ドナルド・トランプとは何者か。安倍晋三元総理の妻の昭恵さんは「トランプ大統領は明るい方で、主人も波長が合っていたのは間違いない。
■「メラニアがあなたに会いたがっていたんだ」
――2024年12月16日、大統領に就任する前のトランプ氏とメラニアさんのご夫妻にお会いになったことが大きな話題になりました。どのような経緯から実現したものだったのでしょうか。
【安倍昭恵氏(以下敬称略)】主人(安倍晋三元総理)の原稿や音声、講演映像のほか、国葬儀前に集まった多くの方々のお悔やみの言葉をデジタルアーカイブとして残す「安倍晋三デジタルミュージアム」の活動をボランティアでしてくださっている方がいるのですが、このアーカイブにトランプ大統領のメッセージもいただけないだろうかと考えていました。どうお願いしたらいいものかと模索していたところ、いろいろなご縁と偶然が重なって就任前のトランプ大統領とメラニアさんとの会食の席につながったのです。
就任後は、私がお会いできる立場ではありませんので、ここしかないというタイミングでした。トランプ大統領は「メラニアがあなたに会いたがっていたんだ」「メラニアはあなたのファンなんです」と繰り返し仰っていました。
――トランプ大統領も大統領選中に銃撃されていますから、メラニアさんも含め、より安倍元総理の事件を悔やむ気持ちがあったのかもしれませんね。
【安倍】そうかもしれません。主人に対するお悔やみの言葉も何度も仰っていて、「シンゾーを失ったのは本当に惜しい」と、繰り返し名前を呼んでお話してくださいました。トランプ大統領は「シンゾーはハンサムだったよね」ともおっしゃっていました(笑)。
■トランプ大統領は平和を愛する方
――昭恵さんは会食後、「トランプ大統領は戦争をしたくない人だと思う」と印象を改めて語っています。
【安倍】いまも各地の紛争や、ロシアとウクライナの間の戦争を停戦するために尽力されていますが、お話を聞いていて、平和を愛する方なんだろうと私は感じています。拉致問題にも積極的に関与してくださいました。メラニアさんも、プーチン大統領に「子供の笑顔を取り戻したい」という書簡を送られていますよね。
とても印象的だった会話があります。2019年、トランプ大統領が令和になってから初の国賓として日本にいらっしゃった際に、トランプ大統領とメラニア夫人、そして主人と私で六本木の炉端焼きのお店で会食をしました。その時にトランプ大統領は「先の戦争の時に自分とシンゾー(が日米首脳)であったなら、戦争は起こらなかったに違いない」と語っていました。
――それはすごい一言です。
【安倍】首脳同士の関係、国家間の外交関係、信頼関係がいかに重要かを物語っていますよね。
■決して相性がいいだけではなかった
――安倍元総理とトランプ大統領はそれほどまでにウマが合っていたのでしょうか。
【安倍】トランプ大統領は明るい方ですから、主人も波長が合っていたのは間違いないと思います。スポーツもお好きですし。
どんな人間関係でもそうですよね。例えばどんなに仲のいい友人や夫婦であっても、相手が何をすれば喜ぶか、どんなものが好きなのかを考えて対応します。ましてや国家を背負っての付き合いともなれば、外務省や秘書官などの官邸スタッフ、アメリカにコネクションのある人など、あらゆる方面からさまざまな情報を仕入れていたでしょう。
相手がどんな人柄で、今何を考え、何をすれば喜び、また機嫌を損ねるのか、どんな交渉を望んでいるのかなどを掴み、関係を構築するための努力をしていたんだろうと思います。
二人の関係は、個人の関係だけれど、個人の関係だけではない。国家を背負いながら、お互いの国益を保ちつつ相手との関係を維持するための最善の形を模索していたんですね。
■EASとAPECはどう違うんだ
――『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)や『ジョン・ボルトン回顧録』(朝日新聞出版)などを見ると、首脳会談以外にも電話でのやりとりなどをかなりされていたようです。
【安倍】トランプ大統領は、わからないことを素直に電話で聞いてくるんだ、と主人も言っていました。アメリカの大統領が日本の首相に「あれってどうなんだ」「教えてくれ」などと聞くことはなかなかないと思うのですが。
――私が安倍総理に取材した際も、トランプ大統領から「EAS(東アジア首脳会議)とAPEC(アジア太平洋経済協力)はどう違うんだ」「俺はどっちに行けばいいんだ」と尋ねられたとおっしゃっていました。
【安倍】前回は初めて政権を担ったから、わからないことが多かったのかもしれません。欧州などほかの国のリーダーに聞くよりも、日本の方が聞きやすかったのでしょう。
――安倍元総理は「トランプは意外にもカッコつけずに、わからないことは素直に聞く。非常に丁寧で、リーダーとして先輩である私の話をまず聞こうという態度でした」と語っていました。
【安倍】主人としては、トランプ大統領が素直にいろいろ聞いてくれることが嬉しかったみたいですね。一方、トランプ大統領は「シンゾーはタフネゴシエーターだ」とも言っていました。
政治家同士ですから、お互いに選挙に強くなければできることもできません。戦いに勝ち抜いてきたという自負があって、その先にリスペクトがあったのかな、と思います。主人が英語でやり取りすることもありましたが、基本的には通訳として外務省の高尾直(すなお)さんが常に一緒にいて、高尾さんもトランプ大統領の信頼を得ていましたから、それも大きかったのかもしれません。
■大統領との会食で話していたこと
――高尾さんはトランプ大統領から「リトル・プライム・ミニスター」というニックネームをもらったらしいですからね。会食の席などでのトランプ大統領はどういう感じなんでしょうか。
【安倍】とても和やかですよ。
会話の途中でトランプ大統領が「メラニアはどう思う?」と話を振ることもありました。ちょっとしたことでもメラニアさんに尋ねていたのが印象的でした。
――昭恵さんは現在、台湾やロシア、ミャンマーなど世界中を飛び回り、民間外交に励まれています。
【安倍】主人が問題意識を持って取り組んできたこと、私自身が関心があることで、政治家ではないからこそできることがあればやりたいと思っています。
特に台湾には主人の熱心な支持者が多く、高雄には主人の銅像を建てていただきました。台湾の国立政治大学では9月21日の主人の誕生日に「安倍晋三研究センター」が開設されることになっています。台南でも「安倍晋三記念館」を立ち上げる計画があり、私も台湾を訪れる予定でいます。
■安倍総理が師と仰いだ台湾の政治家
――安倍元総理と李登輝元総統とのご縁も深いですね。
【安倍】2010年に台湾に行って李登輝先生にお会いしていますが、第一次政権を退任した後だったので、李登輝先生からかなり励まされたそうです。その後、李登輝友の会の方々や、李登輝さんの娘さんにお会いする機会があり、二人の関係についてもお聞きするのですが、主人は本当に師と仰いで尊敬し、父のように慕って、同時に友人のように親しくさせていただいていたのだと感じます。
総理の間は台湾に行くことはかないませんでしたが、もう一度お会いしたい、台湾に行きたいという気持ちは持っていたと思います。
――台湾は日本以上に「安倍晋三の功績を残そう」という動きが活発ですね。
【安倍】日本でも冒頭にご紹介した「安倍晋三デジタルミュージアム」の活動をしてくださっている方々がいます。発起人の徳本進之介さんが2024年に「一般社団法人 後来ノ種子プロジェクト」を設立し代表理事に就任して、現在は「安倍晋三 回顧展~遺品を通して、私たちの未来を考える~」という展示会を企画し、クラウドファンディングを募っています。
主人の子供の頃の作文や蔵書、総理になってからの書籍のゲラや、葬儀の際にいただいた麻生太郎元首相の弔辞などの遺品を展示する予定です。加えて、トランプ大統領を含む各国首脳との交流にちなんだ品々や、外国からいただいた首脳会談時に撮影された未公開写真を含むアルバムなども展示したいなと。
ご支援が広がれば東京や関西だけでなく、各地巡回も可能になりますので、ぜひ多くの方にご覧いただければと思っています。
----------
安倍 昭恵(あべ・あきえ)
内閣総理大臣安倍晋三夫人
聖心女子専門学校卒業後、電通勤務を経て、1987年に現首相の安倍晋三氏と結婚。夫の一度目の総理退任後、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科に入学・修了。現在はファーストレディとしての活動のほか、女性の社会進出を支援する講座型スクール「UZUの学校」、無農薬有機食材を使った居酒屋も経営。ほかに、農業支援、教育、福祉活動など、さまざまな活動に携わる。著書に『「私」を生きる』『どういう時に幸せを感じますか?』など。
----------
----------
梶原 麻衣子(かじわら・まいこ)
ライター・編集者
1980年埼玉県生まれ、中央大学卒業。IT企業勤務の後、月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経て現在はフリー。雑誌やウェブサイトへの寄稿のほか、書籍編集などを手掛ける。
----------
(内閣総理大臣安倍晋三夫人 安倍 昭恵、ライター・編集者 梶原 麻衣子)
だが、それだけで外交がうまくいっていたわけではない」という。ライターの梶原麻衣子さんが聞いた――。
■「メラニアがあなたに会いたがっていたんだ」
――2024年12月16日、大統領に就任する前のトランプ氏とメラニアさんのご夫妻にお会いになったことが大きな話題になりました。どのような経緯から実現したものだったのでしょうか。
【安倍昭恵氏(以下敬称略)】主人(安倍晋三元総理)の原稿や音声、講演映像のほか、国葬儀前に集まった多くの方々のお悔やみの言葉をデジタルアーカイブとして残す「安倍晋三デジタルミュージアム」の活動をボランティアでしてくださっている方がいるのですが、このアーカイブにトランプ大統領のメッセージもいただけないだろうかと考えていました。どうお願いしたらいいものかと模索していたところ、いろいろなご縁と偶然が重なって就任前のトランプ大統領とメラニアさんとの会食の席につながったのです。
就任後は、私がお会いできる立場ではありませんので、ここしかないというタイミングでした。トランプ大統領は「メラニアがあなたに会いたがっていたんだ」「メラニアはあなたのファンなんです」と繰り返し仰っていました。
――トランプ大統領も大統領選中に銃撃されていますから、メラニアさんも含め、より安倍元総理の事件を悔やむ気持ちがあったのかもしれませんね。
【安倍】そうかもしれません。主人に対するお悔やみの言葉も何度も仰っていて、「シンゾーを失ったのは本当に惜しい」と、繰り返し名前を呼んでお話してくださいました。トランプ大統領は「シンゾーはハンサムだったよね」ともおっしゃっていました(笑)。
■トランプ大統領は平和を愛する方
――昭恵さんは会食後、「トランプ大統領は戦争をしたくない人だと思う」と印象を改めて語っています。
【安倍】いまも各地の紛争や、ロシアとウクライナの間の戦争を停戦するために尽力されていますが、お話を聞いていて、平和を愛する方なんだろうと私は感じています。拉致問題にも積極的に関与してくださいました。メラニアさんも、プーチン大統領に「子供の笑顔を取り戻したい」という書簡を送られていますよね。
とても印象的だった会話があります。2019年、トランプ大統領が令和になってから初の国賓として日本にいらっしゃった際に、トランプ大統領とメラニア夫人、そして主人と私で六本木の炉端焼きのお店で会食をしました。その時にトランプ大統領は「先の戦争の時に自分とシンゾー(が日米首脳)であったなら、戦争は起こらなかったに違いない」と語っていました。
――それはすごい一言です。
【安倍】首脳同士の関係、国家間の外交関係、信頼関係がいかに重要かを物語っていますよね。
■決して相性がいいだけではなかった
――安倍元総理とトランプ大統領はそれほどまでにウマが合っていたのでしょうか。
【安倍】トランプ大統領は明るい方ですから、主人も波長が合っていたのは間違いないと思います。スポーツもお好きですし。
私も最初は、「二人は相性がいいから、特に関係が深いのだろう」と思っていました。でも徐々に、それだけで外交をしていたわけではないのだろうと思うようになりました。
どんな人間関係でもそうですよね。例えばどんなに仲のいい友人や夫婦であっても、相手が何をすれば喜ぶか、どんなものが好きなのかを考えて対応します。ましてや国家を背負っての付き合いともなれば、外務省や秘書官などの官邸スタッフ、アメリカにコネクションのある人など、あらゆる方面からさまざまな情報を仕入れていたでしょう。
相手がどんな人柄で、今何を考え、何をすれば喜び、また機嫌を損ねるのか、どんな交渉を望んでいるのかなどを掴み、関係を構築するための努力をしていたんだろうと思います。
二人の関係は、個人の関係だけれど、個人の関係だけではない。国家を背負いながら、お互いの国益を保ちつつ相手との関係を維持するための最善の形を模索していたんですね。
■EASとAPECはどう違うんだ
――『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)や『ジョン・ボルトン回顧録』(朝日新聞出版)などを見ると、首脳会談以外にも電話でのやりとりなどをかなりされていたようです。
【安倍】トランプ大統領は、わからないことを素直に電話で聞いてくるんだ、と主人も言っていました。アメリカの大統領が日本の首相に「あれってどうなんだ」「教えてくれ」などと聞くことはなかなかないと思うのですが。
――私が安倍総理に取材した際も、トランプ大統領から「EAS(東アジア首脳会議)とAPEC(アジア太平洋経済協力)はどう違うんだ」「俺はどっちに行けばいいんだ」と尋ねられたとおっしゃっていました。
【安倍】前回は初めて政権を担ったから、わからないことが多かったのかもしれません。欧州などほかの国のリーダーに聞くよりも、日本の方が聞きやすかったのでしょう。
――安倍元総理は「トランプは意外にもカッコつけずに、わからないことは素直に聞く。非常に丁寧で、リーダーとして先輩である私の話をまず聞こうという態度でした」と語っていました。
【安倍】主人としては、トランプ大統領が素直にいろいろ聞いてくれることが嬉しかったみたいですね。一方、トランプ大統領は「シンゾーはタフネゴシエーターだ」とも言っていました。
政治家同士ですから、お互いに選挙に強くなければできることもできません。戦いに勝ち抜いてきたという自負があって、その先にリスペクトがあったのかな、と思います。主人が英語でやり取りすることもありましたが、基本的には通訳として外務省の高尾直(すなお)さんが常に一緒にいて、高尾さんもトランプ大統領の信頼を得ていましたから、それも大きかったのかもしれません。
■大統領との会食で話していたこと
――高尾さんはトランプ大統領から「リトル・プライム・ミニスター」というニックネームをもらったらしいですからね。会食の席などでのトランプ大統領はどういう感じなんでしょうか。
【安倍】とても和やかですよ。
スポーツがお好きなので、楽しそうに野球やゴルフの話に花を咲かせたこともありました。とはいっても日米首脳が居合わせる席なので、話はすぐに国際情勢や政治の話題、情報交換に移りますが。
会話の途中でトランプ大統領が「メラニアはどう思う?」と話を振ることもありました。ちょっとしたことでもメラニアさんに尋ねていたのが印象的でした。
――昭恵さんは現在、台湾やロシア、ミャンマーなど世界中を飛び回り、民間外交に励まれています。
【安倍】主人が問題意識を持って取り組んできたこと、私自身が関心があることで、政治家ではないからこそできることがあればやりたいと思っています。
特に台湾には主人の熱心な支持者が多く、高雄には主人の銅像を建てていただきました。台湾の国立政治大学では9月21日の主人の誕生日に「安倍晋三研究センター」が開設されることになっています。台南でも「安倍晋三記念館」を立ち上げる計画があり、私も台湾を訪れる予定でいます。
■安倍総理が師と仰いだ台湾の政治家
――安倍元総理と李登輝元総統とのご縁も深いですね。
【安倍】2010年に台湾に行って李登輝先生にお会いしていますが、第一次政権を退任した後だったので、李登輝先生からかなり励まされたそうです。その後、李登輝友の会の方々や、李登輝さんの娘さんにお会いする機会があり、二人の関係についてもお聞きするのですが、主人は本当に師と仰いで尊敬し、父のように慕って、同時に友人のように親しくさせていただいていたのだと感じます。
総理の間は台湾に行くことはかないませんでしたが、もう一度お会いしたい、台湾に行きたいという気持ちは持っていたと思います。
――台湾は日本以上に「安倍晋三の功績を残そう」という動きが活発ですね。
【安倍】日本でも冒頭にご紹介した「安倍晋三デジタルミュージアム」の活動をしてくださっている方々がいます。発起人の徳本進之介さんが2024年に「一般社団法人 後来ノ種子プロジェクト」を設立し代表理事に就任して、現在は「安倍晋三 回顧展~遺品を通して、私たちの未来を考える~」という展示会を企画し、クラウドファンディングを募っています。
主人の子供の頃の作文や蔵書、総理になってからの書籍のゲラや、葬儀の際にいただいた麻生太郎元首相の弔辞などの遺品を展示する予定です。加えて、トランプ大統領を含む各国首脳との交流にちなんだ品々や、外国からいただいた首脳会談時に撮影された未公開写真を含むアルバムなども展示したいなと。
ご支援が広がれば東京や関西だけでなく、各地巡回も可能になりますので、ぜひ多くの方にご覧いただければと思っています。
----------
安倍 昭恵(あべ・あきえ)
内閣総理大臣安倍晋三夫人
聖心女子専門学校卒業後、電通勤務を経て、1987年に現首相の安倍晋三氏と結婚。夫の一度目の総理退任後、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科に入学・修了。現在はファーストレディとしての活動のほか、女性の社会進出を支援する講座型スクール「UZUの学校」、無農薬有機食材を使った居酒屋も経営。ほかに、農業支援、教育、福祉活動など、さまざまな活動に携わる。著書に『「私」を生きる』『どういう時に幸せを感じますか?』など。
----------
----------
梶原 麻衣子(かじわら・まいこ)
ライター・編集者
1980年埼玉県生まれ、中央大学卒業。IT企業勤務の後、月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経て現在はフリー。雑誌やウェブサイトへの寄稿のほか、書籍編集などを手掛ける。
----------
(内閣総理大臣安倍晋三夫人 安倍 昭恵、ライター・編集者 梶原 麻衣子)
編集部おすすめ