※本稿は、山下明子『食べる瞑想 幸せな毎日が続く新しい心の整え方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■ゆるく食材選びのポイントを知り健康を維持する
何を食べたら健康でいられるか、というのは永遠のテーマです。
でも、「あれは体にいい」「これは体に悪い」などのレッテルを貼ることは「食べる瞑想」には適していません。「これは体によくないものだ」と細かいことに目くじらを立てていては、毎日の食事が楽しめなくなり、心が疲れてしまいますからね。
しかし、健康を無視した食材選びをしていいかというと、それも自分を大切にしない行為なので、結局体調不良を招いてしまうことになります。
そこで、緩くていいので、食材選びのポイントを知っておくといいでしょう。
その際には、YouTubeやInstagramなどのインパクトのある情報に流されるのではなく、古の知恵やあなたの経験を大切にしてもらいたいと思います。
■和食は食物繊維が豊富で、中性脂肪の増加を抑える
健康長寿に深く関わると昔から言われているものに、和食があります。
日本を長寿大国にした要因であり、近年の疫学研究によっても「地中海食」(和食に近い食事)が健康にいいことが明らかになりました。
ぜひ、この和食を積極的に食べていただきたいのです。
ちなみに、和食にも蕎麦や寿司などいろいろありますが、本項で触れるのは、ご飯と味噌汁とおかずといった、和食の基本と謳われている一汁三菜です。
そんな和食がポイントになる理由を、二つに絞って説明します。
一つ目は食物繊維の豊富さです。大根やにんじん、ごぼうなどの根菜類や大豆製品、海藻類など、和食には食物繊維をたっぷり含む食材が多く使われています。
まず、食物繊維は腸内細菌のバランスを整え、お腹の調子をよくしてくれます。
さらに、炭水化物と一緒にとることで、食後の血糖値の急激な上昇を抑える効果も期待できます。炭水化物を単体で食べると血糖値は急上昇しやすくなりますが、食物繊維と一緒であれば、血糖値の上がり方はずっと緩やかになるのです。
加えて、中性脂肪や小型LDLコレステロールの増加も抑えてくれます。これらはどちらも動脈硬化を進行させ、脳梗塞や心筋梗塞といった深刻な病気のリスクを高めますが、食物繊維を積極的にとることで、これらのリスクを減らし、血管の健康を保つことができるのです。
■「朝食はご飯」をおすすめする理由
朝食はパン派ですか? ご飯派ですか?
じつは、ご飯とパンに含まれる食物繊維の量はそれほど変わりません。
しかし、私は朝食にご飯を食べることを強くおすすめします。
パンの場合はおかずなしでも食べられるので、食物繊維やタンパク質など、他の栄養素が不足しがちになります。それどころか、パンにジャムを塗ったり、甘いヨーグルトやバナナなどをつけたりして、さらに糖質を追加してしまっている場合も多いでしょう。
一方で、ご飯の場合、白米だけで食べる人はほとんどいませんよね。
和食が健康にいいとされるもう一つの理由は、発酵食品の豊富さです。日本は「発酵王国」と呼ばれるほど、味噌や漬物、納豆や醤油など、本当にたくさんの発酵食品に恵まれています。
これらの発酵食品を作り出すのは、乳酸菌や酢酸菌、麹菌や酵母菌、納豆菌といった目に見えない微生物たち。これらが食品を発酵させることで、味や香りが豊かになり、栄養価がぐっと高まるのです。例えば納豆は、大豆(ゆで)の状態で食べるよりもビタミンB2は3.7倍、葉酸は3倍、ビタミンKはなんと124倍に増えるとされています。
さらに、納豆にはポリグルタミン酸という粘りのもとになっている成分がありますが、これは食後の血糖値上昇を抑制してくれることがわかっています。
■パンより面倒な分、和食は恩恵も多い
加えて、日本には四季折々の食材を生かした料理が数多くあります。
旬の食材を通して季節を感じられる和食を味わうことは、今このときを深く感じる力を高めてくれます。
タケノコを食べて春の訪れを感じるような「季節を愛でる感性」を、和食は育んでくれるのです。
このように、和食は栄養価がとても高く、多くのメリットがあります。
そして、朝食をご飯派にするだけで、その恩恵を受けることができるのです。
たしかに、パンを食べるよりも面倒に感じてしまうかもしれませんが、体が喜ぶ食材を選んで季節を愛でながら朝ごはんを食べれば、心も体も気持ちのいい一日のスタートが切れるでしょう。
■体を動かせば自然とお腹は空く
食事と運動には深い関係があるため、切り離して考えるのはナンセンスです。
私は内科医として日々、診療にあたっているのですが「年を取ってから食事がのどを通らなくなった」というお悩みを、多くの患者さんから伺います。
ご本人ではなくご家族が心配して相談されることも多いのですが、よく聞いてみると食事がのどを通らない方は、日々の運動量が少なくなっている方ばかりです。
毎日元気に外を歩き回っていれば、食欲が落ちることはあまりありません。日常的に活動していれば、体がエネルギーを必要だと感じて自然とお腹はすくはずです。
逆に、あまり体を動かしていないため、それほど食べなくてもいいはずなのに、食べるのがやめられないという患者さんもいます。
これは、体が食べ物をそれほど必要としていないにもかかわらず、脳が「食べる」という快楽のとりこになってしまっている状態です。過剰な摂取が習慣化すると、結果的に肥満や糖尿病のリスクが高まってしまいます。
体を適度に動かして、食欲があり、必要な分だけを食べたら満足する。
これが、本来の正常な体の状態です。
■運動を「自動化」して日常生活に組み入れる
最近、あなたは運動をしましたか?
「まったくしていない」と思った方は、少し焦ったほうがいいかもしれません。
あまりに体を動かさないために、あなたは脳で食事をするようになっている可能性があります。
「今日はよく動いた。お腹がぺこぺこだ」と、体の疲労を感じて、もりもりご飯を食べる健康的な状態を忘れてしまってはいないでしょうか。
一日中座っていて、それほど動いていないのに、脳が疲れて甘いものが欲しくなり、おやつを食べすぎてしまうのは、健全な食欲ではありません。
毎日食事をするのと同じくらい、毎日体を動かすことが大切だということを心に留めておきましょう。
脳の疲労と違って、身体的な疲労には爽快感があります。私たちの体が、本来持っているはずの「動いた分だけ食べる」という感覚を思い出しましょう。
体を動かす量は、一日8000歩程度が理想とされています。
ただし、運動するために、わざわざ時間を作ろうとする必要はありません。
拭き掃除や掃除機がけを積極的に行ったり、エスカレーターではなく階段を使ったり、駐車場に車を止めるときに入り口からわざと遠いところに止めたりすれば、自然と体を動かす量は増えていきます。
このように、日常のルーティーンに「運動のきっかけ」を取り入れることができないか、よく考えてみましょう。運動を「自動化」させることで、むしろ時間をわざわざ確保して行う運動よりも長く続けることができます。
日常の中で運動を「自動化」させるアイデア
● 目的地の一駅手前で降りる
● 駅では階段を利用する
● 駐車場では、お店の遠くに車を止める
● よく使うものは、あえて少し離れた場所に置く
■「私は運動している」という感覚が健康の源
ここまでを読んで、一日8000歩も歩いていない人は「私は運動不足だ……」と感じたでしょうか。
たしかに歩数は運動の一つの目安ですが、じつは数字以上に、あなたの「意識」が健康効果に影響することも最新の研究からわかっています。
スタンフォード大学が6万人を20年以上にわたって追跡した研究によると、「自分は他の人より運動不足だ」と感じている人ほど、同程度の運動量の人と比べて短命だったという衝撃的な結果が出ています。
つまり、数字上の運動量だけでなく「自分は運動できていない」というネガティブな意識を持つこと自体が、健康には悪影響だというわけです。
同じくスタンフォード大学の別の研究では、普段から体を動かす仕事(ホテルのベッドメイキングなど)をしている人たちに「あなたの仕事は、健康にいい適度な運動と同じ効果がある」と伝えたところ、体重が減り、血圧が改善するといった変化が見られたそうです。
これらの研究結果から、たとえ歩数や運動量が少なくても、日常の中で少しでも体を動かす機会を「これは運動だ」とポジティブに捉えるだけで、体は確実にいい変化を見せてくれることがわかります。
遠回りが必要なとき、エスカレーターが故障しているとき……。
「ああ、面倒だな」と思うのではなく、「これは運動できるチャンス!」と捉え方を変えてみましょう。
■適度な運動は食事と同じくらい大切
特に「階段」は、私たちの日常に潜む最高の運動機会です。
2024年にイースト・アングリア大学の科学者たちが欧州心臓病学会で発表した、48万人分のデータをもとに行った解析によると、階段を使う人は、なんらかの原因で死亡するリスクが24%も低く、心血管疾患で死亡するリスクは39%も低かったそうです。
私が働いている病院では「階段は0円ジム」という貼り紙をして、スタッフが健康のために階段を使うことを奨励しています。
このように意識を変えるだけで、特別な時間や場所を確保しなくても、毎日の生活そのものが、最高の運動機会になるのです。
適度な運動は、食事に気を配ることと同じくらい大切です。
そして、あまり運動できていない人でも「運動不足だ」という意識は捨て、歩数などの具体的な運動量に一喜一憂するのではなく、日常の中で体を動かす機会を「運動だ」と捉え直すことから始めてみましょう。
----------
山下 明子(やました・あきこ)
医学博士
佐賀県生まれ。医療法人社団如水会今村病院副院長。脳神経内科医として6万人もの生活習慣病患者を診察し、「健康づくりを指導する専門家」として多くの信頼を集める。薬ばかりに頼るのではなく、一人ひとりが主体的に健康になれるよう、Well-being、マインドフルネス、栄養、運動、睡眠、脱依存、習慣化を組み合わせた多角的なアプローチを提唱。日本人間ドック学会専門医、日本抗加齢医学会専門医など、専門資格も多数。著書に『やせる呼吸』(二見書房)、『死ぬまで若々しく元気に生きるための賢い食べ方』(あさ出版)、『「やめられない」を「やめる」本』(小学館)などがある。
----------
(医学博士 山下 明子)