食事量を抑えるにはどうすればいいのか。医学博士の山下明子さんは「人間は目で食事量を判断している。
小さな食器に大盛りで盛り付ければ、同じ量でもより満腹感を得ることができる」という――。
※本稿は、山下明子『食べる瞑想 幸せな毎日が続く新しい心の整え方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■人は目で「食べた量」を判断する
さて、仕事中にお菓子をよくつまんでいる方に質問です。
「仕事中、お菓子を平均どれくらい食べますか?」
すぐに答えられたでしょうか。
案外、何を食べたかは覚えているものの、自分が「どれくらい食べているのか」はわからないと思います。普段の食事の場合も同様に、あなたは「自分がどのくらいの量を食べているのか」をしっかりと把握できていないかもしれません。
食品消費に関する行動心理学の第一人者であるブライアン・ワンシンク教授が行った実験を紹介しましょう。二つのグループに、スポーツバーでフットボールの試合を観戦しながら骨付きチキンを食べてもらいました。
一方のグループのテーブルでは、食べたチキンの骨をそのままにして片付けませんでした。もう一方のグループでは、食べたチキンの骨をウェイターが素早く片付けました。そして試合終了後、両グループの食べたチキンの数を数えました。
さて、チキンをたくさん食べていたのはどちらのグループだと思いますか。

答えは、チキンの骨を片付けたテーブルの人たちです。
つまり、私たちは食べた量が可視化できていると「これだけ食べたんだ」と理解して食べすぎないように調整できる一方で、食べた量が可視化できていないと、つい食べすぎてしまう傾向にあるわけです。
この実験から、人は「自分がどのくらい食べているのか」を目で判断していることがわかります。
満腹になれば「たくさん食べた」と気づけるでしょうが、そこまでの満腹でなければ、視覚情報なしに食べた量を把握するのは難しいのです。
■無意識に食べている量は意外とバカにならない
あなたも目の前にお菓子の包装紙のゴミが山盛りになっていたら、「そろそろ食べるのをやめようかな……」と思うでしょう。逆に、食べた痕跡が何も残っていなければ、食べるのをやめるタイミングを見失ってしまうかもしれません。
ワンシンク教授によると、私たちは一日に摂取するカロリーのうち、約200キロカロリーを無意識のうちに食べているそうです。
もしあなたが「あまり食べてないのに痩せない……」と悩んでいるのなら、無意識に食べている「食べていないつもりの摂取カロリー」が多い可能性があります。
食べている自覚がなくても、休憩中にみんなと一緒におやつをパクッと口に入れているかもしれないし、スマホを見ながら食事をしているうちに、自分で思っているよりも多くの量を食べてしまっているかもしれないのです。
■大盛りに見えると満腹を感じる
さらに、目で見た食事量によって、食後の満腹度も変わることがわかっています。
名古屋大学で行われた、VRを装着しながらクッキーを食べてもらう実験では、VRでクッキーを大きく見せて食べると「たくさん食べた」と感じ、小さく見せて食べると「あまり食べていない」と感じる傾向があることがわかりました。
この結果から推測できることは、私たちは同じ食事の量でも、大盛りのように見せられると満腹を感じ、お皿に少しだけ盛りつけられていると物足りなさを感じるようになるということです。

では、食べすぎないために、少量の料理でも大盛りに見せるためにはどうしたらいいのでしょうか。
勘のいい方なら、お気づきかもしれません。
そうです。
お皿を変えればいいのです。
フランス料理のコースでは、大きめのお皿の真ん中に、ちょこんと少量の料理がのっています。
これは、料理の量をより少なく見積もらせ、食べ終わったときに満腹感を得られないようにすることで、次の料理を楽しみに待たせるための仕組みなのです。
■子供用茶碗に大盛りによそう
もし食べすぎないようにしたいのであれば、あえて小さめのお皿に大盛りで盛りつけるといいでしょう。
私は、肥満に悩む患者さんには、ご飯茶碗を小さめにするよう勧めています。ご飯が大好きで減らしたくなくても、子ども用の小さな茶碗に大盛りによそって食べるだけで、しっかりとご飯を食べたような気分になれるのです。
また、スナック菓子を少しだけ楽しみたい、というときにもこの方法は使えます。
例えば、ポテトチップスを袋から直接食べると「半分だけ食べようと思っていたのに、全部食べてしまった」なんてことが起こりがちです。そこで、少々面倒でも、小さめのお皿にポテトチップスを半分の量入れて山盛りに見せれば、不思議と満腹感を得ることができるのです。

このように考えると、私たちが普段やりがちな行動も見直す必要があることがわかります。
■ポテトチップスもあえて小さな器に
スナック菓子をお皿に出す際、多くの人が「たくさん食べてはダメだ」と思い、少量だけを盛りつけているのではないでしょうか。ただ、こうするとお皿に対してスナック菓子の量が少なく見えてしまうため、まったく満腹感が得られません。その結果「もう少しだけなら」と、つい歯止めが利かなくなってしまうのです。
変えるべきは「量」ではなく「お皿」です。
お皿を小さめにして、いかに自分の目に大盛りだと認識させるか。
食べすぎの傾向にある人は、この原則を覚えておきましょう。

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山下 明子(やました・あきこ)

医学博士

佐賀県生まれ。医療法人社団如水会今村病院副院長。脳神経内科医として6万人もの生活習慣病患者を診察し、「健康づくりを指導する専門家」として多くの信頼を集める。薬ばかりに頼るのではなく、一人ひとりが主体的に健康になれるよう、Well-being、マインドフルネス、栄養、運動、睡眠、脱依存、習慣化を組み合わせた多角的なアプローチを提唱。日本人間ドック学会専門医、日本抗加齢医学会専門医など、専門資格も多数。
著書に『やせる呼吸』(二見書房)、『死ぬまで若々しく元気に生きるための賢い食べ方』(あさ出版)、『「やめられない」を「やめる」本』(小学館)などがある。

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(医学博士 山下 明子)
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