食欲を抑えるにはどうすればいいのか。医師の山下明子さんは「定食のように白米やおかず、サラダ、汁物などがある場合、食べる順番を変えるだけで食欲はコントロールでき、満腹感を得やすくすることができる」という――。

※本稿は、山下明子『食べる瞑想 幸せな毎日が続く新しい心の整え方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■食べる順番で血糖値は大きく変わる
血糖値の変動には、食べる順番が大きく影響します。
結論から述べると、糖質以外のもの、特に食物繊維を先に食べると糖質の吸収が緩やかになり、血糖値が上がるスピードも緩やかになります。また、タンパク質を十分に摂取できれば、食欲はおさまることもわかっています。
血糖値が高い状態が続いてしまうと、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞になる可能性が高くなり、腎機能障害や末梢神経障害を引き起こす可能性も高くなります。
そして、血糖値の急激な上昇は将来に起こる病気だけではなく、その日のあなたの食行動にも大きく影響します。なぜなら、血糖値が急に上がる食べ方をすると、その反動で強い空腹を感じるようになるからです。強い空腹感ゆえに、間食をしてしまったり、次の食事で食べすぎてしまったりします。
食べる順番を意識して血糖値の変動をうまくコントロールしないと、負のループが続いてしまうわけです。
もし、あなたが過食で悩んでいるのなら、それは「あなたの意志が弱いから」とか「食欲が旺盛だから」という理由だけではなく、食べる順番がそうさせている可能性もあります。
食事のときには、食物繊維を先に摂取し、次にタンパク質を体に取り込み、最後に糖質を食べることを意識すると、血糖値が上がりにくく、一日全体を通しての食欲も落ち着くようになりますよ。
■プロテインの摂りすぎはNG
しかし、タンパク質のとり方でやってはいけないことがあります。

それは、プロテインドリンクを必要以上に飲むことです。
タンパク質は適度にとれば健康に役立ちますが、多くとりすぎると、かえって体に悪影響を及ぼすことがあります。
多く摂取すればするほど、その分が筋肉になるわけではありません。体に吸収されなかった余ったタンパク質は、肝臓に脂肪となって蓄積されますが、それでも余ると中性脂肪に変換されてしまうことがわかっています。
食べる順番と、基本的な栄養素を必要な分だけとることに気をつければ、食欲を上手にコントロールすることができ、体調もよくなります。
■定食は「汁物」をまずは飲み干す
ただ、それでも「食欲に逆らえずに好きなものから食べてしまう」というあなたに、おすすめの方法をもう一つお伝えします。
それは、味噌汁やお吸い物を先に飲み干すこと。
一口ではなく、「飲み干す」のがポイントです。
こうすることで、血糖値の上昇をかなり抑えることができます。
しかも、汁物が胃の中に入ることで、主食や主菜をとる前に空腹感が和らぐため、結果的に食べる量も減らすことができます。
ただ、高血圧などで医師から塩分を控えるようにアドバイスされている方は、お水やお茶などで代用してくださいね。
◆血糖値を上げすぎない定食の食べ方

まず、汁物を手に取り、具材をしっかり噛みながらすべて飲み干します。


その後は、次のような順番で食べ進めます。

最初に、サラダや野菜を使ったおかずを一口(食物繊維)。

次に、主菜の肉や魚料理を少し(タンパク質)。

そして、ご飯を少しずつ食べます(糖質)。

サラダや野菜を使ったおかずに戻り、このサイクルを繰り返しましょう。
■一口目と三口目の味は「別物」
次に紹介するのは、食べ物や飲み物の味を「美味しさメーター」で数値化する方法です。
美味しくないが「0」、最高に美味しいが「10」になります。人の好みはそれぞれなので、合っているとか間違っているとかはありません。自分の「美味しい」「美味しくない」という感覚に素直に従って、数値化する習慣をつけてみましょう(図表1参照)。
そして、この「美味しさメーター」で意識していただきたいのは、一口ごとの味の感じ方の変化です。
食べ物が同じでも、あなたの感じ方は、一口ごとに必ず変わります。はじめの一口から最後の一口まで、まったく同じ美味しさということはあり得ません。
お腹がすいている状態での一口目は最高の味かもしれませんが、数口食べているうちに、必ずいつもの味に戻っていくでしょう。
■2杯目からはビールをノンアル飲料に変えてみる
「はじめの一口が美味しい」とよく言われるもの、それはビールです。
夏の夜、家族や友人と乾杯して口に入れた瞬間は最高ですよね。
しかしその後、おつまみを食べ、楽しくおしゃべりをしているうちに、ビールの美味しさはそれほど感じられなくなります。
もはや味を感じようとしていないかもしれませんが、それでも私たちは機械的に飲み続けます。いつのまにかジョッキは空になって、次の一杯を頼みますよね。
もし、あなたが「お酒をあまり飲みすぎたくない」と思っているなら、二口目以降の「美味しさメーター」を感じてみてください。
そして、それほど味を楽しめていないと気づくことができたら、ちょっと飲むのをストップしてみるのも手ですし、2杯目からはノンアルコール飲料に変えてみるのもおすすめです。筑波大学の研究チームは、ノンアルコール飲料を提供された人は、アルコール飲料の摂取量が相対的に減少することを明らかにしています(アルコール依存症患者を除く)。
ポテトチップスやクッキーなどのおやつも、惰性で食べ続けてしまう方が多いようです。この場合も「はじめの一口」「数口食べてから」「食べ終わる頃」など、何度か「美味しさメーター」を自分に問いかけてみる方法がおすすめです。
すると、お腹がいっぱいになってきたのに、ただ味の刺激を求めて食べ続けている自分に気づくことができます。
特に美味しいと思っているわけではないと気づいたら、食べるのをやめて袋を閉じてしまいましょう。
■はじめて食べるような気持ちで食材を口に入れる
一方で、はじめはそんなに美味しいと感じなかったのに、マインドフルネスに味わうことで「いつもは感じられなかった美味しさ」に気づくこともあります。
あまり味つけがされていないもの、例えばカットしただけの野菜を少し口に入れてゆっくり味わうと、食べるごとに香りや味が感じられて「美味しさメーター」が上がっていく様子に気づけるかもしれません。
「美味しさメーター」をイメージして食べるときは、はじめて食べるような気持ちで食材を口に入れてみましょう。
味の先入観に囚われることなく、「美味しい」「美味しくない」という二元論的な判断ではなく、自分の感覚を大事にしてください。
この方法を何度か繰り返していくと、必ず味覚が敏感になります。
すると「本当に美味しいものは健康的な食材であること」に気づき、添加された味つけよりも自然な素材の味を好ましく感じるようになれるでしょう。

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山下 明子(やました・あきこ)

医学博士

佐賀県生まれ。医療法人社団如水会今村病院副院長。脳神経内科医として6万人もの生活習慣病患者を診察し、「健康づくりを指導する専門家」として多くの信頼を集める。薬ばかりに頼るのではなく、一人ひとりが主体的に健康になれるよう、Well-being、マインドフルネス、栄養、運動、睡眠、脱依存、習慣化を組み合わせた多角的なアプローチを提唱。日本人間ドック学会専門医、日本抗加齢医学会専門医など、専門資格も多数。
著書に『やせる呼吸』(二見書房)、『死ぬまで若々しく元気に生きるための賢い食べ方』(あさ出版)、『「やめられない」を「やめる」本』(小学館)などがある。

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(医学博士 山下 明子)
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