スーパーフードは本当に健康効果が高いのか。ハーバード大学診療所で治療に携わった精神科医のジョージア・イード氏は「認知機能の改善や抗がん作用などが喧伝されているが、多くはマーケティングの産物で根拠がないものも少なくない」という――。

※本稿は、ジョージア・イード著、大田直子訳『ハーバード式脳を最適化する食事法』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■マフィンに入れるとおいしいから一転スーパーフードに
色とりどりの植物を食べることで、認知症のような恐ろしい病気から身を守れる可能性が少しでもあるのなら、安全第一でいこうではないか。マーケティングの専門家は、あらゆる予防措置を講じたがる人びとの欲求を理解し、健康に対する希望と不安を食い物にする。
自分たちが売る植物性食品をただの食品(必須栄養素の源)としてではなく、健康にスーパーチャージするスーパーパワーのあるスーパーフードとして考えるように促すのだ。ブレインフードのスーパースターにスピード出世したもの、具体的にはブルーベリー、ダークチョコレート、赤ワインを詳しく見ていこう。
ブルーベリーは1990年代半ばに、いきなりスーパーフード界に出現した。野生のブルーベリーが抗酸化作用のORAC尺度(※1)で1位になったという通知を受けると、北米ワイルドブルーベリー協会(WBANA)はマーケティング戦略を大改造するチャンスに飛びついた。
当時のWBANA事務局長によると、以前の戦略では「ブルーベリーを売ろうとする理由はマフィンに入れるとおいしいからだった。……健康のことなどレーダースクリーンに映ってさえいなかった(※2、10)」。この転機の瞬間の歴史を調べて、アウトサイド誌の記者ダグ・ビーレンドが次のように書いている。
「ブルーベリーの抜け目ない宣伝は、健康食品に執着する時代の先導役を助けようとしていた。そして私たちは今日、まだその時代を生きている。
もはやただのおいしいおやつでもバランスのいい食事の一品でもなくなったブルーベリーは、がんと闘い、炎症を迎え撃ち、認知機能を防衛するものとして知られるようになった――ひと粒ひと粒が栄養の海軍特殊部隊員なのだ。……スーパーフードの誕生である(11)」

※1.1992年に米国農務省と国立老化研究所によって開発された抗酸化力を示す数値のこと

※2.参照文献については、朝日新聞出版公式書籍紹介ページ「原著の原注(Notes)」第14章を参照

https://publications.asahi.com/design_items/pc/pdf/product/25421/notes.pdf
■ブルーベリーにスーパーパワーはあるのか
アメリカのブルーベリー消費量は1999年から2014年までに599%増加し(12)、イギリスではブルーベリーがスーパーフードとして宣伝されると、売り上げがわずか2年で倍増した(13)。
ブルーベリーのスーパーパワーは「アントシアニン」と呼ばれる青紫色のポリフェノールにあると一般に考えられている。ところが、この美しい色素は生物学的利用能が低い。およそ3分の1が消化管内で壊され、私たちが吸収できるものの大半は急速に体から排出される(14)。
2019年に発表された12件のヒトによるRCT※のレビュー論文は、ブルーベリー摂取が認知と気分に与える影響を調べた研究の結果はまちまちであり(15)、解釈が難しいと結論づけている。食料品店で見かけられるような丸ごとのブルーベリーを科学者が使うことはまれである。
使うのはフリーズドライのブルーベリー、ブルーベリーエキス、ブルーベリー果汁、そして砂糖水やソーダやジュースや牛乳にブルーベリーの粉末を混ぜたものであり、こうしたブルーベリーによる介入は適切な対照群と比較されるとはかぎらない。たとえば、ある研究ではブルーベリー濃縮物を、砂糖と2種類の人工甘味料の入った(ノンアルコールの)フルーツ「コーディアル」と比較している(16)。
※無作為化比較試験のこと
■美味しいし見た目はきれいだが
著者が下した結論では、彼らのレビューがもたらす「ブルーベリーを使う介入への支持は限定的だが、これを効能がないことの決定的証拠と解釈するべきではなく、既存の限界を解消するためにさらなる試験が必要とするべきだ(17)」。言いかえれば、証明できないからというだけでは、事実でないということにはならないのだ。
では、ブルーベリーはほかの果物より健康にいいのか? ブルーベリーに含まれる主な微量栄養素はビタミンC、ビタミンK1、マンガンだが、それぞれがブルーベリーより多い果物を見つけるのは容易だ。

たとえばイチゴにはビタミンCが7倍含まれていて、糖分は半分だ(18)。ブルーベリーはきれいでおいしいが、他に類のない健康上のメリットがあるという証拠はない。
■次なるスーパーフード、ダークチョコレート
ダークチョコレートがスーパーフードに格上げされ始めたのも1990年代で、ハーバード・メディカルスクールの放射線学教授のノーマン・ホレンブルクが、パナマ沖の島で暮らす先住民のクナ人は本土の隣人より、心臓病、2型糖尿病、脳卒中、がんの罹患率がかなり低いことに気づいたときである。この島民は海の向こうにいる不健康な人たちと比較して、「カカオを含む飲みものを10倍、魚を4倍、果物を2倍」摂取していることに注目し、彼の研究グループは「さらなる研究の候補」としてカカオにねらいをつけた(19)。
そしてクナのカカオは苦味のある「フラバノール」(ポリフェノール)が、市販されているカカオ製品(ちなみに口当たりを良くするためにフラバノール含有量を減らすように加工されていた)よりはるかに豊富であることを発見し(20)、ホレンブルクはマース社※と提携して、臨床試験でテストするために、フラバノールに富む特別なカカオ製品を開発した。2003年に行なわれた最初の研究で、フラバノールに富むカカオは、70代と80代の健康な人だけでなく健康な若者でも、脳の血流を改善することが明らかになった(21)。
※M&M’sミルクチョコレートなどで知られる、米国の大手食品会社
■血流を改善する効果は判明した
それ以降、マースその他のチョコレートメーカーは数多くの研究に資金提供して、高齢者の思考と記憶に対するカカオの潜在的メリットを探っている。ほとんどの研究はダークチョコレートそのものを使ったわけではなく、実際に使った数少ない研究では脳の健康メリットが見つからなかったことを理解しておかなくてはならない。
ほとんどの研究者は特許のフラバノール強化カカオ粉末を飲みものに混ぜるか、フラバノール強化カカオエキスの入ったカプセルを使っている。このような高フラバノールのカカオの実験では、認知テストで改善が見られる場合もあれば、見られない場合もあった(22)。
私たちは摂取するカカオフラバノールの約80%を吸収するが、そのあとすぐにほかの分子に変え始め、それが脳に入る可能性があるかどうかは不明である(22)。とはいえ、脳に入る必要はないかもしれない。
なぜならメリットのいくつかは血管を広げる能力に関係していて、それが脳への血流を改善する可能性があるからだ。脳の血行がいいほど、脳が受け取る酸素と栄養素は多い。
■チョコによってフラバノールの量が違う
ダークチョコレートそのものを食べることが認知力や記憶力を改善する証拠はないが、もしあなたが根っからの楽観主義者だったら、あるいはただチョコレートをもっと食べる理由を探しているだけならどうだろう? 研究で使われたフラバノールの投与量は、1日500~900ミリグラムだった。その量をチョコレートだけで得る方法はあるのか?
レディング大学の研究者チームが41種類の板チョコを検査したところ、フラバノール含有量は大きく異なり、1グラム当たりわずか0.1ミリグラムから3.2ミリグラムまで、30倍以上の開きがあることがわかった(24)。
ダークチョコレートの板チョコはすべて、どのミルクチョコレートの板チョコよりもフラバノールが多かったが、ダークチョコレートの板チョコのなかでは、それぞれのカカオの割合とフラバノール含有量に関係はなかった。したがって、好みの板チョコにどれだけのフラバノールが含まれているかを知るすべはない。
■1日50枚の板チョコを食べなければいけない場合も
カカオの割合が高い板チョコを選ぶ唯一のメリットは、たいてい含まれる砂糖がはるかに少ないことである(思い出してほしい。砂糖は酸化ストレスの強力な促進因子なので、チョコレートを食べる場合は、必ず低糖のブランドを選ぶこと)。
幸運にも好きなブランドが、たまたま含有フラバノール濃度が最高のもの(1グラム当たり3.2ミリグラム)であるなら、そのチョコレートを156グラム――サイズにもよるが、だいたい1枚半――食べれば、研究で使われたフラバノールの最小投与量に到達する。
しかし不運にも、好きなブランドの濃度が最低(1グラム当たり0.1ミリグラム)なら、最小投与量に達するのに5000グラムが必要だ――1日50枚の板チョコだ。大のチョコレート好きにとっても無理難題である。
■赤ワインやブドウも健康に良いと言われるが
赤ワインには、ブドウの赤い皮に「レスベラトロール」が存在するおかげで、心血管と脳へのメリットがあると信じられている。
レスベラトロールは抗酸化特性のあるポリフェノールであり……そしてブドウの木が灰色カビ病と闘うために生成する殺菌剤である。灰色カビ病が厚かましくもブドウに侵入すると、レスベラトロールが内側からそれを入念に分解し始め、最終的に「ミトコンドリアのかすかな痕跡を除いて、認識できる細胞構造は残らない(25)。
レスベラトロールが抗酸化物質に仲間入りしたのは、1997年、マウスで皮膚腫瘍の進行を遅らせる可能性があることを、科学者が発見したときである。赤ワインに抗がん性の化学物質が含まれているかもしれないという考えは、一般大衆を夢中にさせ、赤ワインの売り上げが急増した(26)。
それ以降、期待を寄せる研究者たちは、アルツハイマー病を含めてありとあらゆるヒトの病気に関してレスベラトロールを検査しているが、結果は期待はずれだ(27)。軽度から中程度のアルツハイマー病患者を対象とした、数年にわたるレスベラトロール(1日500~2000ミリグラム)の臨床試験で、認知に対するメリットは見つからず、ある研究は脳にかなりの縮小さえ記録している(28)。
■ワインを1日500本も飲めない
留意してほしいのは、あなたがいちばん興味をもっているのはおそらく赤ワインについてなのに、すべての研究が使うのはレスベラトロールであることだ。残念ながら、認知機能不全やアルツハイマー病の人に対する赤ワインの影響をテストする研究はない。これにはたくさんの理由があり、とりわけ重要なのは、臨床試験で使われるレスベラトロールの最低投与量に達するために飲む必要のある赤ワインの量は、1日500本だということである。
一般的なピノ・ノワール1本に含まれるレスベラトロールは1ミリグラム未満であり(29)、そのたった1ミリグラムのレスベラトロールがアルコールの海を泳いでいる。アルコールは酸化ストレスの強力な促進因子(30)であり、まさに科学者がレスベラトロールでやっつけようとしている標的なのだ。
短時間の大量飲酒(定義は女性で2時間以内に4ドリンク[1ドリンク=純アルコール量10グラム]以上、男性で5ドリンク以上)も通常の大量飲酒(定義は女性で一日に1ドリンク超、男性で2ドリンク超)も、心身の健康にとって危険であることに疑問の余地はない。

WHOの推定によると、有害なアルコール使用は200種類以上の身体疾患の原因因子であり、世界中で毎年300万人以上の死に関与している。しかし、この限度量未満でアルコール摂取を続けた場合はどうなのか? 夕食に赤ワインを一杯飲むぐらいであれば安全なのか、ひょっとすると健康に良いのか?
■30年以上にわたる誤りの始まり
肝臓に入るアルコール分子はどれも最優先の毒として扱われる(30)。肝臓はアルコールが入ってくるのに気づくとすぐ、それを取り除くことに集中できるように、ほかの重要な仕事、たとえば血流のためのブドウ糖をつくったり、エネルギーのために脂肪を燃やしたり、といったことを中止する。
この代謝の狂いは異常な脂肪の生成と肝臓内蓄積を引き起こす可能性があり、それが最終的に、飲みすぎの人たちのアルコール性脂肪肝疾患につながるおそれがある。アルコールを解毒するプロセスはミトコンドリアを有害な炎症と酸化ストレスにさらす――肝臓だけでなく脳でも(31)。
そもそも、どうしてアルコールという、筋肉の協調、判断力、記憶を損なうことで悪名高い有毒で依存性のある液体が、認知症予防と結びつけられるようになったのだろう?
基本的に、地中海北岸の料理と文化に魅了された栄養疫学者のグループが、この地域の民族はアメリカ人より健康に見えることに目をとめ、赤ワインが彼らのライフスタイルの一部であることに気づき、赤ワインの存在が彼らの健康の一因であるはずだと憶測した(ひょっとすると願った?)からである(32)。
そのため、1993年にウォルター・ウィレット教授が初めて地中海食の構想を明らかにしたとき、穀類を重視するピラミッドの隣に一杯の赤ワインが添えられていた(33)。地中海食の健康メリットに赤ワインが貢献しているという憶測は、ヒトによる臨床試験で検証されたことがなく、科学者と政策立案者と一般大衆を30年以上のあいだ、誤った方向に導いている。
■体の脅威になる物質がスーパーフードと言われる理由
赤ワインは脳を健康に保つ飲みものではない。なんらかのメンタルヘルスの問題を抱えていて、程度にかかわらずアルコールを飲んでいるなら、少なくとも30日は飲むのをやめることをお勧めする。そうすれば、現在のアルコール使用が気分や睡眠、集中力、生産性、そして健康全般に、どう影響している可能性があるかを評価できる。
体が必要とせず、断固拒否することすら多い分子が、健康のスーパーヒーローとして称賛され続けてしまうのはどうしてなのか? こうした矛盾が生じることは理解できなくもない。
なにしろ、祖先の知恵をひもとくと薬効成分を有する植物もあるとされていて、それが事実であることはたしかなのだ。
植物化学物質は脅威になると同時に治療の助けにもなる可能性があり、「スルフォラファン」――ブロッコリーが生成するイソチオシアネート――は、この見かけの矛盾の好例である。
■ブロッコリーに含まれるがん細胞を殺す成分
平和に畑に植わっているときのブロッコリーは、スルフォラファンをいっさい含まない。この刺激分子は(ブロッコリーの細胞も含めて)生きた細胞にとってきわめて毒性が高いので、植物は自らの安全を保つために、この分子をつくるのに必要な2種類の材料を別々の区画で蓄える。しかし、ブロッコリーが切られたりかみ砕かれたりすると、その区画がこじ開けられ、2つの材料が混ぜ合わされ、スルフォラファンという殺虫剤の「カラシ爆弾」をつくり出す(35)。
スルフォラファンは昆虫の消化管内膜を貫通し、昆虫が成長し繁殖するのに必要とする重要なタンパク質を分解し始める。「スルフォラファン」という言葉を検索エンジンに入力すると、抗炎症と抗酸化の能力を称賛する記事が何ページも出てくる。その能力のおかげで、がん細胞を殺し、脳を有害な酸化ストレスから守り、精神疾患を治すことができるというのだ。
しかしスルフォラファンそのものは抗酸化物質ではなく、炎症に対して無力だ。結局、細胞を守るのではなく損なうように設計された化学兵器であり、ヒトの体はそのことを知っている。遭遇するスルフォラファンの約75%を吸収するが、それが細胞内に入るとすぐ、抗酸化系がすばやく動き出し、できるだけ速く拘束し、中和し、体から排出するので、およそ9時間以内にすべて消える(36)。
たとえば、がん予防の研究で示されるメリットはどれも、直接の要因はスルフォラファンそのものではなく、体に備わっている健康を守るメカニズムを作動させる能力によるものであることは、よく知られている。
■一方でがんの進行に悪影響を与える場合もある
スルフォラファンは血液脳関門も通ることができ、新たな研究は、それが特定の精神疾患のためになりえると示唆している。たとえば、心臓病の病歴がある66人を対象とする6週間のRCTが、スルフォラファンの錠剤は偽薬より、軽度から中程度の鬱病の症状を和らげることを明らかにした(37)。子どもと成人の自閉スペクトラム症へのメリットを実証する研究も増えている(38)。
スルフォラファンは食品ではなく、ブロッコリーから抽出された薬であり、食品由来であれ製薬会社の製品であれ、すべての薬はリスクをともなうので、本当に必要な場合にのみ使うべきである。たとえば、スルフォラファンが防御経路を過剰に刺激し、まちがった方向に天秤を傾け(39)、がんの進行を促すおそれがあることを示す研究もある。
「食は薬」という概念は考え直される必要があるかもしれない、と私は思う。食品の目的は、栄養と活力を与える分子を供給することによって、ヒトの正常な生物学的機能を支えることだ。薬の目的は、食品由来であれ工場製品であれ、ヒトの正常な生物学的機能に干渉することなので、標的を絞った介入が必要な病気にかかっている場合にのみ検討されるべきだ。食品と薬の境界のあいまいさは、スーパーフードに関する人びとの希望的観測を強め、スーパーフード業界を儲けさせるものである。

----------

ジョージア・イード
精神科医

ハーバード大学で研鑽を積んだ栄養・代謝精神医学を専門とする精神科医。医学部進学前はボストンのジョスリン糖尿病センター、ミュンヘンの糖尿病研究所ほか生化学、免疫学、および代謝分野の学術研究所に勤務。20年にわたる精神科の臨床経験があり、そのうち12年間はスミス・カレッジおよびハーバード大学診療所でメンタルヘルス専門家として学生を診療。精神科薬に代わるものとして初めて、栄養学にもとづく治療を提案した。『サイコロジー・トゥデイ』誌および自身のウェブサイト「Diagnosis:Diet」に食品と脳に関する記事を執筆するほか、栄養科学、栄養政策改革および精神疾患への栄養的アプローチについて、世界を舞台に10年以上講演を続けている。

----------

(精神科医 ジョージア・イード)
編集部おすすめ