消費者に刺さる新商品を生み出すにはどうすればいいか。国内最大級のシェアリングサービス・キャリーオン創業者の吉澤健仁氏は「顧客となってほしい人物像として“特定のある1人の姿”をイメージするといい。
カルビーの『じゃがビー(Jagabee)』が成功した秘訣もそこにある」という――。
※本稿は、吉澤健仁『お金をかけずに売れる仕組み大全』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■「架空の理想顧客」を設定し解像度をアップ
自社の商品やサービスは、どのような顧客を対象にしているのか。ターゲットをはっきりと狙い定めるために大切なのが「ペルソナ設定」です。
ペルソナとは「自社の商品・サービスを使ってくれるであろう典型的なユーザー像」、すなわち「顧客のモデル像」です。このペルソナを具体化・明確化することで、顧客のニーズに沿った商品戦略・マーケティング戦略を進めることが可能になります。
そもそも、ターゲットとペルソナはどう違うのか。
ターゲットとは、だいたい性別や年齢層などざっくりとした顧客の属性を表すことが多いですが、ペルソナは、どういう暮らしをするどんな人物像に買ってほしいかというところまで、より具体的に絞り込んで考えます。
顧客を漠然とイメージするのではなく、具体的な特徴を持つ人物像として明確に設定するわけですね。
具体的なイメージができるほど、「こういう人物だったら、こういうものを求めるのでは?」「こういうことに困っているのでは?」と、顧客のニーズを深く考えられるようになるのです。
また、ペルソナ設定で顧客の人物像が鮮明になることで、商品開発やマーケティングに携わる人みんながイメージを共有しやすくなる、というメリットもあります。
■ペルソナ設定のための「4つの視点」
ペルソナを設定する際には、「職業」「居住地」「性格」「趣味」「交友関係」など多岐にわたる項目について、解像度を上げて詳細に顧客像をイメージします。

と言っても、勝手な思いつきで決めていいわけではありません。顧客となってほしい人物像として、「特定のある1人の姿」が浮き彫りになるように考えていくのです。
方法としては、次のような4つの視点から掘り下げていくと、1人の人物としてイメージを固めながら、具体像を描いていくことができます。
①どんな属性か?

・性別 ・年齢 ・職業 ・収入 ・家族構成 ・居住地 など
②どんなパーソナリティー(個性・人柄)か?

・性格 ・価値観 ・口グセ ・悩み など
③どんなライフスタイル(生活の過ごし方)か?

・1日の過ごし方 ・趣味 ・交友関係 ・情報収集の方法

・よく使っている機器、デバイス など
④どのように自社の商品・サービスとかかわっているか?

・自社の商品やサービスを知るきっかけ、経路

・共感を抱くポイント

・購入を決める、妨げるポイント

・購入後に得られる効果や効用 など

イメージが強固になるほど、その「特定のある1人」が欲しくなるものを想起しやすくなります。
では、その商品・サービスを、どんな流通経路に乗せるのがいいのか。どんなメッセージを発することで、認知してもらいやすくなるのか。どうすれば満足度が上がるのか。どうすれば繰り返し使ってもらえるようになるのか。販売戦略として何をすればいいのかを具体的に詰めていきやすくなります。
より多くの人に売れるようにしたい。そのために「たった1人」をイメージすることは、一見逆説的に思えるかもしれません。しかし、そこに向けて具体的に考えることで、多くの人の心に刺さる商品を生み出すことができるのです。

■具体例:カルビー「じゃがビー」
スナック菓子メーカーのカルビーの「じゃがビー(Jagabee)」は、ペルソナを明確に設定して成功した商品でした。
カルビーには、「10代~30代の独身女性の3割がスナック菓子から遠ざかる」というデータがありました。老若男女、オールラウンドに受ける商品を開発するためには、まさにこの10代~30代の独身女性層にも買ってもらえるようにしなくてはならないということで、この層をピンポイントとするペルソナを設けることにしたのです。
そして考えられたのが「東京都文京区に暮らしている27歳の独身女性、スポーツ好きで、今はヨガと水泳に凝っている人」でした。スナック菓子を、いちばん購入してくれないであろうペルソナを設定し、「こういう女性が手に取り、繰り返し購入したくなるポテト系スナック菓子はどんなものだろう?」と考えて商品開発に取り組んだのです。
その結果、塩分控えめながらも“じゃがいもの味がちゃんとする”じゃがビーが生まれたのです。パッケージも、自然派志向の人に好感を持ってもらいやすいよう、既存のポテト系スナック菓子とは異なる落ち着きのある色味にしました。
その結果、2006年に発売されると、じゃがビーは一時生産が追いつかないほどの大ヒット商品になりました。最も獲得が難しいターゲットをペルソナに設定することで、長年の定説を覆し、万人が買いたくなる商品を生み出すことができたのです。
■消費者のニーズは「3種類」
何が売れるかを知るには、まず消費者のニーズ(欲求)を知らなければなりません。
人がモノを買いたくなる背景には、「顕在ニーズ」「潜在ニーズ」「インサイト」という3層の感情があると考えられています。
・顕在ニーズ

消費者本人が必要性や欲求をはっきり意識しており、「こういうものが欲しい」「こういうことがしたい」と言語化できる
・潜在ニーズ

欲しいという感情はあるものの、具体的に意識できておらず、言語化できない。
ただし、問いかけられたり会話をしたりする中で、何を求めているかに気づくことができる
・インサイト

言語化できず、問いかけや会話の中でも認識できていないものの、実は本人自身も気づいていない深層心理にある欲求

これだけ読むと、潜在ニーズとインサイトの違いがややわかりにくいかもしれませんね。例えば、何がどういいかを言葉で説明できないけれど、「なんか好き」とか「しっくりくる」と感じるようなものが潜在ニーズ。
一方、本人はとくに欲していなかったけれど、食べてみたらすごく気に入った、というようなものがインサイト。こう考えると、違いが区別しやすくなるのではないでしょうか。
「インサイト(insight)」とは、直訳すると「洞察」「発見」「物事を見抜くこと」といった意味です。マーケティングにおいては、「消費者が本当に欲しているものやこと」「隠れた本当の欲求」という意味で使われています。
つまり、行動や意思決定のあり方から顧客自身ですら気づいていない心理を洞察し、本当に求めているものや必要なものを発見する――それがインサイトなのです。
顕在・潜在ニーズは「何を」欲しているかに焦点があたりますが、インサイトは「なぜ」それが欲しくなるのかに着目点が置かれます。そういう新領域を見出して商品開発できると、これまでにない革新的な製品やサービスにつながる可能性があります。
■具体例:ファミリーマート「コンビニエンスウェア」
インサイト発見の成功例の1つが、コンビニチェーンのファミリーマートで扱っている「コンビニエンスウェア」です。とくにファミマのソックスシリーズは、累計約2200万足(2024年10月末時点)も売れている大ヒット商品です。
従来、コンビニで扱っている衣類というのは、急場しのぎとして必要に迫られて買うという需要がほとんどで、購買層は男性中心でした。

では、ユーザーは必要に迫られて買った商品に満足できているのだろうか。そこからインサイトを考えることにしました。
そして、「代用品として」「仕方なく」購入する商品として売るのではなく、「日常的に愛用したくなる」商品、「これが欲しいからファミマに行く」と言ってもらえるような商品を開発することにしたのです。急場しのぎにやむなく買うのではなく、“目的買い”してもらえるものを――コンビニ衣料の常識を変えた発想でインサイトをつかみ、大ヒットにつながったのです。
■具体例:P&G「ファブリーズ」
P&G社の「ファブリーズ」は消臭剤の定番商品です。トウモロコシ由来の消臭成分によって悪臭を絶つ効果のある製品として、1990年半ばに開発されました。販売開始当初は「日常の嫌なにおいを消す」というコンセプトで広告宣伝をしました。
当時は消臭剤というと化学成分のものばかりで、天然由来の商品はほとんどなかったため、画期的商品としてヒット間違いなしと予測したにもかかわらず、売上は一向に伸びません。マーケティングチームは、消費者を訪問して詳細な調査を実施します。
その結果わかったのは、ペットのいる家庭や喫煙者のいる家庭では、においが常態化していて鈍感になってしまい、「日常の嫌なにおいを消す」という発想があまりないことが判明したのです。
そこで「嫌なにおいを消す」のではなく、「日常にフレッシュな香りを加える」という打ち出し方に変更して宣伝活動をしたところ、売上が大きく伸びたのです。その結果、当初想定していた「日常の嫌なにおい」を取り除きたい層にも愛用されるようになったのです。

■具体例:日清食品「カップヌードル リッチ」
カップ麺の大手メーカー日清食品では、60代以上のシェア拡大を図るにはどうしたらいいかを考えていました。なぜなら顧客アンケートから、60代になると「健康志向」が強まり、カップ麺から遠ざかってしまう傾向があることが顕著だったからです。
しかし、食の傾向を把握するためにSNS投稿をチェックしてみると、新しいことに意欲的で行動力もあるアクティブシニア層は、豪華な高級料理の写真が並んでいることが多いことに気づきました。
そこから、「シニア層は健康への意識も高いけれども、同時に本格的で贅沢な味わいを楽しめるものを求めている」というインサイトを発見しました。このインサイトに基づき、フカヒレやスッポンなどの高級食材を使った「カップヌードル リッチ」を開発したところ、発売から1カ月で600万食を突破するヒット商品となりました。
もともとシニア層向け戦略として開発されたものですが、「贅沢な味わい」「本格的でおいしい」ものを欲している幅広い層の人たちに受け入れられたのです。セオリーに留まらず、インサイトによって開発されたこのシリーズは、ロングセラーとなっていたカップヌードルに新しい可能性を広げました。
以上のように、ターゲットを具体化・明確化し、消費者のニーズをつかむことで革新的な製品やサービスを生み出すことができます。ぜひ参考になさってください。

----------

吉澤 健仁(よしざわ・けんじ)

シリアルアントレプレナー

1981年、大阪生まれ。同志社大学法学部卒業。新卒で資生堂に入社し、化粧品の販売業務に従事。
その後、WEBサイトの企画・制作・プロモーションを行うエストを創業し、代表取締役に就任。WEBサービスの立ち上げ支援、ECビジネスのコンサルティングなどに従事。2013年5月、キャリーオンを設立し、子供服のシェアリングプラットフォームを創業。子育てママに人気のサービスに成長し、約10万人の会員と買取点数100万点を超える規模に拡大。子供服の二次流通では国内最大級のサービスとなる。2021年8月、M&Aで同社を売却。環境省グッドライフアワードの実行委員会特別賞、「ソーシャルプロダクツ・アワード」の環境大臣特別賞などを受賞。東京都立図書館協議会委員や山梨県山梨市・大阪府寝屋川市・京都府亀岡市・北海道北広島市など地方自治体のアドバイザーも務め、大企業からスタートアップまで幅広くマーケティングのコンサルティング・施策実行を支援している。

----------

(シリアルアントレプレナー 吉澤 健仁)
編集部おすすめ