健康を保つためにはどのような食事がいいのか。抗加齢・長寿研究の第一人者である医師の白澤卓二さんは「日本では長年、白米とみそ汁、漬け物やおひたしといった素朴な和定食が健康と長寿につながると信じられてきた。
※本稿は、白澤卓二監修『科学的に正しい一生老けない方法100』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■食物繊維の摂りすぎにはカラダに悪い
排便をスムーズにしたり、有害なダイオキシンなどを体外に排出したりと、「デトックス効果」で注目されている食物繊維。特に、水に溶ける「水溶性食物繊維」は、胃の中で膨らんで満腹感を与え、食べすぎを防いで肥満予防に役立ちます。
また、コレステロールや糖の吸収をゆるやかにし、代謝や排泄を助けて、血糖値やコレステロール値の上昇を抑える働きもあります。
現代人は野菜不足が指摘されており、健康意識の高まりとともに、食物繊維を積極的にとろうとする人も増えています。確かに食物繊維は体に良い成分ですが、だからといって「多ければ多いほど良い」というわけではありません。過剰に摂取することで、かえって体調を崩し、老化を早めてしまう可能性があるのです。
■適切な量は「さつまいも約4個分」
たとえば、食物繊維をとりすぎると腸の動きが過剰になり、下痢を引き起こすことがあります。その際、カルシウムや鉄、亜鉛といった大切なミネラルが体外に流れ出てしまい、骨粗しょう症や貧血、味覚障害を招くことも。また、腸の調子が悪くなることで栄養の吸収力が落ち、腸内で合成されるビタミンB群の量も減少してしまいます。
つまり、せっかく健康のためにとっている食物繊維が、過剰になると逆に体の不調や老化につながってしまうというわけです。
厚生労働省が発表した2025年版「日本人の食事摂取基準」では、1日の摂取目標量は男性で30~64歳は22g以上、65~74歳は21g以上。女性で18~74歳は18g以上、75歳以上は17g以上とされています。
具体的には、ごぼうなら約2本分、さつまいもなら約4個分が目安です。ほかの野菜であれば、一食につき100~200gほど食べるように心がけましょう。
■「粗食」はヨボヨボ化を早めてしまう
日本では長年、「粗食こそが健康と長寿の秘訣」と信じられてきました。白米とみそ汁、漬け物やおひたしといった素朴な和定食を毎日食べることが、成人病や高血圧、心臓病、脳梗塞を防ぎ、老けない体をつくると考える高齢者も多く見られます。
しかしこの通説、実は科学的な裏づけは一切ありません。それどころか、粗食とされるメニューを分析すると、たんぱく質や脂質が著しく少なく、栄養バランスに欠けていることがわかります。しかも、栄養価が低いにもかかわらず、塩分は意外と多く含まれており、血圧や血管に負担をかけやすい構成になっているのです。
たんぱく質が不足すると、まず筋肉量が落ち、体力が低下して日常生活にも支障をきたします。
さらに、脂質も体にとっては重要な栄養素です。脂質はエネルギー源になるだけでなく、細胞膜やホルモンをつくる材料となるため、極端に減らすと体調不良や老化の加速を招いてしまいます。
つまり、塩分が多く、たんぱく質や脂質が不足している状態は、老化を進めるだけでなく、血管にも悪影響を与え、高血圧や動脈硬化、そして脳卒中など命に関わる疾患の引き金になる可能性があるのです。
■優秀食材・卵は1日2個食べても問題ない
また、これまで「卵は1日1個まで」とされてきた説も、今では否定されつつあります。健康な人であれば、毎日2個程度食べても問題はなく、たんぱく質と良質な脂質の補給源として優秀な食材です。ただし、高脂血症や脂質異常症などの持病がある人は、医師の指導のもとで量を調整する必要があります。
時代が変われば、栄養学の常識も変わります。「昔ながらの粗食が一番」という思い込みは、今ではむしろ健康を損なうリスクにもなり得るのです。大切なのはたんぱく質・脂質・塩分のバランスを意識した“現代型の適食”を取り入れること。長生きしたいなら、食べる内容をアップデートする必要があります。
■「酒を飲む前に牛乳」効果は期待できない
「酒は百薬の長」といわれますが、飲みすぎれば体に害となるのは言わずもがな。
アルコールの一部は胃で吸収され、消化酵素の働きを妨げ、たんぱく質の分解が不十分になることも。さらに、肝臓での分解時には活性酸素が発生し、細胞を酸化させます。香辛料や刺激物も胃を荒らす原因になるため、過剰摂取は控えましょう。
なお、「お酒の前に牛乳を飲めば酔いにくくなる」という説もありますが、胃に膜が張られるというのは根拠のない俗説で、効果はほとんど期待できません。
■寝る前のアルコールは睡眠の質を下げる
「寝つきが悪いときは寝酒をするとよく眠れる」と信じている人は多いですが、実際にはこれは科学的根拠に乏しい民間療法の一つです。たしかにアルコールには神経の緊張をほぐす作用があるため、一時的に眠気を誘発する効果はあります。寝つきが良くなるという点では、効果があるように思えるかもしれません。
しかし数時間たつとアルコールは代謝され、交感神経の働きが活性化します。その結果、眠りが浅くなり、夜中に目が覚めやすくなるのです。加えて、アルコールには利尿作用があるため、夜中にトイレに行きたくなったり、喉の渇きで目覚めたりと、結果的に睡眠の質を下げることになります。
これに加えて問題なのが、寝酒が習慣化することによる“耐性”の発生です。毎晩のように寝酒をしていると、体がその量に慣れてしまい、以前と同じ量では効果が得られにくくなります。特に少量の寝酒ではその傾向が強く、次第に酒量が増えていくリスクがあります。これが長期的に続くと、健康に深刻な影響を及ぼすことにもなりかねません。
■睡眠時無呼吸症候群の人は絶対にNG
また、睡眠時無呼吸症候群などの疾患がある人にとっては、寝酒はさらに危険です。アルコールに含まれるエタノールは、呼吸を抑制する作用があり、無呼吸の状態を悪化させる可能性があります。このような症状がある人は、寝酒を完全に避けるべきです。
さらに、睡眠不足は見た目の老化にもつながります。食欲を調整するホルモンである「レプチン」と「グレリン」のバランスが崩れると、食べすぎを招き、太りやすくなってしまいます。質の悪い睡眠が続くと、細胞の修復や再生が行われず、肌や内臓の老化が進みやすくなるのです。
睡眠はただ長く眠ればいいというものではなく、深く質の良い眠りが必要なのです。寝酒はその質を確実に下げてしまう“悪習慣”であることを、まず理解しなければなりません。
■若々しい顔を保つために「よく噛む」
「よく噛んで食べなさい」と教えられた記憶がある人は多いでしょう。噛むことは消化を助けるだけでなく、大人になってから気になる顔のたるみを防ぐうえでも重要です。
顔の筋肉は薄くデリケートで、マッサージ器などで過度に刺激すると逆に筋肉が伸びてしまい、たるみの原因になることも。美顔器よりも、毎日の食事中にしっかり噛むことの方が、筋肉を自然に鍛える方法として効果的です。
おすすめは、レンコンやゴボウ、タコ、エリンギ、イカなどの噛みごたえのある食材を大きめにカットして取り入れること。また、糸寒天や切り干し大根、糸こんにゃくなどの歯ごたえがある食材も、顔の筋肉をしっかり使えるので有効です。
早食いは避け、毎食ゆっくりとよく噛んで食べることが、たるみを防ぐ近道となります。
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白澤 卓二(しらさわ・たくじ)
白澤抗加齢医学研究所所長、お茶の水健康長寿クリニック院長
医学博士。お茶の水健康長寿クリニック院長。白澤抗加齢医学研究所所長。テレビや雑誌、書籍などのわかりやすい健康解説が人気。『Dr.白澤の アルツハイマー革命 ボケた脳がよみがえる』(主婦の友社)、『脳の毒を出す食事』(ダイヤモンド社)、『「いつものパン」があなたを殺す』(訳・三笠書房)、『「お菓子中毒」を抜け出す方法』(祥伝社)など、著書・監修書多数。
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(白澤抗加齢医学研究所所長、お茶の水健康長寿クリニック院長 白澤 卓二)
しかし、こうした粗食は実は老化を進めてしまう恐れがある」という――。
※本稿は、白澤卓二監修『科学的に正しい一生老けない方法100』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■食物繊維の摂りすぎにはカラダに悪い
排便をスムーズにしたり、有害なダイオキシンなどを体外に排出したりと、「デトックス効果」で注目されている食物繊維。特に、水に溶ける「水溶性食物繊維」は、胃の中で膨らんで満腹感を与え、食べすぎを防いで肥満予防に役立ちます。
また、コレステロールや糖の吸収をゆるやかにし、代謝や排泄を助けて、血糖値やコレステロール値の上昇を抑える働きもあります。
現代人は野菜不足が指摘されており、健康意識の高まりとともに、食物繊維を積極的にとろうとする人も増えています。確かに食物繊維は体に良い成分ですが、だからといって「多ければ多いほど良い」というわけではありません。過剰に摂取することで、かえって体調を崩し、老化を早めてしまう可能性があるのです。
■適切な量は「さつまいも約4個分」
たとえば、食物繊維をとりすぎると腸の動きが過剰になり、下痢を引き起こすことがあります。その際、カルシウムや鉄、亜鉛といった大切なミネラルが体外に流れ出てしまい、骨粗しょう症や貧血、味覚障害を招くことも。また、腸の調子が悪くなることで栄養の吸収力が落ち、腸内で合成されるビタミンB群の量も減少してしまいます。
つまり、せっかく健康のためにとっている食物繊維が、過剰になると逆に体の不調や老化につながってしまうというわけです。
大切なのは「適量を守ること」。食物繊維は、適切な量を毎日コツコツととることでこそ、腸内環境を整え、若々しさをキープする力を発揮します。
厚生労働省が発表した2025年版「日本人の食事摂取基準」では、1日の摂取目標量は男性で30~64歳は22g以上、65~74歳は21g以上。女性で18~74歳は18g以上、75歳以上は17g以上とされています。
具体的には、ごぼうなら約2本分、さつまいもなら約4個分が目安です。ほかの野菜であれば、一食につき100~200gほど食べるように心がけましょう。
■「粗食」はヨボヨボ化を早めてしまう
日本では長年、「粗食こそが健康と長寿の秘訣」と信じられてきました。白米とみそ汁、漬け物やおひたしといった素朴な和定食を毎日食べることが、成人病や高血圧、心臓病、脳梗塞を防ぎ、老けない体をつくると考える高齢者も多く見られます。
しかしこの通説、実は科学的な裏づけは一切ありません。それどころか、粗食とされるメニューを分析すると、たんぱく質や脂質が著しく少なく、栄養バランスに欠けていることがわかります。しかも、栄養価が低いにもかかわらず、塩分は意外と多く含まれており、血圧や血管に負担をかけやすい構成になっているのです。
たんぱく質が不足すると、まず筋肉量が落ち、体力が低下して日常生活にも支障をきたします。
また、免疫力が弱まり、感染症にかかりやすくなったり、貧血を起こしやすくなったりと、さまざまな健康トラブルのリスクが高まります。
さらに、脂質も体にとっては重要な栄養素です。脂質はエネルギー源になるだけでなく、細胞膜やホルモンをつくる材料となるため、極端に減らすと体調不良や老化の加速を招いてしまいます。
つまり、塩分が多く、たんぱく質や脂質が不足している状態は、老化を進めるだけでなく、血管にも悪影響を与え、高血圧や動脈硬化、そして脳卒中など命に関わる疾患の引き金になる可能性があるのです。
■優秀食材・卵は1日2個食べても問題ない
また、これまで「卵は1日1個まで」とされてきた説も、今では否定されつつあります。健康な人であれば、毎日2個程度食べても問題はなく、たんぱく質と良質な脂質の補給源として優秀な食材です。ただし、高脂血症や脂質異常症などの持病がある人は、医師の指導のもとで量を調整する必要があります。
時代が変われば、栄養学の常識も変わります。「昔ながらの粗食が一番」という思い込みは、今ではむしろ健康を損なうリスクにもなり得るのです。大切なのはたんぱく質・脂質・塩分のバランスを意識した“現代型の適食”を取り入れること。長生きしたいなら、食べる内容をアップデートする必要があります。
■「酒を飲む前に牛乳」効果は期待できない
「酒は百薬の長」といわれますが、飲みすぎれば体に害となるのは言わずもがな。
アルコールは適量であれば血行を促し、リラックス効果もありますが、体に必要な栄養素ではないため、分解・排出されます。その過程で胃や肝臓に負担がかかり、老化を早めてしまいます。
アルコールの一部は胃で吸収され、消化酵素の働きを妨げ、たんぱく質の分解が不十分になることも。さらに、肝臓での分解時には活性酸素が発生し、細胞を酸化させます。香辛料や刺激物も胃を荒らす原因になるため、過剰摂取は控えましょう。
なお、「お酒の前に牛乳を飲めば酔いにくくなる」という説もありますが、胃に膜が張られるというのは根拠のない俗説で、効果はほとんど期待できません。
■寝る前のアルコールは睡眠の質を下げる
「寝つきが悪いときは寝酒をするとよく眠れる」と信じている人は多いですが、実際にはこれは科学的根拠に乏しい民間療法の一つです。たしかにアルコールには神経の緊張をほぐす作用があるため、一時的に眠気を誘発する効果はあります。寝つきが良くなるという点では、効果があるように思えるかもしれません。
しかし数時間たつとアルコールは代謝され、交感神経の働きが活性化します。その結果、眠りが浅くなり、夜中に目が覚めやすくなるのです。加えて、アルコールには利尿作用があるため、夜中にトイレに行きたくなったり、喉の渇きで目覚めたりと、結果的に睡眠の質を下げることになります。
これに加えて問題なのが、寝酒が習慣化することによる“耐性”の発生です。毎晩のように寝酒をしていると、体がその量に慣れてしまい、以前と同じ量では効果が得られにくくなります。特に少量の寝酒ではその傾向が強く、次第に酒量が増えていくリスクがあります。これが長期的に続くと、健康に深刻な影響を及ぼすことにもなりかねません。
■睡眠時無呼吸症候群の人は絶対にNG
また、睡眠時無呼吸症候群などの疾患がある人にとっては、寝酒はさらに危険です。アルコールに含まれるエタノールは、呼吸を抑制する作用があり、無呼吸の状態を悪化させる可能性があります。このような症状がある人は、寝酒を完全に避けるべきです。
さらに、睡眠不足は見た目の老化にもつながります。食欲を調整するホルモンである「レプチン」と「グレリン」のバランスが崩れると、食べすぎを招き、太りやすくなってしまいます。質の悪い睡眠が続くと、細胞の修復や再生が行われず、肌や内臓の老化が進みやすくなるのです。
睡眠はただ長く眠ればいいというものではなく、深く質の良い眠りが必要なのです。寝酒はその質を確実に下げてしまう“悪習慣”であることを、まず理解しなければなりません。
■若々しい顔を保つために「よく噛む」
「よく噛んで食べなさい」と教えられた記憶がある人は多いでしょう。噛むことは消化を助けるだけでなく、大人になってから気になる顔のたるみを防ぐうえでも重要です。
顔の筋肉は薄くデリケートで、マッサージ器などで過度に刺激すると逆に筋肉が伸びてしまい、たるみの原因になることも。美顔器よりも、毎日の食事中にしっかり噛むことの方が、筋肉を自然に鍛える方法として効果的です。
おすすめは、レンコンやゴボウ、タコ、エリンギ、イカなどの噛みごたえのある食材を大きめにカットして取り入れること。また、糸寒天や切り干し大根、糸こんにゃくなどの歯ごたえがある食材も、顔の筋肉をしっかり使えるので有効です。
早食いは避け、毎食ゆっくりとよく噛んで食べることが、たるみを防ぐ近道となります。
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白澤 卓二(しらさわ・たくじ)
白澤抗加齢医学研究所所長、お茶の水健康長寿クリニック院長
医学博士。お茶の水健康長寿クリニック院長。白澤抗加齢医学研究所所長。テレビや雑誌、書籍などのわかりやすい健康解説が人気。『Dr.白澤の アルツハイマー革命 ボケた脳がよみがえる』(主婦の友社)、『脳の毒を出す食事』(ダイヤモンド社)、『「いつものパン」があなたを殺す』(訳・三笠書房)、『「お菓子中毒」を抜け出す方法』(祥伝社)など、著書・監修書多数。
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(白澤抗加齢医学研究所所長、お茶の水健康長寿クリニック院長 白澤 卓二)
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