人気
公式サイトによると、すでに620万人以上の女性が参加。
米NBCニュースは、わずか数日間で90万人以上が新規登録したと報じている。
アプリ側は7月24日にインスタグラムで「過去1週間で200万人以上の参加リクエストを受けた」と発表。米ダウ・ジョーンズが刊行するバロンズ誌によれば、登録希望者の待機リストに申請してから入会が承認されるまでに数日かかる状態となっており、多くの新規ユーザーがアプリのインスタグラム投稿のコメント欄で不満を漏らしているほどだ。
公式サイトは「verified women(認証済みの女性)」だけが利用できるアプリとして安心感を打ち出し、自撮り写真と身分証明書の提出を必要事項としている。写真はAIで解析し、女性であることを担保しているという。
創業者のショーン・クック氏は母親がオンラインデートで被害に遭ったのをきっかけに開発を決めたと説明しており、利益の10%を全米家庭内暴力ホットラインに寄付するとしている。一方、同ホットライン側は公式なパートナーシップではないとコメントし、アプリへの関与を否定している。
デートアプリが苦境にある現在、Teaアプリの好調は一層際立つ。バロンズによると、デートアプリ2位のBumbleは今年6月、従業員を約30%削減。1位のTinderとHingeを運営するマッチグループも、5月に13%の人員削減を発表した。アナリストは同誌に、「デートアプリ疲れが起きていることは間違いない」と語る。ユーザー離れの要因の一つに相手への信頼のなさが挙げられるが、Teaはその解消を図り大ヒットに至った。

■「口唇ヘルペスと性病持ち」プライバシーなきクチコミの数々
女性ユーザーたちに安心感をもたらす一方、男性からはプライバシーへの懸念が募っている。
英タイムズ紙によると、ある女性はTeaに投稿したクチコミで、「この男は避けて‼」と警告。「口唇ヘルペスと性病がある。欲しいものを手に入れるために嘘をつき、その後でゴーストする(別れを告げずに行方をくらます)」と書き込んでいた。
別の男性については「虐待的で、病的な嘘つきで、躁状態で、被害者意識の塊」という評価が公開されている。タイムズ紙によるとさらに、「覚醒剤中毒者。女性を精神的・身体的に虐待する。年上のゲイ男性との秘密の生活を送っている」という投稿も確認された。
アプリは女性限定であり、男性としては自身にこのような評価が陰で囁かれていることさえ知る由もない。第三者による検証もなく、書かれている内容すべてが真実かどうかは保証されていない。
米ヴォックス誌は、「レッドフラグ」の定義があいまいであることも問題だと指摘。ストーカー行為のような許容されるべきでないものから、「メッセージへの返信が遅い」といった小さな不満まで、すべてが「危険信号」として同列に書き込まれている。

■寝顔を撮影して過去の交際歴を暴く
まだ見ぬオンラインの相手の信頼性を探るためのTeaだが、中にはすでに親しい仲にあるパートナーの過去を探る用途で使うユーザーもいる。利用方法の中でもとりわけ顔をしかめたくなるのが、寝顔の撮影による検索だ。
前述のようにアプリに画像をアップロードすると、該当人物を手軽に絞り込める。公式サイトはこれを「キャットフィッシュ画像検索」と説明している。キャットフィッシュとは、別人の写真を使ってプロフィールを登録したり、メッセージ上で年収や身分を偽ったりする行為を指す。すなわち本来は、登録された画像や発言内容の真正性を検証し、偽のプロフィールを見抜くための機能とされている。
だが、タイムズ紙は、機能を複数のユーザーが悪用していると報道。一部の女性ユーザーたちは、彼氏や夫などパートナーが寝ている隙に彼らの顔写真を撮影し、他の女性からのクチコミがないかを探っているという。
目的については詳述されていないが、記事は「他の女性が彼を知っているかどうか試すため」と述べている。他の女性とも並行して交際していないかを確認したり、あるいは過去の交際相手からのクチコミを確認したりする目的があるようだ。
実際にアプリをダウンロードし試してみたという同紙女性記者は、「このティーは、やはり苦い味がする」とコメント。アプリ側が「すべてを匿名で行える」「男の名前をもとに全土からの投稿を検索可能」など女性ユーザーへの安全性を強調しているのに対し、記事は「安心できる、確かに。
ただし、あなたが(根拠不明の)噂のせいで害が及ぶかもしれない男性側でなく、アプリを使う女性側である場合に限るが」と論じる。
■ネット掲示板が逆襲…7万2000人分のデータ流出
アプリの人気が急上昇するにつれ、男性たちもその存在に気づき始めた。
米アトランティック誌によると、Teaが7月下旬にアップルのApp Storeで1位を獲得したのを契機に、怒りに燃える男性たちが匿名掲示板の4chanに集結。「hack and leak(ハッキングして流出させろ)」との書き込みが相次ぐ事態に発展した。
その後、米NBCニュースによると、Teaのサーバーへの不正アクセスが実際に発生。約7万2000枚の画像流出に至っている。うち1万3000枚は、Teaの女性ユーザーたちがアプリに登録した際、本人確認用としてアップロードした自撮り画像と身分証明書の写真だった。残りの5万9000枚は、アプリ内で共有された画像だ。
彼女たちの自宅住所をマッピングした地図までが作成され、4chanで公開された。その後さらに発生した2度目のデータ漏洩では、ダイレクトメッセージの内容や、実名、ソーシャルメディアのハンドルネーム、電話番号まで流出している。
アトランティック誌は、プライバシーポリシーで「認証用の自撮り画像は即座に削除する」と謳っていたのに反し、実際はTeaのサーバーに保存されていたと矛盾を指摘している。Tea側は流出を認め、新しいシステムに移行する前のデータがサーバーに残っていたと説明している。

男性側の反撃はハッキングだけではなかった。NBCニュースによれば、男性だけが利用できる女性評価アプリ「Teaborn(ティーボーン)」が登場し、一時は無料アプリ3位まで上昇。名前は「Teaから生まれた」を意味する当てつけとなっている。しかしユーザー間でのリベンジポルノの共有が問題となり、App Storeから削除された。
女性を守るコンセプトで誕生したTeaだが、男性の怒りに火を付けたことで、最終的には女性を危険に晒す結果を招いた。
■DV被害者たちの切実な声
もっとも、Teaに人生を救われたと考える女性たちも確かに存在する。
デートアプリで知り合った相手との出会いには、一定のリスクがつきまとう。米ピュー・リサーチ・センターが2022年に実施した調査によると、デートサイトやアプリを利用した50歳未満の女性の56%が、求めていないのに性的に露骨なメッセージや画像を受け取ったことがあると回答。さらに43%が、相手に興味がないと伝えた後も連絡が続き、37%が攻撃的な名前で呼ばれ、約11%は身体的に危害を及ぼすとの脅迫を受けたという。
米USAトゥデイ紙の取材に応じたある女性は、2年間続いたDV(家庭内暴力)から抜け出し、新たな恋の相手とフェイスブックで結ばれた。だが、この男性についてTeaに投稿したところ、3人の女性から「自宅に招かれ、関係を持った後、二度と連絡が取れなくなった」との情報が寄せられたという。
女性は元恋人からのDV被害に関して、裁判所による接近禁止命令や治療費の保険請求、民事訴訟など手続きに追われていた。
心から安心できる相手と出会いたい彼女にとって、Teaは数少ない拠り所のひとつだ。
MSNBCは、アメリカとオーストラリアでの研究結果を引用し、正式に被害申請のあったレイプ事件の約10%がデートアプリに起因していると指摘。DV被害者支援団体ライフワイヤーのサービスディレクター、オリビア・モンゴメリー氏は同紙に対し、「アプリで匿名で行える相互支援には大きな価値がある」と述べ、加害者によって周囲との関係を絶たれた被害者にとって、Teaのような場が重要だと強調している。
■Teaはアプリの位置づけを間違えた
昨今ではアプリを通じた出会いの機会が拡大しており、Teaは人々の不安感を拭う救世主となるはずだった。
デートアプリでの恋人探し自体は、もはやかつてほどに後ろ指を指されることも少なくなった。ピュー・リサーチ・センターによると、アメリカの18歳から29歳の半数以上にあたる53%が、デートアプリまたはデートサイトを利用した経験があると回答している。30歳から49歳でも37%と、3人に1人以上を占める。
一方、信頼の置ける共通の知人を介した出会いとは異なり、アプリやネット上での見知らぬ人との出会いには一定の不安感が残る。Teaはこうした不安を、特に女性側の立場から解消するうえで有益なアプリとなるはずだった。620万人以上に支持され、アプリストアで1位に上り詰めた事実が、不安を覚える女性たちからの期待を証明している。
だが、アプリの位置づけに思慮不足が目立ったことで、大きな騒動を巻き起こした。公式サイトを開けば、トップ画面に表示されるのは、興味津々といった表情で驚いている女性だ。他の女性に耳打ちされ、噂話に興じているように取れる。アプリ名のTeaは黒人英語のスラングで「噂話」を意味し、安全性の検証というよりは男性をめぐるゴシップに花を咲かせるアプリとのイメージが強い。
利用者を女性に絞るべきだったかについても、議論の余地が残る。女性たちが安心して利用できる面はあるが、男性の立ち入ることのできない場でルックスの善し悪しや性病の有無についての議論が交わされ、男性の反発を招いた。結果としてハッキングの標的となっており、アプリに信頼を寄せて提供した女性ユーザーたちの身分証の写真までが流出した。アプリを利用しない方が安全だったということになりかねない。
男性をまるで商品や店舗のように扱い、本人の知らぬ場で評価コメントを交わすTeaアプリ。デートでの女性の安全性を向上するねらいは評価されるべきだが、男性のプライバシーへの配慮が一切欠如していたと言わざるを得ない。アプリは基本無料だが、料金を支払うことで検索数の上限を増やせる仕組みになっている。マネタイズに走った結果、配慮不足のまま展開したとのそしりは免れないだろう。

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青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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